新しい働き方とは、「時間に対する考え方」を変えること:Re:Work !(3/3 ページ)
自分の時間をどう使うのか、人は自分自身の働く目的や希望を選択し直す時代がやってくる。そう考えていたとき、Webサービス「PIXTA」に出会った。会社に属しながらでも自分の趣味を生かした新しい仕事を発見できるチャンスかもしれない。
とはいえ場が提供されても、対価が得られなければ意味がない。「見てもらう」ことで満足するという人もいるかもしれないが、そこはやはり時間を費やしているのだ。多くの人々は、そこに収入を求めているだろう。
アマチュアカメラマンとしてPIXTAに登録しているAさん(匿名)。写真を本格的に撮り始めたのは、高校生のころだという。そのキッカケは、高校生時代の海外留学で「記念に」と撮影した写真が思った以上の好評で、米高校のYear Bookの写真を担当したことだった。
撮影した写真の利用方法を模索していたところ、ニュース記事でPIXTAの一般クリエイター募集を発見。Aさんは、すぐに登録した。2007年5月のことである。当時はPIXTAのサービス自体も使いづらさがあり、すぐに写真販売は行わなかった。初めて写真を登録したのは、2007年7月末。それほど間を置かず、同年9月には初めて販売実績が挙がった。それから6年以上が経った現在の出典数は、以下の通りである。
- 写真:8887点
- イラスト:3点
- 映像:170点
これまで3996回の販売実績を持ち、売上の累計は516万6450円。過去には、最高で月25万円を売り上げたというかた驚きだ。PIXTA登録時から比べると前年比で平均販売回数の伸び率は197%、平均販売額の伸び率は238%と増加している。
撮影に対する時間の使い方
もちろん、誰でもすぐに多くの売上を得られるわけではない。Aさんは人物や風景の写真が得意ということだが、写真撮影においては、下記のようなことを心掛けているという。
「どう使ってもらいたいかをイメージして、シャッターを切るように心掛けています。撮影前に撮影計画を作成し、スタジオを調べ、撮影計画に沿ったモデルさんを選んでいます。ベストな写真を撮れるように、モデルさんの良い部分を100%引き出すこと。撮影でシーンや場所を移動するときには、必ずモデルさんに写真の使用イメージなどを説明していますね」(Aさん)
普段は外資系企業のIT部門で、エンジニア職に就いているというAさん。仕事以外の空き時間を、以下のような内訳で撮影に利用しているそうだ。
- 撮影:月1回(6時間)
- 撮影準備(リサーチ):10時間
- 資料作成:10時間
- その他(撮影後の画像修正や登録、タグ付け)
写真は一度撮影すれば、継続的に販売することができる。こうして空き時間を利用し、少しずつ写真を増やしていったのだろう。普段は写真と関係のない仕事をしているのだから、確かにプロではない。
「撮影を辞めたとしても、収入がゼロになるわけではありません。売っても在庫が減るわけではないので、写真そのものの寿命が尽きる(=ニーズがなくなる)までは、売れ続けてくれるんですよね。でも、誰も何が欲しいのか言ってくれるわけではない。だからこそ努力するし、努力するから売上が伸びていくんですよ。今ある写真を土台として、新しい分野やシーン、モデルでの撮影にチャレンジできる。新しいことに取り組みたいという方にとって、PIXTAは魅力的な環境ではないでしょうか」(Aさん)
このコメントには、確かにと頷かされる。販売という形態において、これまでであれば確かに不思議なサービスだ。これも、インターネットサービスだからこそ実現するものなのだろう。
さらにPIXTAに対して、こんな話も聞かせてくれた。
「今は子どもの成長を写真に残したいという思いから、一生懸命写真に取り組んでいます。目標を持って取り組むことは、上達への近道ではないでしょうか。写真は上達するほどに良い機材が欲しくなりますし、なかなかお金の掛かる趣味です。しかしPIXTAのおかげで、写真のための費用は写真で稼ぐことができます。私にとってPIXTAは、子どもの成長記録をよりきれいな写真として残すための手段です。もちろん会社以外でお金を稼げるというのは、本当に楽しく感じます。しかしそれが目的ではなく、目標は子どもと遊び、家族と楽しく過ごすこと。生活費を稼ぐのは会社なんです。その目標達成のために、PIXTAを最大限使わせてもらっています」(Aさん)
同じ子を持つ身として、この言葉には非常に共感した。私はPIXTAが「空き時間で収入を得られる手段」と捉えており、それはやはり間違いではないと思う。しかしAさんにとってはそれだけにとどまるのではなく、家族を含めた幸せな人生を送るための手段として、PIXTAは位置付けられている。
またAさんにとって、PIXTAでの写真販売は仕事のストレスを発散する良い手段にもなっているようだ。会社員である以上、やはり職場でのストレスから逃れることは難しいのかもしれない。しかし写真を通じてそのストレスを発散し、本業であるエンジニアの仕事にも身を入れて取り組むことができる。これこそ、素晴らしい“働き方”なのではないだろうか。
PIXTAはモデルのキャスティングを行うなど、クリエイターにとって魅力的なサービスを付加価値として提供している。まだまだこのような『ストックフォト』のシステムは浸透度が低いというが、このような個人の“クリエイティブ力”はこれから更に広く求められるようになるだろう。
シンガポールへの法人設立もまた、PIXTAにとってブランディングを含めた施策といえる。これはエリアの拡大に伴い、登録クリエイターの活躍のまた、国内から世界へと広がったことになるだろう。
私も会社員だったころ、まずは副業として別の顔を持ち、会社への出社前や退社後、あるいは休日を利用して現在の仕事の土台作りに取り組んだ。とはいえ当時は「すぐにこれで独立しよう」と思っていたわけではなく、会社では得られない経験を積み、発揮できない力を発揮する場を求めていたにすぎない。
Aさんのように会社員と2つの顔を持って働く生き方、そして私のように独立して組織に属さず働く生き方は、どちらも正解ということではない。個々人にとって最適な働き方があり、PIXTAのようなサービスは双方にとって“時間の使い方”に新しい手段を提供してくれている。
時間というものは誰にとっても有限で、その長さなど誰にも分からない。だからこそ自分の時間は自分のものであり、その使い方もまた自らで選んでいくべきではないだろうか。「選べない」という人は本気で選ぼうとしていないか、「選べない」環境を自分で選んでいるだけ。これは、前回の「もっと“自分のため”に働こう」で書いた内容につながる。
PIXTAのサービスに触れ、そして直接ユーザーやサービス提供者からの話を聞く中で、“働く(収入を得る)”ということ、そして“時間を費やす”ことに対する社会的な変化をあらためて感じた。
著者紹介:三河賢文(みかわ・まさふみ)
1983年岩手県生まれ、宮城県育ち。人材コンサルティング会社、Web関連会社での勤務を経て、2010年6月にナレッジ・リンクスとして独立。「時間の自由」を第一としたワークスタイルを実践中。多くのSOHOやフリーランスワーカーとパートナー関係を持ち、業務機会の提供を行っている。プライベートでは2人の子どもを持ち、マラソンやトライアスロンにも挑戦。ITやビジネス全般を中心とした執筆活動も行う。
- Twitter:Masafumi_m
- ブログ:葛飾から自由を届ける!起業家の挑戦記
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