第6回 変化が激しい時代に、“経験”を“学び”にするコツ:“独立プロフェッショナル”の仕事術
変化が激しい今の時代、ちょっと油断していると、せっかく身につけたスキルや技術があっというまに陳腐化してしまいます。そんな時代のキャリア形成について考えてみましょう。
“独立プロフェッショナル”の仕事術
「情報収集」「企画」「交渉」など、独りで生き抜くためのプロフェッショナルの技は、組織で働く人にとっても役立つものがたくさんあります。
本連載では、独立したプロフェッショナルワーカーとして複数の企業と契約を結ぶインディペンデント・コントラクター(IC)※が、自ら培った技を、会社組織で活用するためのノウハウにおきかえてご紹介します。
※期限つきで専門性の高い仕事を請け負い、雇用契約ではなく業務単位の請負契約を複数の企業と結んで活動する独立・自立した個人のこと。
変化が激しい今の時代、ちょっと油断していると、せっかく身につけたスキルや技術があっというまに陳腐化してしまいます。そんな時代を生きている私たちは、キャリア形成においてどんな注意をすべきなのでしょうか。
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科の高橋俊介教授は著書『21世紀のキャリア論』のなかで、“想定外の変化への対応力”と“専門性の細分化・深化”の両面が求められると指摘しています。
例えば、企業の採算悪化にともなうリストラの一環として、ある分野からの撤退・事業の売却という変化もあれば、業務の外部委託化という形で効率化を図るという変化もあります。一方で、ITの急速な進化によって、新しい技術・理論の突然の出現もあり得ます。これらの“想定外の変化”がいつ起こり得てもおかしくない21世紀。ただし、その変化に対応すればするほど、これまで培った専門性がともすると通用しなくなってしまう可能性がある。とはいえ、専門性が高いことこそが、どの組織でもさらに強く期待される。
高橋氏は「この相矛盾するテーマに、どう取り組むかが大切である」と説いています。
このテーマに取り組む際のヒントは「のこぎり型の成長ライン」を意識すること。つまり、大きな変化に直面したときに、「これまで蓄積した専門性が使えなくなった」と嘆くのではなく、これまで培った中で“普遍性の高い能力”として使えるものが何なのかをしっかり考えることです。さらには、1つのことを究めるときには、その原理原則などから本質を理解しておくことも大切です。そうすることで、他の分野に新たに対応するときにも、その洞察力や思考方法が応用できるわけです。
専門性の高いプロフェッショナルとして顧客企業と契約している私たちインディペンデント・コントラクター(以下、IC)にとっては、この2つの課題への対処が重要なテーマとなります。専門とする領域が同じでも、顧客企業ごとに抱える課題も違えば解決手法も違ってきます。それどころか、その専門領域の関連事項における潮流変化や新たな技術・ノウハウの台頭などで、これまで通用していた知見が全く役に立たなくなる可能性もあるのです。
学びをストックする自問自答の習慣
では、ICとして独立している人々は、変化への対応と専門性の深化をどのように実践しているのでしょうか。端的にいえば、「経験からの学びをいかにストックし、応用形としてどう展開していくか」を“習慣化”することだと、多くのICが異口同音に答えます。どのような経験(成功/失敗)でも、案件がある程度終了した段階で、自分にとっての「学びが何か?」を必ずピックアップする習慣を持っているのです。
「今回の経験で、新たに何を身につけたのか?」
「(顧客の評価を知る前に)顧客から見た評価はどうだったのか?」
「今回の経験は、これからのどんな仕事に活かせるか?」
「もう一度この経験をするとして、再現性のある成果を出すポイントは何なのか?」
「この案件の難易度がもう少し高かった場合、さらにどんな工夫をしたか?」
「この領域のプロフェッショナルとして、新たに深化させたことは何なのか?」
専門性の高いICであればあるほど、学びの洗い出しを怠らずに実践しており、それが次の仕事につながっています。その結果、取引する業界が広がり、取引企業の企業規模や特性が変わり、活用するフレームやツールが増えるのです。活躍しているICの多くが独立当初に比べて専門領域の幅が広がり、提供できるサービスの引き出しが増え、取引企業の属性が広がっているのは、このような習慣による効用だといえます。
学びを言語化することによる引き出し作り
さらに重要なことは、その学びを“言語化”して残すことだと大半のICが言います。
言語化しておくことで、商談や打ち合わせの状況に応じて、その言語化した“引き出し”の中から、先方に一番伝わりやすい言葉を選んでアウトプットすることが可能になるのです。つまり、顧客や一緒に組むチームのメンバー、いつか案件を紹介してくれるであろう人脈に、自分の専門性を「印象的な言葉」として残せる“引き出し”を増やすための第一歩が、この“言語化すること”なのです。
その際の視点としては、
- 時代が変化しても変わらない
- 今の時代に合っている(変化に対応)こと
の2つが求められます。
1.については、その専門領域の原理原則を知っていないと、なかなか難しいでしょう。本質を理解したときに、初めて自分の言葉として表現できるものだと言えます。とはいえ、あらゆるものが変化していく時代において、1.だけではともすると、古臭く感じられやすいのも事実です。それを補完する役目として、時代のトレンドを理解し対応している証である2.の言語化も大事になるわけです。
一例を挙げれば、以下のようなものになります(あくまで一例であり、実際にはもっと数多くの引き出しをストックしています)。
ファッション流通業向け 経営コンサルティングICの場合
- 常に顧客との接点である「店頭最適」を優先して考える
- 勝ち組ファッションチェーンの売場は最高の教科書。スピード成長のために大手チェーンの店頭から素直に学ぶ
採用コンサルティングICの場合
- 採用活動とは、営業でありマーケティングである
- ベンチャー向けの求人サイトは、各企業で流行する前に使わないと意味がない
新規事業開発支援ICの場合
- 新事業を創り出すときは過去も今も常識にも、まったくとらわれない
- グローバルという言葉に惑わされず、国内で磨き上げた武器に自信を持って、海を渡れば必ず通用する
このような言語化された引き出しをストックしておくことこそが、短い時間で自分たちへの期待を高める効果につながります。
いかがでしょうか。今回記載した「“経験”からの“学び”」のコツは、ICに限らず、社会人として市場価値を高めるコツとして、今からでもすぐに実践できるものではないでしょうか。
著者プロフィール:岩松祥典
アールピック代表取締役。1961年大阪市生まれ、1985年京都大学工学部卒。インディペンデント・コントラクター協会理事。
リクルートに新卒入社。自社の新卒採用担当を皮切りに、人材ビジネスの企画や営業責任者、関連会社の立ち上げを経験。その後、情報系SI企業に人事責任者として転職入社。2003年に独立。アールピックの代表取締役として、企業各社の人材開発(採用、育成)支援を手がけている。
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