三越の理念に学ぶ“まごころの精神”――耳と目と心で「聴く」:「気がきく人」の習慣(2/2 ページ)
接客の心得として、「お客さまの立場に立って考えること」とは、よく言われます。しかし、お客さまが本当に望んでいることを見抜くのは至難の業です。
背伸びをしても仕方がない
私は、特選売場であるお客さまとこんなやりとりをしました。
アンティークの高級時計のフェアを行ったときのことです。私は年配の男性のお客さまのお相手をすることになりました。お客さまはアンティークの懐中時計をお探しで、知識も豊富。少しお話ししただけで、コレクターであることが伝わってきました。
一方、私はと言えば、商品知識を深めようと勉強こそしていたものの、まだまだ経験の足りない若造です。
私は、背伸びをしても仕方がない、とすぐに腹をくくりました。
1点数十万円もする品物ばかりです。お客さまが手に取った時計について、付け焼き刃の知識をお伝えしても意味がない。その価値や性能、希少度はお客さまのほうがよくご存じだと考えて、身を委ねてしまおうと決めました。
お客さまの話から勉強させていただく機会だととらえ、聴くことに徹したのです。
「さようでございますか」
「誠に申し訳ありません。勉強不足で」
「本当に、すばらしいものでございますね」
1時間以上、そうして聴いていたかと思います。最後にお客さまはこう言いました。
「君、若いのにすばらしい接客をするね。君から買ってあげるよ」
何もしていません。ずっとお聴きしていただけです。
それが初めて自分が特選売場で販売した高級品でした。飾りの施された懐中時計で、73万円。1時間以上、必死になってお客さまの話を聴いたことが、結果的におもてなしとなっていたのです。
年配の男性のお客さまがそうしてほしいと望まれている、と見抜いたわけではありません。相手の立場に立とうと意識的だったとも言えません。
ただ、背伸びをするくらいなら身の丈にあった向き合い方で、まごころの精神を発揮していこう、と考えただけでした。
大切なのは、話すことではなく、耳と目と心で「聴く」ことだったのです。
もしも、あなたに「折り合いが悪い」と感じる人がいたなら、ぜひ一度、聴くだけに徹したコミュニケーションをとってみましょう。
相手が語りたいだけ語りきった後、あなたとその人の間には新しい関係性が生じているかもしれません。
まとめ
語りかけるだけが気づかいではない。相手の言葉に耳をかたむけることそのものが、気づかいであり、おもてなしになる。
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