Biportable,無線LAN試験サービスの現状と課題試験開始から4カ月が過ぎ,ようやくPDA端末の導入もはじまったBiportableトライアル。ユーザーの評判は上々のようだが,課題も明らかになってきた。
NTT持株会社とNTT東日本が共同で進めている広帯域無線LANの試験サービス「Biportable」。IEEE 802.11bの3倍以上という帯域を持つAWA(Advanced Wireless Access)システムを使い,家庭やオフィス,そして人の集まる場所で「誰もが使える新しいメディア」を検討する実証実験が渋谷で行われている。3月に試験サービスが開始されてから既に4カ月間。成果や課題が見え始めたころだ。今回は,渋谷駅前の複合ショッピング施設「Q-FRONT」を訊ね,Biportableトライアルの現状を聞いた。
Biportableトライアルでは,渋谷駅を中心としてホーム/オフィス/タウンスポットなどに各200台のPCとPDAを設置し,日常的にインターネットを利用する人と,スポットに立ち寄った人の両方にモニターを依頼している。ただし,PDAの出荷が遅れたため,6月末まで端末はPCのみ。現在,Windows CEを搭載した松下電器製のPDAが各スポットに配置されつつある状況だ(PC向けの無線LANカードも松下製)。Q-FRONTを訪れた日も設置作業中で,6階の喫茶店「UBUSUNAカフェ」には,3台のPCに加えて新たに3台のPDAが導入された。
本当に無線?NTT東日本企画部でバイポータブルプロジェクトを担当する菊嶋勇晴氏によると,これまで,PDAの出荷遅れ以外には目立ったトラブルは起きていないという。体験者の反応も上々で,体験した人のほとんどが「無線」であることを意識せずに使っているらしい。「ツタヤやタワーレコードで集めたアンケートをみると,“本当に無線?”という反応が多かった。有線LANとの違いが今ひとつ分からない。でも快適に使えて,よくみると線がない」(菊嶋氏)。利用者が限定されているとはいえ,限界を感じずに利用できたという声は,インフラとして最高の賛辞かもしれない。 使用する無線技術(AWA)は,NTTアクセスサービスシステム研究所(AS研)が開発したもので,5GHz帯を使用し,最大36Mbpsという高速伝送を可能にする。同じ5GHz帯を使う技術としては,IEEE 802.11aなどが挙げられるが,菊嶋氏によると「計画がスタートしたのは10年ほど前であり,当時そのようなものはなかった。確かに,広く使われる技術のほうが端末の価格では有利になるが,QoSなどの機能を盛り込むことを考えると,一概にどちらがいいとは言えない」という。 AWA方式のメリットは,「1つの基地局に収容できる人数,比較的遠い端末にも電波が安定して届く伝送クオリティ,複数端末そして通信速度の変更に耐えるQoS」(菊嶋氏)など。伝送距離は,公称値で半径100メートル。QoS機能は,複数の端末が同時にストリーミングを行っても支障のないフレキシブルさが特徴だ。例えば,3台のPCがストリーミング再生を行った場合は各10Mbps,1台がストリーミングでほかの2台がWebブラウズの場合は10Mbps×1と1.5Mbps×2といったように,用途に合わせて最低保証帯域幅を変更できる。ユーザー数が増えた場合は,上り/下りを非対称にすることも可能だ。
1つのAWAアクセスポイントには122までの端末を収容できるが,36Mbpsという帯域だから,仮に122人が同時にアクセスしても,1人あたり300Kbps程度は出る。大容量のストリーミングデータは無理だろうが,通常のWebアクセスやメール程度なら支障はない。バックボーンは1芯の光ファイバーとギガビットイーサネットで構築されており,渋谷のNTTビルに各種サーバを設置。上位ISPとの接続(インターネット接続)は10Mbpsだ。かなり贅沢な環境といえるだろう。もっとも,ホットスポットでの実験では,端末数が当初から決まっているため,ユーザーが急増した場合に起こる事象については検証していない。この点は,オフィスなどの検証結果が発表されるまで待つ必要がある。 課題はパソコン?菊嶋氏によると,3カ月間のトライアルを通じて分かった課題は,通信設備やバックボーンなどではなく「パソコン」だという。「端末を置いてもらった店舗などから意見を聞くと,やはりユーザーインタフェースが一番のネックになっているようだ。今回はWindows PCとPocket PCを使用したが,それだけで手を出せない人が多い。(実用化の際には)パソコンのOSを使うことは難しいかも知れない」(菊嶋氏)。
書店やレコード店に置かれた端末の前で,常時待機している説明員にも話を聞いた。すると,立ち寄る客は,1日に15組ほどで,そのほとんどがカップルかスーツ姿のサラリーマンだという。そして,サラリーマンの方は,自社で無線LANシステムの導入を検討している場合が多いらしい。1日15組という数字が多いのか少ないのかは微妙なところだが,広く一般に使ってもらうための実験としては,もの足りない印象も受ける。展示されている端末は,周囲の環境にとけ込むようなデザインが施されているのだが,やはりPCの画面というだけで倦厭されてしまうのだろうか。一方,他社が行っている無線LANの実験サービスは,最初から“PCユーザー”を対象としたケースがほとんどだ。その中で,あえて渋谷という場所を選び,すべての人に向けたサービスを指向するNTTだけに,端末の壁は乗り越えなければならない。 Biportableトライアルは,8月31日に終了する。実用化に向けたスケジュールは未定だが,菊嶋氏によると「来年以降になりそうだ」という。来年には,より軽量かつ省電力の端末が登場する。実用化を前提とした端末は,果たしてどのようなユーザーインタフェースを搭載してくるのだろうか?
関連記事 関連リンク [芹澤隆徳,ITmedia] Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved. モバイルショップ
最新CPU搭載パソコンはドスパラで!!
最新スペック搭載ゲームパソコン
FEED BACK |