Big Pipe:コンテンツアグリゲータって何?(2)

前回に続き,コンテンツアグリゲータ論である。ブロードバンド・コンテンツアグリゲータの未来形をタイプごとに解説しよう。

【国内記事】 2001年12月21日更新

 前回に続き,コンテンツアグリゲータ論である。前回はコンテンツアグリゲータの概要,ビジネスモデルについて解説した。今回はブロードバンド・コンテンツアグリゲータの方向性について語りたい。

 コンテンツアグリゲータの未来形は,3つに類型化することができる。ディストリビュータのB2C型モデル,コンテンツホルダのB2B型,ユーザー指向型のP2P型である。

 B2C型は前回のコラムで中心に述べたブロードバンド・コンテンツアグリゲータ,その発展型のデファクトスタンダード型コンテンツアグリゲータ。B2B型も前回述べたプロフェッショナル・コンテンツアグリゲータ,およびその発展型のコンテンツシンジケータ。P2P型が,コミュニティ発展型コンテンツアグリゲータである。

 以下,この3つの形態について,特徴とポテンシャルを分析した。

B2C型

 アクセス回線事業対応コンテンツアグリゲータは,デファクトスタンダード・アグリゲータに収斂されていくだろう。

 アクセス回線事業でデファクトスタンダードとなった事業者は強い立場となり,コンテンツホルダに対してバーゲニングパワー(値下げ圧力)を持つ。その結果,競争を優位に運ぶことができる。またその力を利用して,コンテンツホルダとの合併や買収などを手掛ける事業者も現われてくるだろう。

 米国におけるAOLとタイムワーナーの合併は,(現時点での効果はともかく)その例に当てはまるかもしれない。日本ではAOLに匹敵するような事業者が存在しないため,デファクトスタンダードの形成には,もう少し時間がかかるかもしれない。

 デファクトスタンダード型のビジネスモデルはB2B2C型であり,コンテンツ管理,顧客管理の両方を押さえる。またCDN事業やiDC事業などを手掛けるプラットフォームスタイルともいえる。

 競争のポイントは,いかに多くの顧客を集めるか。しかし,赤字覚悟の顧客囲い込み合戦は危うい。時価総額経営が信じられていた1年前までは通用したものの,既にそれが信用されることはない。

 着実なキャッシュフローを確保した上での囲い込みでなければ,体力を落とすばかりであり,中長期的な競争に勝つことはできなくなる。顧客数拡大と収益性をどのように考えるか,その経営判断次第で現存のコンテンツアグリゲータのデファクトスタンダード競争が決定するであろう。

B2B型

 B2B型のプロフェッショナル・コンテンツアグリゲータとは,映像業界の雄である映画業界やテレビ放送局などがこの事業を始めたときに現れる。コンテンツの制作力,収集力,編集力でブロードバンド・アクセス回線事業者やISPに対して魅力のある商品を提供できる。

 これらの事業者は,ブロードバンドを販路の1つとして捉えており,ブロードバンドだけでコンテンツビジネスを完結させることはない。ワンソース・マルチメディア戦略を展開する,いわば「コンテンツ・シンジケータ」と捉えていいだろう。


 魅力あるコンテンツは,大規模な投資が必要になる。これは,決してブロードバンド配信だけでは回収できないものだ。したがって,図1に示したようにコンテンツホルダもしくはアグリゲータとして,コンテンツをさまざまな流通で展開する水平型(ホライゾン型)ビジネスを展開して行く。

 一方,ブロードバンドに特化したコンテンツアグリゲ―タは,コンテンツ流通の上流から下流までを押さえる垂直型(バーチカル型)ビジネスだ。デファクトを確立した垂直型ビジネスは,バーゲニングパワーを有して最強だが,乱立している場合はコンテンツアグリゲータとして非常に弱い。

 アクセス回線事業やISP事業が独占型になるのか,数社の事業者間競争になるのか,それとも無数の事業者間競争になるのか,今後の展開次第で垂直型ビジネスの命運は決まるだろう。

 話をホライゾン型に戻すが,コンテンツシンジケータの競争のポイントは,専門性にあるのかもしれない。

 専門型については前回,ニッチ市場で1つの趣味,カルト向けのコンテンツに集中し,それのみをブロードバンドで提供するアグリゲータで個人,SOHOなどの事業主が多いと解説した。専門型でもブロードバンドに特化する者(ほかのインフラビジネスに投資できない弱者)もいれば,1つのコンテンツビジネスに特化し,それをさまざまな流通でコンテンツ販売する専門的コンテンツアグリゲータもあるだろう。

 過去のコラムで,ブロードバンドの勝ち組と負け組のモデルを示した中でニッチャ―のポジショニングを示したが,その成功はブロードバンドのみならず,色々な流通を賭け合わせて成功するかもしれない,それがブロードバンド・ビジネスのもう1つの勝者ともいえる。(図2)


 専門型コンテンツシンジケータとしては,図3に示したように映画でのハリウッド,アニメキャラクターでのディズニー,経済・金融ニュースでの日本経済新聞社グループなどが挙げられよう。特定ジャンルに絞り込むことが,そのコンテンツ事業者のブランド力形成を促進し,総合的なコンテンツ&メディア・シンジケータに近づく道かもしれない。


 昨今,トータルコンテンツ・プロバイダを自称するテレビ局や新聞社,出版社などが多い。だが,何をもってトータルなのか明確にしているところは少ない。その意味では,現在シンジケータに近い存在のテレビ局や新聞社,出版社もマーケティングポジションを明確にしないと淘汰される可能性が高い。

 また日本の場合は,電通が総合的なコンテンツシンジケータといえるかもしれない。広告エージェンシーというよりも,企画編集能力を持つクリエイター,プロデューサーを抱えており,電通なしでは映像制作は不可能になっている。

 今後,既存のコンテンツシンジケータは,自らのポジショニングを明確にした上で,コンテンツの企画力に加えてメディアを制している電通にお伺いを立て,生き残りをかける方策を考える必要があるのかもしれない。なんとも情けない話ではある。

 その意味では,ブロードバンド・コンテンツアグリゲータが,その巨大コングロマリットに風穴を空ける可能性を期待したいものだ。

P2P型

 P2P型ビジネスは,コミュニティサイトとして発展したものである。分かりやすい例としては,「Napster」の音楽ファイル交換。今後,ラストマイルのブロードバンドインフラが整備されてくれば,音楽データよりも容量の大きい動画データの交換も行なわれてくるであろう。

 ユーザーがコンテンツ(動画,静止画,アニメなど)を自主制作し,交換することが数年後には当たり前になる。そしてユーザーの自主コンテンツが集まってくれば,このP2P型のコミュニティサイトそのものが,コンテンツアグリゲータに発展する。

 キラーコンテンツは,既存コンテンツの代替(映画,テレビの再放送)からは生まれないだろう。確かに,利便性の向上は期待できる。しかし,映画を自宅で見られるという,今までにない利便性を提供したビデオに比べ,ビデオ・オン・デマンドはビデオレンタル店舗に行くことなく,自宅で選択して視聴することができるという代替としての利便性を提供するのみ。利便性からいえば,ビデオの方が革新的だ。

 テレビ局では放送できない,あるいは映画館で上映する枠がない,といったコンテンツ群がブロードバンド配信でヒットするものもあると思われるが,それはブロードバンド配信の主流になるとは思えない。

 キラーコンテンツは,間違いなくP2P型のコミュニティサイトである。それは2つの革新性を与えるからである。

  • 1. 表現の完全自由なコンテンツ視聴が可能(剥き出しの欲望を爆発させられる)
  • 2. コンテンツの交換で形成されるコミュニケーションの楽しさ

 “ブロードバンド・コミュニティサイトの形成”は,ユーザー主催のものだけではない。それも大きくは3つのタイプに類型化することができよう。

  • 1. P2P型コミュニティサイト
  • 2. アグリゲータ,ISPポータル主導型コミュニティサイト
  • 3. コンテンツシンジケータ主導型コミュニティサイト

  P2P型コミュニティサイトとは,個人やSOHOなどの自主コミュニティサイトである。前回コラムでの専門型コンテンツアグリゲータである。カルト的,個人的な趣味,アングラの集まりから登場する。

 1つの例として日本では,コミックに関しては漫画同人誌の集まりというものがある。これは個々人が自主的にマンガ作品を創作し,それを提供,販売するものだ。その集まり(いわゆるコミケ)には,ざっと50万人もの人たちが集まるといわれている。ここでの売買は,まさしくP2Pである。

 今後,漫画同人誌のアニメ化,電子コミック化が可能になれば,巨大なブロードバンド・コミュニティが形成される可能性が高い。ユーザー向けストレージサービスやキャッシングサービスなどのビジネスチャンスも生まれるだろう。

 2のアグリゲータ,ISP・ポータルサイト主導型コミュニティサイトとは,コンテンツ配信サイトの補完的な役割を提供する。コンテンツ配信サイトの周りに,そのファンのデータや,著作権フリーとなった一部コンテンツを利用したユーザーのファイル交換コーナーを開設し,ポータル,コンテンツ配信サイトの価値を向上させる。

 ISP等に関してはユーザーの囲い込み,ユーザー向けストレージサービスなどの収益が考えられる。これはB2C2Cのビジネス形態と捉えることができる。

 3のコンテンツシンジケータは,自らのコンテンツ・ファンの囲い込みのため,補完的な役割を担う。コンテンツサイトの回りに,そのコンテンツの一部を活用し,パロディ版,ifストーリー版(仮定による展開)などをユーザーが作成,提供する。

 コンテンツの改竄ということで著作権侵害になる可能性もあるが,自らのサイト内で管理しながらであれば,それはコンテンツ価値を高めることができる。

 コミュニティは,特定の主体者が存在しないコンテンツアグリゲータである。ビジネスとして成立する否かは事業者の運営そのもので決まる。下手に介入するとP2Pは発展しないし,自由にさせると無法地帯となる。

 どのような関与で管理し,収益を確保して行くのか。プラットフォーマーとしてストレージ,キャッシングサービスで収益を確保するのか,それともP2Pでのコンテンツを権利化し,プロデュースして行き,2次流通市場で収益を確保するのか。色々なモデルは考えられていくだろう。

 今回は概念的な分析で終え,具体的な事項がないため,分かりにくい面が多分にあったと思われる。次回は,具体的な事例としてSCEIの「Playstation 2」についてレポートする。

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[根本昌彦,ITmedia]

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