“XP”と“2000”ではテレビ電話できない?――業界が乗り越えるべき壁

IPテレビ電話には課題も多い。たとえばWindows XPに搭載されている「Windows Messenger」は,“SIP”非対応機とはテレビ電話できないことを,どれだけのユーザーが知っているだろうか?

【国内記事】 2001年12月26日更新

 IPテレビ電話がコンシューマーレベルで普及するには,まだ取り組まなければならない課題が多い。プロトコルの標準化・互換性の確立も,その1つだ。

 たとえばWindows XPに搭載される「Windows Messenger」では,一般に普及している規格「H.323」対応機と互換性がない。このため,多くのIPテレビ電話機/ソフトウェアとの通話が不可能になっているのだ。

業界標準より新興の「SIP」を選んだWindows XP

 ひとくちにIPテレビ電話といっても,そこには各種信号プロトコルが存在する(下表参照)。現在IPテレビ電話用プロトコルとして,一番多くの機器・ソフトウェアに採用されているのがITU-T(電気通信標準化部門)によって勧告された「H.323」だ。これは基本的に,既存の電話網のプロトコルをベースにしてマルチメディア化を図ったもの。ISDN回線上でIP電話を行うための規格「H.320」の延長上にあるといえる。

IPテレビ電話に使用される主なプロトコル
プロトコル名標準化団体規定年(Ver.1の場合)
H.323ITU-T1996
MGCPIETF1999
SIPIETF1999

 一方で,近年注目を集めているのが「Windows Messenger」でも採用された規格「SIP」(Session Initiation Protocol)だ。こちらはセッションをはる手順(発呼の手順)がシンプルに設計されているため,通信開始時の処理を比較的早く行えるというメリットがある。

 残念ながら現在,SIPとH.323の間で互換性はない。もともとSIPとは,コンピュータ間で情報を伝送するためのセッションを,リアルタイムに伝送できるよう拡張したもの。H.323のように電話信号をベースにするのではなく,HTTPなどと同じテキスト系のインターネットプロトコルをベースにしている。両者の間には隔たりがあり,“H.323対応のIP電話端末とSIP対応のIP電話端末とは通話できない”ということになるわけだ。

「H.323を捨てた」? マイクロソフト

 マイクロソフトも,昔からSIPに対応していたわけではない。Windows 2000などにはテレビ電話機能を含むコミュニケーションツール「NetMeeting」がプリインストールされているが,これはH.323に対応したソフトウェアだ。

 しかし今回,新開発されたWindows MessengerがSIPを採用したことで,SIP非対応のテレビ電話端末とセッションをはることは基本的に不可能になった。これはすなわち,Windows XPユーザーとWindows 2000ユーザーでは,テレビ電話が行えない……ということにも結びつく。同系列の製品同士でありながら,互いにテレビ電話を行えないというのは妙な話だ。

 あるベンダーは「マイクロソフトさんはH.323を捨てましたから」と残念そうに話す。従来ほかのベンダーと歩調を合わせてH.323をサポートしていながら,業界がまだ完全にSIPに軸足を移していない段階で,SIPに移行した。これはH.323をサポートした機器の開発サイドからすると,抜け駆けのような印象をうけるのだろう。

 この点についてマイクロソフトに聞いたところ,「H.323を捨てたわけではない。H.323とSIPの両方に対応していると考えている」との答え。

 「Windows MessengerはNetMeetingの技術に準拠しており,NetMeetingはH.323に対応している。Windows Messengerの中には依然,『G.711』や『H.263』といったH.323のコンポーネントも利用している。セッションを確立するためにSIPを利用しているだけだ」(マイクロソフト広報)

 ここで同社が言っているのは,H.323のプロトコルスタック全体の話。H.323は包括的な規格であり,細部まで厳格に規定している。いっぽうで,SIPは規定の範囲外について,どの規格を採用するかは自由。このため“H.323のプロトコルスタックにSIPを載せる”といったことも可能なわけだ。


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H.323のプロトコルスタック(VTVジャパンの資料を基に作成)

 もっとも,実際のコールフローにSIPの規格が使用されるのは事実。いくら“H.323の技術が残っている”といっても,H.323対応機との間でテレビ電話を行えないことに変わりはない。この点に関しては,マイクロソフト側でもすんなり「SIP非対応の機器とは通話できない」と認めていた。

互換性の確保が必要

 もちろん,業界がこうした問題を手をこまねいて見ているわけではない。解決策として,「ルータなどで変換をかけて,H.323とSIPのプロトコルを横断できるシステムも開発している」と話す技術者もいる。しかし現状,こうした技術はまだ完成の域に達していない。

 プロトコルの互換性という話でいえば,H.323とモバイルのテレビ電話も互換性はない。先般話題になった第3世代携帯電話「FOMA」では,テレビ電話の規格として「3GPP 3G-324M」を採用しているが,この規格はどちらかというとISDN経由のテレビ電話プロトコル「H.320」に近いもの。H.323―H.320間ならゲートウェイサーバを介してTV電話できるのだが,H.323と3G-324Mは互換性がない。将来的にモバイルとPC(もしくは卓上電話端末)でIPテレビ電話を行う上で,こちらも相互に運用できることが望まれる。

 H.323やSIPなどのプロトコルスタックを提供するイスラエルのRADVISIONによれば,新しいバージョン毎に両者の差は少なくなっているという。今後,真にコンシューマーレベルでIPテレビ電話サービスが普及するためには,プロトコルの違いを越えた幅広い互換性確保が重要になるだろう。

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[杉浦正武,ITmedia]

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