ISPに求めるのは“メディアとしての自覚”――ショートフィルムレーベル

Yahoo! ムービーで配信されている,鈴木京香さん主演のショートフィルム。この映像作品を制作したレーベルは,インフラ事業者との距離のとり方を模索しているらしい。

【国内記事】 2002年3月14日更新

 2月22日から「Yahoo! ムービー」で,ショートフィルムの無料ストリーミング映像が配信されている(2月22日の記事参照)。既存コンテンツの使い回しでなく,オンライン発の独自作品であり,コンテンツ不足に悩むブロードバンド事業者の注目が集まるところだ。

 この作品は,ショートフィルムの専門レーベル「SHORT STOP FILM」が制作したもの。同レーベルは,制作を担当するTYOと企画を担当するTUGBOAT,キャスティングを担当するPUG POINT JAPANの3社で構成される。TYOのネットワークビジネス開発室,小宮山文昭氏と,柿本秀二常務取締役に,事業の方針を聞いた。

ショートフィルムは“映画的”

 同レーベルが制作するショートフィルムは,ストーリーを作りこんだ“映画に近い”もの。寝転がって「ながら見」するテレビ番組とは,コンテンツの性質が異なるようだ。

 「PCの画面と視聴者の距離は,テレビの場合より近い。その分,作品のメッセージが深く心に届きやすいと考えている。ハマる(=のめり込む)人は非常にハマる」(小宮山氏)。映画館でスクリーンと向き合うように,1つの作品を“鑑賞”してもらうことを想定している。

 いっぽう,通信の特性を生かした“双方向性”には,ほとんど興味がない様子。現に,Yahoo! ムービー上で配信されているショートフィルムには,双方向性を意識した仕掛けは1つもない。

 「コンテンツを視聴している最中に買い物ができるといっても……。せっかく視聴しているのにほかのことをするのは,そのコンテンツがユーザーから『つまらない』と思われている証拠ではないか。(そういったシステムには)フィルムメーカーとしては関心がない」(小宮山氏)。

 柿本氏も「技術的に実現できるからといって,必ずしもやる必要はない」とコメント。どうしても双方向性を持たせたい場合は,インフラ提供側で,映像作品とは別にシステムを構築してほしいという考えを示した。

ヤフーとはバーター契約

 今回,ヤフーに映像作品を提供した経緯については,「ブランドPRの目的も兼ねて,何社かに提案したところ,一番熱心に聞いてくれたのがヤフーだった」(小宮山氏)からだという。

 配信の契約はいわゆるバーター(金銭収受を伴わない交換取引)。SHORT STOP FILMが集客力のある映像を提供するかわり,配信用サーバなどはヤフーのホスティングサービスを利用するかたちとなる。

 現在は無料配信だが,もちろん将来的にはビジネスにする意向。ただ,「課金はまだまだ先だろう」(柿本氏)。現在はとりあえず見てもらい,おもしろいかどうか判断してもらうのが先という考えだ。

“新しいメディア”としての期待,そして責任

 ショートフィルム第一作には,鈴木京香さんや杉本哲太さんといった俳優が出演している。この背景には,芸能界のオンライン配信に対する期待があるようだ。

 「タレントさんの中にはイメージを大切にして,Webへの露出にちゅうちょする人もいる(2月5日の記事参照)。しかし自分を“表現者”と位置付けている俳優などは,新しい活動の場として注目している」(柿本氏)。

 このような流れの中で,ISPや通信事業者は「メディアとしての自覚を持つべき」と両氏は話す。

 「今はまだ,契約条件などについてあまり細かく規定しないで(長い目で見て)ほしい。既存のメディアは雑誌にしてもテレビにしても,自分をメディアと思うから,必死な思いでコンテンツを育ててきた」(柿本氏)。同様にISPなども,コンテンツホルダーを育てようとする姿勢がほしいという。

 小宮山氏はISPなどが「単なる“コンテンツブローカー”」になっているのではないかと懸念する。信頼に足るメディアであるところを見せてほしい,と話した。

 話を聞いていて感じたのは,同レーベルの「コンテンツにこだわっているのであり,インフラにこだわっているのではない」という姿勢。両氏の言葉からは,ブロードバンド配信に興味を持ちつつも,“それがダメならほかのメディアに映像を売ればいい”とする微妙な思いも,見え隠れした。

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[杉浦正武,ITmedia]

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