ニュース 2002年7月25日 10:20 PM 更新

裁判に負けない「プロバイダ責任制限法」の読み方

ISPやサイト管理者にとって、サイト内で名誉毀損などが発生した場合の対応は難しい。後々責任を問われないためには、どう振る舞えばいいのだろうか?

 「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限および発言者情報の開示に関する法律」――。

 なんだそれは? と思われる方も多いだろう。実はこれ、今年5月27日に施行された、いわゆる「プロバイダ責任制限法」の正式名称だ。インターネット上で名誉毀損、プライバシー侵害などが発生した際に、そのサイト運営者(=特定電気通信役務提供者)がどう対処すべきか定めた法律、というと分かりやすいだろうか。

 7月25日のMCFセミナーでは、日本インターネットプロバイダー協会理事の野口尚志氏が、同法の主旨を解説した。


日本インターネットプロバイダー協会理事の野口氏。「よく『プロバイダ責任法』とよばれるようだが、内容からいって『プロバイダ責任“制限”法』とよんでもらいたい」

“板ばさみ”になるサイト管理者

 野口氏が強調したのは、同法がサイト運営者側の責任を追求しようとするものでないこと(4月22日の記事参照)。むしろその逆で、良心を持って行った措置に対しては、責任を問わないよう法制を整備した「民法でいう、特別法の位置付け」だという。

 「掲示板などに悪口を書き込んだユーザーがいたとして、その被害者がサイト管理者に削除を依頼したとする。この場合、管理側は削除してもしなくても、発信者と被害を訴える側のいずれかから、不快感をもたれてしまうだろう」(野口氏)。

 管理者がどちらを選択したとしても、そこに過失があったと認められれば法理論上は賠償責任がある。しかし「プロバイダ責任法」の定めたところに従えば、一定の免責がうけられるというわけだ。

削除しても責任を免れる場合

 順に見ていこう。まず管理者が「削除したこと」に対する責任を回避できる場合。この際にポイントになるのは、「権利侵害があると信じるに足る相当の理由があった」かどうかだ。

 “相当の理由がある”とされるのは、たとえば、「自分の携帯電話番号がネット上にさらされていて、『割り切ったお付き合いを望みます』などと付記されていた場合」(野口氏)。このケースでは、放置すれば被害者側にいたずら電話が殺到することが、容易に予想される。管理者側は迅速な対応が求められるわけで、「即時削除しても発信者に対して責任はない」(同)。

 難しいのは、権利侵害の程度がそれほどでもない(と、感じられる)場合。このあたりの具体的な判断についてはテレコムサービス協会のホームページにあるガイドライン(pdfファイル)の第2章を参照するのが望ましいが、迷ったら「発信者に削除依頼があった旨を伝える」という対策がよい。

 これはメールなり書簡なりで、発信者に対して状況を伝達、意向を確認するというもの。発信者から7日間以内に反論がない場合は、管理者は削除しても責任を免れる。「後で『意向を確認した/いや聞いていない』ともめるのがいやなら、意向確認には配達記録郵便(25グラムまで290円)を利用すれば万全だ」(野口氏)。

 この時、発信者から反論があるようなら、その旨を被害者側に通知して管理者の手続きは終了となる。「この後は法的手続きによることになるので、管理者の手を離れる。ここまできたら管理者側の責任を認める例はまれだろう」。

削除しなくても責任を免れる場合

 次は管理者が「削除しなかった」ことに対する責任を問われない場合。この時、初めに留意すべきは「そもそも管理者は、正当な理由がない限り発信者の書き込みを無断で削除できない」こと。このため削除しなかった場合は「原則として、免責」(野口氏)となっている。

 とはいえ、違法情報の存在、および権利侵害を知っていたと認められる相当の理由がある時は、責任あり、となってしまう。たとえば被害を訴える側から、内容証明で通知を受けていた場合などは、“知っていたはず”とされて、言い逃れできなくなる。

 さらに、被害者本人からの通知に限らず、第3者から知らされた場合でも「知らなかった」といえなくなる。このため現実問題としては、必ずしも免責とはいかず、「権利侵害があるか否かの判断がとても重要」(野口氏)になるわけだ。

 野口氏は以上を総括した上で、グレーゾーンでは「発信者への意向確認」の手続きを踏むことがもっとも無難だと話す。

 「意向確認は、法律上で義務付けられていない。したがって意向確認をしなかったことで責任が発生することはないが、利用者同士のトラブル回避の見地からも、可能な限り実施したほうがいいと思われる」。

 セミナーで同席した総務省電気通信利用環境整備室の大須賀寛之氏も、「プロバイダ責任制限法はアドバイスのようなもの」とコメントする。同法をうまく読み解いて、敗訴などという最悪の事態を避けたいものだ。

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[杉浦正武, ITmedia]

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