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2003/05/07 23:43:00 更新 |
ブロードコムが“Multi-Mode DSL”を開発する理由
ブロードコムは、ADSLとVDSLの両方をサポートするチップセットの開発を表明した。既存の8M/12Mbps ADSLはもちろん、Annex Iにも対応。VDSLの場合は、下り最大70Mbpsを実現できるという
ブロードコムは5月6日、ADSLとの互換性を確保したVDSLチップセットの開発を表明した。このチップセットを搭載したモデムは、ソフトウェアの変更だけでADSLにもVDSLにも適用できるという。しかし、電波法の規制などにより、今のところ家庭向けのADSLサービスをVDSLに切り替えるのは不可能。では、同社がMulti-Mode DSLチップを提供する理由はどこにあるのだろうか?
キーワードは、ADSLでお馴染みのDMT(Discrete MultiTone)だ。VDSLはITU-T G.993.1(G.vdsl.f)として標準化されているが、実は肝心の変調方式が統一されていない。DMT、そしてケーブルモデムなどに使われているQAM(Quadrature Amplitude Mdulation:直交振幅変調)の2方式があり、それぞれの変調方式を推進する企業は、それぞれ「VDSL Alliance」(DMT)、「VDSL Coalition」(QAM)と呼ばれるアライアンスを組んで標準化を争っている。
ブロードコム ジャパン、マーケットディベロップメントマネージャーの山崎勝利氏は「Broadcomは、1997年に世界初のワンチップQAM VDSLソリューションをリリースして以来、QAMの標準化活動をサポートしてきた」と話す。つまり、今回の開発表明は、同社が過去6年間に渡って支持してきたQAM方式から一転、DMT方式に乗り換えたことを意味している。
ブロードコム ジャパン、マーケットディベロップメントマネージャーの山崎勝利氏
「現在、DSL市場の96%(出荷ポート数ベース)を占めるのはADSLだ。そのADSLとの共用チップセットが登場すれば、製造のボリュームは一気に増え、量産効果によってVDSL機器の低価格化も期待できるだろう。また、モデムベンダーはADSLのノウハウを活かして開発を効率化し、製品の市場投入も早めることが可能になる」(同氏)。
DMTのメリット、デメリット
厳密に言えば、DMTもQAMの一種といえる。DMTは、通信に使うバンド(周波数帯)を4KHzごとに分割し、QAM変調をかけて最大4096のサブキャリアを作り出す(ADSLの場合は255)。つまり、「両方式の違いは、シングルキャリアか、マルチキャリアかという点。DMTは“QAMの連続”と表現することもできる」(同氏)。
データを運ぶ波を“大きく1つ”作るQAMと、“小さいが多く”作るDMT。それぞれにメリットとデメリットがある。まず、複雑な変調処理を行うDMTは、DSP(Digital Signal Processor)のパワーが必要だ。これに伴い、電力消費の増大や製造コストの上昇も懸念されている。
一方のメリットは、使用する環境にあわせてPSDのシェイピングやノッチングが可能になること。「たとえば、ラジオの周波数帯があれば、該当するトーンを出さない(ノッチング)といったように、国ごとに異なる周波数規制にも対応できる」。ITU-TのADSL仕様には、Annex A/B/C/Iといった各地域の通信事情に配慮したオプションが用意されているが、ファームウェアの変更だけですべての仕様に対応できるという。同社では、DMTを採用した下り最大70MbpsのVDSLチップ(Multi-Mode対応)を年内にも発表する計画だ。
「DSPの処理能力は向上している。電力消費は、製造プロセスルールの微細化などで対応可能だ。今回の開発表明は、ブロードコムがDMT技術を次世代のVDSL製品に適応する“意思表示”と捉えてほしい」(山崎氏)。
同氏によると、VDSLの変調方式については、各標準化団体が単一の方式を標準化しようと再び動き出したという。ITUのG.vdslをはじめ、北米向けのT1E1.4、IEEEの802.3ahといった仕様のなかで、まずT1E1.4が7月までの合意を目指して協議を進めている。このタイミングに合わせ、これまでQAMを推していたブロードコムがDMTのサポートを表明したことは、仕様の策定にも少なからず影響を与えそうだ。
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米Broadcom
[芹澤隆徳,ITmedia]