ニュース 2002年11月26日 02:13 AM 更新

ADSLはどこまで高速化する?

12Mbpsの次は16Mbps、ではその次は? ITU-Tでは現在、さらに高速な通信速度を実現するADSL規格「クアッドスペクトラムADSL+」も検討を進めているという

 ADSLは、どこまで高速化するのか? 現在、複数の通信事業者が下り最大12Mbpsを実現するサービスを発表/商用展開している。また、16Mbpsの通信速度を実現するチップセットも出荷されている(記事参照)。ITU-Tではさらに、これらを上回る通信速度を実現する規格も検討中だ。

 11月26日に開催された「HATSセミナー2002」では、住友電気工業のIT技術研究所主査、上田雅巳氏が登場。DSL標準化の動向を語った。


住友電工の上田主査

 これまでADSL高速化には、さまざまな技術が利用されてきた。データ伝送時の誤り訂正符合のデータ量を削減する「S=1/2」の技術(記事参照)や、本来上りに利用される帯域に下りの搬送波を多重化(オーバーラップ)する技術(記事参照)などがそれだ。各キャリアとも、これらの技術を組み合わせて最大12Mbpsまでの高速化を実現している。

 より高速化を目指すなら、ADSLの周波数帯を変更することが考えられる。現状、G.992.1(G.dmt)の技術仕様では、25−138KHz帯を上りに使用し、138KHz帯−1.1MHz帯を下りに使用している。しかし、この下りに使用する周波数を、より高域にまで拡張するという方法だ。

 たとえば、下りに利用する周波数帯を上限2.2MHzまで拡張すれば、データ伝送に利用できる帯域は単純に考えて2倍になる。「これがダブルスペクトラムADSL+、一般に“ADSL+”(プラス)と呼ばれている規格だ」(上田氏)。最大16Mbpsの通信速度を実現すると謳う、米GlobespanVirataの新チップセットも、ADSL+をサポートしている。

 上田氏は、帯域拡張の動きはこれにとどまらないかもしれないと話す。「ITU-Tでは現在、下りの帯域を上限3.75MHzにまで拡張する『クアッドスペクトラムADSL+』も議論の対象になっている」。当然ながら、その通信速度は16Mbpsを超えることになる。

 こう見てくると、下りの周波数帯をどこまでも拡張していけば、高速化が実現されるのかとも思えてくる。しかし、ことはそう単純ではない。クアッドスペクトラムADSL+にしても、1.1MHzの4倍の“4.4MHz”にまで拡張されるのではなく“3.75MHz”という中途半端な数字が出てきたわけだが、これにはちゃんとした理由がある。

VDSLとの相互干渉が問題

 ADSLの下り帯域拡張で、注意しなくてはならないのがVDSLの存在だ。VDSLでは、利用する周波数帯を1.1MHz−12MHzと広くとることで、最大30−50Mbpsの高速通信を実現している。もっとも、こうした高周波数帯は線路減衰に比較的弱いため、短距離の利用にしか適さないのは、周知のとおり。

 ITU-T G.993.1(G.vdsl.f)では、VDSLの帯域を下り/上り/下り/上りの順に割り当ててデータを伝送することになっている(下図参照)。下りと上りの第一の境目になるのが、3.75MHz。さきほどクアッドスペクトラムADSL+の上限となっていた数字だ。


G.993.1は、2001年10月に仮承認された規格。VDSLは変調方式でDMTを採用するかCAPを採用するかでこう着状態に陥っており、変調方式以外の部分のみが先に標準化されている

 「実は、ADSLの下り信号とVDSLの下り信号は相互干渉して“遠端漏話”を起こす。そして、ADSLの下り信号とVDSLの上り信号は相互干渉して“近端漏話”を起こしてしまう」(上田氏)。

 遠端漏話とは、信号源が受信側から見て遠くにある漏話のこと。近端漏話とはその逆で、信号源が受信側の近くにある漏話のことだ(記事参照)。発生するノイズは、近端漏話の方が強い。クアッドスペクトラムADSL+では、この近端漏話を避けるように規格化が考えられていたわけだ。逆に言えば、これが「下り周波数の拡張によるADSL高速化」の、限界ということになる。

 これらのADSL規格は、現在ITU-Tで検討が進められている段階。2003年1月の仮承認を目指しているという。



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[杉浦正武, ITmedia]

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