アッカの隠し球? 最大10Mbpsの“拡張版Annex C”詳報

【国内記事】 2002年4月15日更新

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上りの搬送波を下りに利用

 ここからが本題だ。まず,下の模式図を見てほしい。上に浮いているように見える部分が上り回線,下が下り回線を表す。tの軸は時間。ISDNの1.25ミリ秒という単位が100%だ。f軸は,255までの搬送波(bin)と周波数(右へいくほど高い)を示している。

 図中の「Bit Map1」がFEXT,「Bit Map2」はNEXTだ。前述のように,Annex CのDBMでは,ISDNの影響が大きい瞬間はNEXTのBit Mapで伝送量を少なく,影響が小さいときはFEXTに切り替えて伝送量を多くするが,ここでは,タイミングによって上り・下りに個別のBit Mapを割り当てている。


実際には,FEXT(ISDNの干渉が小さい)のタイミングで搬送波を下りに割り当てる,3つのモードが用意される。(クリックで拡大)

 注目は,1.25ミリ秒の最初の37%。上り回線と下り回線が重なるタイミングがあること。つまり,C.xでは,「これまで上りに使っていた搬送波を下りにも利用することで高速化を実現する」(池田副社長)。

 電気信号は重ねることができる(オーバーラップ)。この特性を利用して,DSLAMがISDNからの干渉を受けにくい時間を狙い,上り用の25本の搬送波を下りにも割り当てる。オーバーラップした電気信号は,「エコーキャンセラ技術を使い,ADSLモデム内で分離する仕組み」(池田氏)。これがプラス500Kbpsの秘密だ。

 前述のように,15bitの伝送能力を持つ搬送波は,毎秒4000回の変調を行っている。25bin(本)の搬送波なら,15bit×25bin×4000回で1秒あたり150万bitを伝送可能だ。

 1.25(秒)の37%は0.4625秒だから,ISDNのピンポン伝送が行われる1.25秒(図の100%)の間には,追加した25本の搬送波だけで最大69万3750ビットを伝送できる。これを秒単位に直すと,毎秒55万5000ビット。約542Kbpsだ。なるほど,現在の伝送限界である約4.9キロまでであれば,最低500Kbpsの上乗せが可能だろう。

Reach DSLを超えるか?

 この方式には,いくつかのメリットがある。利用するのは,もともと上りの搬送波が使っていた周波数の低い部分。つまり,NTT局から離れるにしたがって上から減衰していくADSL信号の中でも,最後まで残る部分だ。これにより,現在の限界よりも遠い場所に住むユーザーにもサービスを提供できる。

 Globespanの検証によると,NTT収容局から約6.9キロの地点で200Kbps程度でリンクするという。これは,ISDNの伝送限界といわれる約7キロの地点で,3倍以上の帯域幅を実現できることを示している。

 一方,現在8Mbps出ているような回線状況の良いユーザーなら,8.5Mbpsへのスピードアップを保証されたようなもの。坂田社長の語った「距離に関わらずプラス500Kbps」とはそうした意味だろう。

チップを変える必要がない?

 そして,もう1つのメリットとして,信号の分離に使うエコーキャンセラの技術が既にAnnex C標準規格のオプションとして盛り込まれている点が挙げられる。これは,エコーキャンセラが,欧州仕様のAnnex Bで利用されているためだ。

 「現在アッカが使用しているGlobespanのADSLチップでは,エコーキャンセラの技術がサポートされている」(湯浅氏)。つまり,Globespanのチップを採用していれば,ファームウェアの変更だけでC.xを利用できる可能性がある。新サービス移行時にADSLモデムを交換しなくても済むのは,ユーザー,キャリア双方にとって大きな利点だろう。

 湯浅氏は,「現在は,ソフトウェアの変更だけで実装できるかを検証中だ」と自信をのぞかせた。

下り最大速度は10Mbpsに

 アッカとGlobespanが検討している,もう1つの技術がS=1/2。こちらは,回線状況の良いユーザーに対して,より高速な伝送速度を提供するものだ。

 ADSLは,直径0.32〜0.9ミリという,細い銅線を利用する。その貧弱なインフラで安定した通信を行うため,ADSLでは,エラー訂正にリードソロモンの符号化による誤り訂正を使っている。

 リンクレートが高い場合,リードソロモン符号化に使うコードワード(符号)あたりのDMTシンボル数(=S)の値は少なくなり,逆にリンクレートが低いと大きくなる。具体的には,リンク速度が4〜8Mbpsで1,4〜2Mbpsで2,1〜2Mbpsで4,そして1Mbps〜512Kbpsで8,512Kbps以下では16だ。

 しかし,「1」の中には,ようやく4Mbps出ている場合もあれば,余裕で8Mbpsが出る場合もある。そこで,回線状況の良いユーザーに限り,DMTシンボル数を1/2にしてスピードアップを図るのが“S=1/2”の技術。簡単にいえば,エラー訂正を意図的に“雑”にして,その代わりに高いデータ転送レートを得る技術だ。

 「全体の数%程度だと思われるが,コードあたりのシンボル数を小さくしてもリンクアップできるような,回線状態の良いユーザーがいる」(湯浅氏)。5つにしか分かれていない画一的なエラー訂正方式にもう1段階を加え,柔軟な運用を可能にする方法といえるだろう。

 このS=1/2をC.xと合わせて導入することで,アッカの「拡張版Annex C」は,最大13.5Mbps(理論値)の下り速度を実現するという。ただし,池田氏は,「実サービス時には,機器製造時やサービス時のマージンをとり,最大10Mbpsを上限に設定する予定だ」としている。


アッカの資料をもとに作成した拡張版Annex C導入後の距離と下り速度(クリックで拡大)。

市場投入は秋以降

 アッカの拡張版Annex Cは,マーケティング的にも大きな意味を持っている。それは,拡張版Annex CがGlobespanの開発した技術であるため。イー・アクセス,NTT東西地域会社など,Annex Cを使う事業者の多くは,Centillium製のADSLチップを採用しており,同じ技術を使うことはできない。

 現在,アッカとGlobespanは,電信電話技術委員会(TTC)に標準化を働きかけると同時に,「Globespanやほかのセット機器メーカーと共同で商用に耐えるものを開発している段階だ」(池田氏)という。

 新技術を競争力に結び付け,当面の目標である100万加入に向けた道筋を描きつつあるアッカ。拡張版Annex Cは,今秋〜年末には商用サービスとして市場に投入される予定だ。

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関連リンク
▼ アッカ・ネットワークス
▼ Globespan

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[芹澤隆徳,ITmedia]

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