リビング+:ニュース 2003/07/07 23:53:00 更新


地方にブロードバンドを呼ぶ方法

人口は少なく、山地や離島が多いなど、ブロードバンドサービスを展開するには不利な条件が多い島根県だが、年内にはすべての市町村でブロードバンドサービスが提供される見通しだという。採算性の低い地方にもブロードバンドサービスを呼び込む“島根方式”の情報インフラ整備とは?

 ADSLやFTTHといったブロードバンドサービスは、都市部から展開されることが多い。人口が多く、採算性の高い場所に事業者が着目するのは当然だが、これが地方の情報化を遅らせる一因となっている。しかし、“やり方”によっては状況を変えることはできるようだ。「地域マルチメディア・ハイウェイ実験協議会21」の31回セミナーで、島根大学総合情報処理センター長の森本直人氏が“島根方式”の情報インフラ整備を語った。

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島根大学教育学部の森本直人教授。同大学の総合情報処理センター長を務める

 2000年(平成12年)の国勢調査データによれば、島根県の総人口は約76万人で全都道府県中46位。人口密度は同じく44位だという。県内には山地や離島も多く、地理的な条件も良いとはいえない。このため、ブロードバンドサービスの拡大は遅く、2000年末時点の世帯普及率はわずか0.2%だったという。当時は全国平均も1.3%と現在に比べればかなり低い数字だが、それでも差は大きい。

 そこで、島根県は平成13年に「常時接続かつ通信速度1.5Mbps程度の高速インターネット環境を2003年までに県内全域で実現する」という目標を設定。具体策として、地域ネットワーク構築支援事業の早期展開や民間通信事業者による設備投資の誘導などを含む「IT戦略」を策定した。その一環として進められたのが、全県域WAN「しまねフロンティアネットワーク」だ。

全県IP網の完成

 当初、しまねフロンティネットワークは自前の光ファイバーで構築される予定だった。しかし、総延長約1500キロにわたる光ファイバーにかかるコストは「概算事業費で約100億円。さらに年間5〜10億円の保守管理費用がかかる」。そこで、NTT西日本やCTNetといった民間通信事業者から中継系光ファイバーを借り受けることとし、県内80カ所の電話局舎を10GbpsのATMで結ぶ「全県IP網」が2002年6月に完成する。「県全域の市町村で光通信サービスが利用できるのは島根県が初めてだった」(森本氏)。

 しかし、バックボーンだけあってもアクセス回線がなければ住民は利用できない。第2のステップは、DSLやCATVを県内全域に提供することだが、やはり採算性がネック。民間事業者の自主的なエリア拡大にはあまり期待できる状況ではない。

 「そこで、採算性の悪い“条件不利地域”においては、ISPなどの設備投資を促すため、県と市町村から補助金を交付する独自の財政支援制度を創設した」。

 県が実施した「市町村IT化総合推進補助金」制度は、第2種通信事業者(ISP)を対象に1局舎あたり1000万円程度の補助金を交付するというものだ。補助金は局舎内の機器購入や整備費の一部に充てることができる、かなり直接的な公的援助となった。

 補助金の創設により、2003年6月末現在では、島根県内にある65のNTT局舎でDSLサービスを提供。年内には当初の目標である71局舎すべてに展開できる見通しになった。このほか有線放送電話のDSL化やCATV網の拡充などもあり、島根県は全市町村(59市町村)にブロードバンドサービスが提供されると見込まれている。

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市町村別のブロードバンドサービス提供状況(平成15年7月末予定)。青がDSL、赤がCATV、黄色はDSL/CATVの両方が提供されている地域

 「もしISPに対する支援制度がなければ、高速インターネット接続サービスの展開は採算性の高い22市町村に止まっていただろう」(森本氏)。

次の課題は光化

 とはいえ、全市町村にブロードバンドサービスがあっても県民全員が利用できるとは限らない。山間部の多い島根県の場合、ユーザーが望んでもDSLのサービスエリア外となるケースが多い。また2000年当時に目標としていた「通信速度1.5Mbps程度」も既に高速とはいえない状況になったため、第3のステップとして、光網の大幅な拡大を目指しているという。

 具体的には、まず2005年頃をメドに県内800カ所の公共施設などを10Mbpsもしくは100Mbpsの光ファイバーでつなぐ「地域公共ネットワーク」を構築する。エンドユーザーに近いところまで高速な光ファイバーを敷設し、これを「集落のき線点」とする考えだ。これも民間の光通信サービスを調達する形を想定しており、年額3.5億円程度の予算を見込んでいるという。

 一方、き線点からユーザー宅に至る加入者系の光ファイバー敷設も進める計画だ。こちらは高速インターネットにくわえ、地上デジタル放送の難視聴地域対策という意味合いもある。

 既報の通り、地上デジタル放送に使われるUHF帯はVHF帯よりも直進性が高い(記事参照)。とくに山が多く、人口密度の低い島根県の場合は難視聴地域が大幅に広がることが懸念されている。「難視聴地域の割合は全国平均で約15%(都道府県あたり)と予測されているが、島根県の場合はその倍になるだろう」。

 しかし、中継設備の設置には費用がかさむ。このため、光ファイバーの波長多重(記事参照)を使って地上デジタル放送を届けようというのがFTTH化の目的の1つだ。

 ただし、この計画には課題も多い。まず、2011年にはアナログ放送の終了(アナログ停波)が決まっているため、条件不利地域に対するFTTHの実施もそれまでに終えなければならない。しかし、波長多重による放送の再送信はまだ例がなく、「法的、制度的な問題をクリアにしていかなければならない」(森本氏)のが現状だ。

 もう1つの課題は、DSLのケースと異なり、アクセス系光ファイバーを持つ第1種通信事業者が実施することになる点。森本氏は、「これが補助金の対象となるかどうかが大きな課題だ。同時に、国に対しても光網敷設に関する助成金や投資減税といった措置を働きかける必要性があるだろう」と指摘している。

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[芹澤隆徳,ITmedia]



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