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2003/11/06 23:59:00 更新 |
ドメインの新常識はケータイが作る?
ただの文字列だったものが、ちょっとした工夫で大きな効果をもたらす。それがWebサイトのドメイン名だ。企業はそれぞれにドメインを工夫し、ユーザーを自社サイトに呼び寄せようとしている。
プロモーション活動には不可欠な存在となったWebサイト。その住所といえるドメインは、ユーザーを呼び寄せるための重要な要素だ。本来はただの文字列だが、ちょっとした工夫で大きな効果をもたらす。そんなドメインをめぐる最新動向を、日本レジストリサービス営業部の丸山直樹営業部長、そしてWebドメインマーケティングのコンサルティングを手がけるデータセクションの橋本大也社長に聞いた。
国内のドメインには、「.co.jp」「.ne.jp」のように、属性や地域を示す“属性型・地域型JPドメイン”と、セカンドレベルドメインを持たず単に「.jp」だけが付く“汎用JPドメイン”がある。現在国内にあるドメインの数は全体で約54万件。うち約30万件が「co.jp」や「ne.jp」「ac.jp」といった従来型のドメインだ。「属性型・地域型JPドメインのうち、約25万件がco.jpドメイン。国内の企業は、98%がco.jpドメインを取得している」(丸山氏)。
しかし、co.jpのドメインは、「1組織1ドメイン」が原則となっており、「広告宣伝などには使いにくい面があるのは事実だ」(丸山氏)。たとえば、アイティーメディアという企業が「リビングプラス」という商品を売りたいとき。商品情報のURLは、「http://www.itmedia.co.jp/products/livingplus/」といった長いものになりがちだが、メーカー名や検索方法を知っているユーザーならともかく、初心者が商品名だけを頼りにWebページに辿りつくのは難しい。
一方、汎用JPドメインの場合は「日本に住所を持っている」こと以外、規制がない。すでに登録されている文字列と重なったりしなければ、1社で複数のドメインを取得可能だ。このため、商品やサービスの名称をそのままドメインに利用するケースが増えてきた。
属性型・地域型の新規登録数が“横ばい”に近い状態であるのに対し、2001年2月に登録を開始した汎用JPドメインは、既に24万件の登録。うち6割強を企業が占めている(JPRS調べ)。
汎用JPドメインの効果
前述のリビングプラスという商品の場合、汎用JPドメインを使うと「www.livingplus.jp」というサイトができる。wwwの付加も運営者の判断によるため、より短くしたければ「livingplus.jp」も可能だ。「大企業では、グループのオフィシャルサイトをco.jpとしておき、関連企業、あるいは商品やキャンペーンのPRサイトに.jpを利用するケースが多い」(丸山氏)。
たとえばカシオ計算機は、デジタルカメラ「EXILIM」や腕時計「G-SHOCK」の商品サイトを汎用JPドメインを使って運営している。これは、商品のブランド力の強化につながるとともに、G-SHOCKがカシオの製品だと知らないユーザーでも容易にたどり着けるのがメリット。
さらにカシオは、「g-shock.jp」「gshock.jp」など表記が微妙に異なるドメインも取得しているという。こちらは、ユーザーがタイプミスをした場合でも、目的のサイトにたどり着けるように配慮したものだ。
「こうした細かな配慮がハードルを低くし、アクセスアップにつながる。企業側は管理するドメインの数が増えることになるが、製品プロモーションに役立つのであれば、十分に検討の余地があるはずだ」(橋本氏)。
ドメインの心理学
ドメインは短いほうが覚えやすい。それは感覚的に理解できるが、どの程度の長さまで許容されるのだろうか。橋本氏は、ドメインの長さを心理学の面から解説した。
人が数字や文字をみたとき、瞬間的に記憶できる数は7個程度で、ほとんどの場合は5個から9個の間に収まるのだという。この法則を発見した心理学者のジョージ・A・ミラーは、これを「マジックナンバー7±2」と称している。ただ、マジックナンバーをドメインの文字数に当てはめるだけでは足りない。「もう一つ、“チャンク”という概念を考慮する必要がある」。チャンクも、やはりミラーが提唱したもので、日本語に訳すと「最低熟知概念単位」となる。
たとえば、「yahoo」というドメインは5文字だが、多くの人は単語として捉え、記憶することができる。これを「チャンク化」と呼ぶ。「http://www.yahoo.com」というURLなら、チャンクはwww、yahoo、comの3つだ。「覚えやすいドメインは、チャンクが3±1程度だろう」(橋本氏)。
しかし、Yahooを逆さまにした「oohay」になると、同じ文字で構成されていても、人は単語として認識できず、最低熟知概念単位は文字のレベルにまで細かくなってしまう。この場合、チャンク数は文字数と同じ5だ。
携帯電話がドメインをさらに短くする
こうした心理学的な考証を考慮してか、サービスの分野では、3±1のドメインが急増している。たとえば、消費者金融業では、アイフルの「http://aiful.jp」、武富士の「http://takefuji.jp」というように、汎用JPドメインとwwwの省略によってチャンク数は2に押さえられた。また、プロミスの「http://2634.jp/」、キャッシュワンの「http://186000.jp」といったように、電話番号を前面に押し出したものも多い。「汎用JPドメインがテレビや雑誌などメディアに登場したとたん、(業界の)横のつながりで急速に広がったようだ」(丸山氏)。
背景には、やはり携帯電話の普及という要素が大きいだろう。「汎用JPドメインは、キーボードを持たない携帯電話と相性がいい。携帯電話で“co”と打ち込むときは、キーを6回(“2”と“6”を3回ずつ)叩かなければならないが、“jp”だけなら2回(“5”と“7”)で済む」。丸山氏は「もちろん、これは偶然」と笑うが、入力の労力が減るというメリットは無視できない。
Yahoo! JAPANが毎年実施している「ウェッブ・ユーザーアンケート」によると、「あなたは普段、どのような情報源からウェブサイトをお知りになっていますか?」という質問に対して、今年(第13回)は39%もの人が「テレビ番組やテレビコマーシャル」と回答したという。これは、検索エンジンやポータルサイトからリンクを辿るのではなく、多くの人がテレビを見て直接URLを打ち込んでいることを示している。昨年までは30%前後だったことを考えると、この一年間で状況がかなり変化したといえるだろう。
一方、映画業界のアプローチもユニークだ。たとえば、松竹エンターテイメントが運営する「ギャング・オブ・ニューヨーク」の公式サイトは「http://gony.jp」。映画のタイトルを略したものだ。
一見、訳のわからない“gony”という文字列だが、CMなどで映画のタイトルと一緒に流れると、自ずと省略のパターンはみえてくる。電話番号にしろ、映画のタイトルにしろ、テレビや雑誌で連呼されているうちに覚えてしまうため、結果としてチャンクは1つになるという寸法だ。
「キャンペーンや映画では、利用者の記憶に残ることが最優先になる。事実、松竹エンターテイメントでは、『ドメインを短くしたことでかなりのアクセスを稼ぐことができた』と話している」(橋本氏)。
また、新作映画が公開されるたびに同じパターンを使っていれば、利用者も公式サイトのドメインを予測できるようになるだろう。試しに「ロード・オブ・ザ・リング」のドメインを予想してみてほしい。答えは、もちろん「http://lotr.jp/」だ。
日本語ドメインの復権?
「覚えやすさ」を突き詰めていくと、注目したいのが日本語ドメイン名だろう。日本語ドメインは、「日本レジストリサービス.jp/」のように、日本語表記できるドメイン。ただし、普及のスピードは今ひとつだ。
JPRSによると、一番のネックは、対応するWebブラウザだという。現在、デフォルトで日本語ドメインをサポートしているのは、「OPERA」「Netscape 7.1」「Mozilla 1.4」の3種類。一方、マイクロソフトの「Internet Explorer」は未対応で、日本語ドメインをサポートするには、JPRSが配布している専用プラグイン「i-Nav」を導入する必要がある。インターネットユーザーの9割以上が利用しているIEだけに対応が待たれるところだが、今のところ具体的なスケジュールはたっていないという。
しかし、橋本氏は別の方向から日本語ドメインが浸透する可能性を指摘した。「携帯電話では、ソニーのPOBoxに代表される日本語予測変換が“当たり前”の機能になっている。仮に、これで日本語ドメインが簡単に入力できるようになれば、企業はマーケティング活動に積極的に活用するだろう」。
事実、日本語ドメインに対する企業の期待は大きい。JPRSの丸山氏によると、「日本語ドメインの話になると、企業は例外なく高く評価する。むしろ、われわれのほうが尻を叩かれることが多い状況だ」と話している。
ブラウザで予測変換技術が使えるようになれば、ユーザーはいくつかの文字をタイプして選択するだけの操作で目的のサイトにアクセスできるようになる。汎用JPドメインのように、日本語ドメインが携帯電話やネット家電の分野から普及する可能性もありそうだ。
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JPRS
[芹澤隆徳,ITmedia]