リビング+:ニュース 2003/11/12 21:31:00 更新


迷惑メール撲滅を阻む“法律の壁”?

ヤフーとマイクロソフトが「迷惑メール対策連絡会」を発足し、迷惑メールの撲滅を目指すという。しかし関連法規の“甘さ”や、通信の秘密保持といった大前提が足枷となりそうだ。

 ヤフーとマイクロソフトは11月12日、「迷惑メール対策連絡会」を発足すると発表した。社会問題化している迷惑メールに対し、その温床になっているとされた無料Webメール事業者自らが対策に乗り出す姿勢を示したかたち。ほかのISPなどにも参加を呼びかけ、迷惑メールの「撲滅」を目指すという。しかし、通信の秘密保持という大前提と関連法規の“甘さ”が重い足枷になりそうだ。

 ヤフーは「Yahoo!メール」、マイクロソフトは「MSN Hotmail」というWebメールサービスを提供しており、利用者は合わせて1000万人以上。しかし、その匿名性から迷惑メールの発信源として利用されることも多く、両社はこれまでも送信メール数の制限やフィルタリング機能など技術的な対応手段を提供するとともに、利用者に自衛の必要性を説いてきた。米国では 月に米Microsoft、Yahoo!、AOL Time Warnerが同様の対策に乗り出しており、今回の発表は本社の動きに連携したものといえる(関連記事)。

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左からマイクロソフトの執行役MSN事業部長の塚本良江氏、MSN事業部マーケティンググループの丸岩幸恵シニアマネージャ、ヤフーの喜多埜裕明社長室長、同じく別所直哉法務部長

迷惑メールは「不快」99%

 しかし、迷惑メールは全世界的に増加の一途を辿っている。米ブライトメール社が2003年10月に実施した調査結果によると、「この2年間で全世界で送受信されているメールのうち、迷惑メールが占める割合は2%から50%以上に増えた」。1日に送受信される迷惑メールの数は数十億通に上り、「個人や企業は精神的、また物理的に負担を強いられている」(マイクロソフトの執行役MSN事業部長の塚本良江氏)。

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迷惑メールは増加の一途

 迷惑メールが問題になるのは、受信者の不快感や削除にかかる時間的な損害、ユーザーが犯罪や詐欺などのトラブルに巻き込まれる可能性を誘因することなど。「Yahoo!リサーチ」の調査結果によると、携帯電話を含む電子メール利用者の実に95%以上が迷惑メールの受信経験を持っており、ほとんどすべての利用者(99%)がそれに不快感を感じているという。

 最近では、迷惑メール配信者の技術も巧妙化している。Fromを詐称するなど序の口で、たとえば有名ブランドをかたったサイトへ誘導し、個人情報や課金情報を入力させてしまう「Phisherサイト」、迷惑メールフィルタを回避するため件名を変更して何度も同じメールを送りつける「ポリモーフィック型メール」、同じくフィルタを回避するため、テキストを画像化して送りつけるタイプのメールなど。画像を利用したケースでは、Webメールを使うと受信者が画像をみると送信者側に開封通知が届き、そのメールアドレスが有効であると知らせてしまうことにもつながる。

 さらに深刻なのは、このまま迷惑メールが増加し続けると通信基盤としての電子メール自体が機能低下する恐れもあるということだ。不要なトラフィックがネットワークやサーバを圧迫するうえ、迷惑メールフィルタの設定によっては、必要なメールが届かなくなってしまう可能性もある。

 「メールアドレスは電話と同程度の数が出ている重要な通信インフラ。このままでは、日常的なコミュニケーション基盤としての機能をしなくなる可能性もある。しかし、一社だけの努力では、限界を感じているというのが正直なところ」(マイクロソフトMSN事業部マーケティンググループの丸岩幸恵シニアマネージャ)。

ブラックリストの作成は無理

 ヤフーとマイクロソフトが挙げた対策連絡会の活動内容は主に3つ。定例会議などを通じて参加各社が情報を共有し、迷惑メールの送信者を特定すること。迷惑メール関連法令を検証し、必要なら関連省庁に対して改正を働きかけていくこと。個人ユーザーやメールをマーケティングツールとして利用している企業に対して対策を提言していくこと。情報交換を通じて対策を強化するとともに、ほかのISPや通信事業者、関連省庁などに呼びかけ、参加メンバーを募る。

 両社が「迷惑メール」と定義するのは、受信者の承諾なく送付される表示義務違反の宣伝広告メールと、自動生成されたメールアドレスに送信された宣伝広告メールの2つ。義務づけられている「未承諾広告*」の表示がないメールや、送信元メールアドレス(From:)を詐称したメールがこれに含まれる。

 しかし、実際のところ連絡会で交換できる“情報”は限られたものになりそうだ。憲法第21条と電気通信事業法第2条で保証される「通信の秘密」は、通信事業者にとって大前提。交換(=第三者に開示)できる情報は制限され、たとえば迷惑メールの発信元と思われるユーザーを特定できたとしても、ログや該当ユーザーの個人情報を交換することは不可能だ。「通信の秘密に該当しない範囲になるため、共有できる情報はかなり限られる。現段階ではブラックリストの作成などはできない」(ヤフーの別所直哉法務部長)。

「未承諾広告※」は効果なし

 日本には、迷惑メールを規制する法律が2つある。経済産業省による「特定商取引に関する法律」と総務省所管の「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律」だ。対象は前者が通信販売事業者、後者は営利目的の団体や個人で、いずれも送信元メールアドレスや「未承諾広告※」の表示義務、オプトアウト(送信拒否)を用意する義務などを課している。

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Yahoo!リサーチの調査結果。「未承諾広告※」表示の防止効果には、8割のユーザーが否定的な見方をしている

 しかし、「未承諾広告※」の抑止効果には疑問の声が多く、またオプトアウトを申し込めば、逆に自分のメールアドレスが有効だと相手に知らせることにつながってしまうなど、問題は山積している。罰則も軽く、違反行為に対する措置を無視して初めて罰金が科せられる程度だ。

 「施行から1年半が経過し、実効性について検証していく時期になった。もし十分でないと判断したら、課題を挙げていく必要もあるだろう。また、最近話題の“架空請求メール”の扱いなど、迷惑メールの定義についても検討していただきたい」(別所氏)。

 事業者だけが対策を講じても、その実効性は限られたものになることが自明で、行政との連携は不可欠だ。米国では、Yahoo!などサービスプロバイダーのロビー活動がスパム防止法の成立につながった例もあるというが、国内では担当省庁がヤフーなど有力プロバイダーに対して協力を求めてきた事例すらない。

 あらためて「迷惑メールを撲滅できるのか?」と問われ、「“気持ち”としては撲滅したい」(ヤフーの喜多埜裕明社長室長)と返したところに、両社の複雑な心情がうかがえる。電子立国を目指しているはずの“e-JAPAN”にも、適切な対応が求められそうだ。

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▼Yahoo! JAPAN
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[芹澤隆徳,ITmedia]



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