「インターネットが遅い」「電子マネー利用時に通信エラーが発生する」「Web会議の音声が途切れる」など、一つ一つは我慢できる悩みでも、ITが重要なビジネス基盤となる今、通信にまつわる不満やちょっとしたトラブルは業務の中断につながりかねない厄介な経営課題だ。
特に多拠点・多店舗を展開する企業(以下、多拠点企業)の場合、通信ネットワークの運用には特有の課題がある。小売や不動産、娯楽サービスなど消費者向け店舗の他、営業・製造拠点など、複数拠点を抱える業種はさまざまだ。機器故障で通信トラブルが起き、仕入れシステムや電子決済システムへの通信が止まったら機会損失につながる。インターネットイニシアティブ(IIJ)が調査会社アイ・ティ・アール(ITR)に依頼して実施した調査によると、多拠点企業の半数近くは、通信に起因する問題で、拠点業務や店舗運営への影響が出ている。この調査は、多拠点企業固有の課題を把握するために、10カ所以上の拠点・店舗を展開する国内企業を対象に2024年11月に実施したものだ(※注1)。
※注1 ITR「国内企業ネットワーク活用動向調査」(2024年11月調査)
人材不足が叫ばれる中だからこそ「セキュアで快適な通信環境を、手間なく安定的に維持する」ことは事業継続の要となる。多拠点企業が直面しがちなネットワーク課題は、どのように克服すればよいのか。IIJ サービスプロダクト推進本部長の林賢一郎氏と、ITmediaビジネスオンライン編集部 副編集長の秋山未里が語り合った。
※以下、敬称略
秋山 本社や主要拠点にしかネットワーク管理者がいないのは珍しくないため、深刻なトラブルが発生したら最寄りの拠点から出張してもらう必要が生じます。近ごろは経費削減が厳しく問われ、人材も不足していて、どの企業も対応に苦慮しているようですね。多拠点企業に特有のネットワーク課題としては、他にどのようなものがありますか。
林 ビジネス面での課題としては、まず通信の遅延が挙げられます。店舗で電子決済時に通信エラーが起きたら、お客さまも店舗スタッフも困ってしまいます。混雑時、繁忙期であれば、機会損失にもつながりかねません。ネットワーク開設工事や拠点内のネットワーク機器設定がスムーズに進まないことも、通信インフラに起因するビジネス課題の一つです。結果的に、出店計画の遅延につながってしまうケースもよく伺います。
運用面でよく挙がる課題は効率化ですね。ルーターやアクセスポイント、ファイアウォールなどの機器を1000拠点に導入するとなると、設置と設定作業が数千台の規模で発生します。設置機器の数をなるべく減らし、設定作業の工数も減らしたい、できれば自動化したい。この課題は多拠点企業ゆえと言えます。人材不足がますます深刻化することを考えると、今の運用のままではメンテナンスすら成り立たなくなる可能性もあります。
秋山 こうしたネットワークの課題について、経営層がどこまで理解しているか、も重要なポイントだと思います。挙げていただいたような課題を経営層が軽視してしまうと、事業継続性やセキュリティにリスクを抱えることになる。ITが主業務ではない企業や、IT担当者が不足している企業は特に、人的リソースや工数をかけることなくネットワークを安定運用できる仕組みを持つのが理想ですね。
林 そうですね。ネットワークを一元的かつ自動で管理できる仕組みを持つことはとても重要です。ネットワーク機器のファームウェアアップデートを1000拠点分、手作業で進めるのは大変ですし、設定ミスが起きたら影響も甚大です。ネットワーク全体の構成を理解している人間が限られているにもかかわらず、わずかな人数で膨大な管理業務をこなさなければならないことは、経営リスクとして解決を図る必要があります。それと同時に技術面では、通信遅延の解消、出店計画などビジネススピードに合わせ展開できる柔軟性と拡張性も、これからの多拠点企業のネットワークにとって重要な要件と言えます。
秋山 貴社の調査結果から分かる顕著な問題の一つが「通信遅延」ですね。およそ半数が、通信遅延などの問題を挙げています。昨今では、勤怠管理、Web会議、POSレジなど、拠点や店舗で利用するSaaSの種類はますます増えています。拠点におけるネットワークの重要性も高まっています。SaaSによる通信遅延で拠点の業務が滞ってしまっては本末転倒です。
林 昔と比べると、SaaSを拠点や店舗で利用する機会が増え、通信量も大幅に増えています。VPNを使った従来型のネットワーク構成だと、インターネットへの接続は本社などのセンター拠点に集約されます。通信量が多いとここがボトルネックになり、通信の遅延が起きることがあります。本社の基幹システムはオンプレミスインフラやIaaSなどで稼働しており、IT環境が新旧混在して複雑化していることも課題の一つです。これでは本社のIT管理者も運用管理に苦労しますし、効率的なセキュリティ対策も難しい。
業務のデジタル化は大事ですが、ツールを最新化するならばネットワーク構成も含めて最新化、シンプル化しなければなりません。基幹システムからSaaSまで、安全で快適に活用できるネットワークをいかに構成するか、が大きな課題です。
秋山 SaaS利用など、IT環境に合わせたネットワークの最適化は多拠点企業にとって喫緊の課題ともいえますね。一方でオンプレミスとクラウドの新旧混在環境におけるネットワークの最適化は大きなチャレンジになりますね。多拠点企業では、こうした新旧混在環境はどのような実態なのでしょうか。
林 この調査では、回答した多拠点企業の4割以上が今後3年でフルクラウド化する意向を示す一方で、オンプレミスインフラを併用するという回答も約半数ありました。
クラウドに移行する必要のないシステムや、移行がデメリットになるシステムは確かにあるでしょう。ユーザー企業もそれを理解していて、オンプレミスシステムを残す選択をしていると考えられます。
秋山 DXのためにクラウドシフトは必然の流れですが、オンプレミスとクラウドの併用は現実的な落とし所かもしれません。多拠点企業としては、拠点も含めて安定的にITを利用できるよう、ネットワークの可用性や運用の簡便さを重視したいですね。オンプレミスとクラウドの混在環境において、ネットワークの課題を改善する最適解をIIJはどう考えますか。
林 ビジネス環境の変化に対して、柔軟かつ迅速にネットワーク構成を切り替えられる仕組み、つまりネットワークの仮想化・自動化が重要です。拠点間やクラウドへのネットワークをソフトウェアで管理するシステム「SD-WAN」は、拠点で顕在化するネットワークのボトルネック解消に寄与します。当社が提供する「IIJ Omnibusサービス」は、SD-WANをはじめ、さまざまなセキュリティサービスと連携し、ユーザー企業に安全で快適な通信を提供するネットワークサービスです。
秋山 IIJ Omnibusサービスは、多拠点企業のネットワーク課題を解決するソリューションとしてどう機能するのでしょうか。
林 SD-WANの機能をベースに、インターネットゲートウェイなどのセキュリティサービスと連携して提供しています。SaaS利用増による通信遅延をはじめ、迅速な拠点展開、運用の効率化、セキュリティ対策など、多拠点企業のネットワーク構成に関する課題を一気に解決します。
大きな特徴はSaaS利用増などによるネットワークの混雑を解消する技術を搭載し、それをお客さまはとにかく簡単にご利用開始できるという点です。IIJ Omnibusサービスのご契約企業には専用SD-WANルーターを提供します。当社の特許技術(特許第3774433号公報)を組み込んでおり、電源プラグを挿すだけで、ネットワーク管理者が用意した設定をクラウドからインストールして、すぐに安全なネットワーク環境につなげられます。これは「ゼロタッチプロビジョニング」という技術です。IIJ Omnibusサービスではこの他、フレッツ網の混雑を回避する「IPv6 IPoE」や、拠点からSaaSへ直接通信する「ローカルブレイクアウト」などの技術を組み合わせることで、クラウド時代のネットワーク遅延の課題を解決します。
秋山 人的リソースが限られている中、IT環境の最新化に取り組むのは企業にとって大きな挑戦だと思います。こうしたサービスで手軽にスモールスタートが切れるのは、経営層にも従業員にとっても心強いことですね。IIJ Omnibusサービスの導入事例があれば、ご紹介いただけますか。
林 全国200軒以上の靴専門店を展開するリーガルコーポレーションさまでは、各拠点に敷設したネットワークで頻発する通信遅延に悩んでいました。VPN機器の保守切れのたびに機器の更新や再設定が必要なことも負担となっていました。IIJ Omnibusサービスの導入で快適な通信を実現するとともに、停止を伴う障害を80%以上削減し、ネットワークのトータル運用コストは17%以上の削減ができたそうです。その後、タブレット型POSレジなどのモバイル端末を活用できる環境が整備されました。
秋山 ルーターの実機を拝見しましたが、小さくて軽いのですね。説明書の手順も簡潔です。これなら新しい拠点や店舗の開設時に、現場のスタッフだけでも準備ができそうです。
林 導入時の簡便さは迅速な拠点拡大を後押しします。ネットワーク設定を内部に保存せず盗難時の不正アクセスリスクを回避できる点や、小型で設置場所が選びやすい点は、拠点利用時のメリットになります。ネットワークにつながらなくなっても、電源プラグを挿し直せば設定が初期化されて再接続できますから、専門技術者を派遣するような場面はほとんど生じません。
IIJ Omnibusサービスは、通信遅延、迅速な拠点展開、運用の効率化といった、多拠点企業のネットワーク課題を解決するサービスとして、規模、業種問わず多くの多拠点企業にご利用いただいている、3年連続市場シェアNo.1のSD-WANサービス(※注2)です。今後さらに深刻化する人材不足の中で、多拠点企業にとって、手間なくネットワークインフラを最新化、最適化できるスタンダードサービスとして、一番にご検討いただけるよう引き続き品質安定、機能拡充を図ってまいります。
※注2 出典:富士キメラ総研「2022〜2024 コミュニケーション関連マーケティング調査総覧」2021〜2023年度の年度末時点のサービス利用CPE(顧客構内設備)累計台数ベース、売上金額(SD-WANサービスの利用料収入)ベース
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提供:株式会社インターネットイニシアティブ
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2025年3月16日