日本のビジネスシーンにすっかり根付いたクラウドストレージサービス。多くの日本企業が「Box」や「Microsoft SharePoint」「Google Drive」などを積極的に活用し、コンテンツを共有しながらコラボレーションを進めている。しかし数年前までは、こうしたサービスの利用はほんの一部の企業にとどまっていた。
「弊社がBoxの代理店になった頃はクラウドストレージサービスに対してセキュリティ対策の不安や懸念を抱く企業が多く、日本ではさほど普及していませんでした」
こう振り返るのは、丸紅I-DIGIOグループの丸紅ITソリューションズ(以下、MISOL)の廣瀬翼氏(カスタマーサクセス事業部 カスタマーサクセスマネージャ)。当時の風潮を一変させたのは、言うまでもなくコロナ禍だった。
出社が制限されてオンプレミスシステムのファイルサーバにアクセスできなくなったことで、多くの企業が業務に支障を来すようになった。社内外からインターネットを介して手軽にコンテンツを共有できるクラウドストレージサービスのメリットが注目され、急速に導入が進んだ。中でもBoxは、日本企業が重視するセキュリティ対策やコンプライアンスの要件に応えられるサービスとして多くの企業が導入し、コロナ禍以降も利用している。
しかし中には、予期せぬトラブルに見舞われたり自社のセキュリティポリシーと合致しない点が明らかになったりするなど、さまざまな課題に直面する企業も多い。そこで注目を集めているのが、ユーザー企業がBoxを導入した後の運用を、ベンダーやシステムインテグレーター、代理店の専門家などが手厚く支援する「カスタマーサクセス」の取り組みだ。
「従来のオンプレミス型のIT製品はユーザー企業が製品を導入した時点で全売り上げを回収しますが、SaaSのようなサブスクリプション型のビジネスモデルは使い続けていただくことでビジネスが成り立ちます。長期間にわたって製品やサービスの価値を感じていただくために、ユーザー企業に寄り添いながら手厚く支援するカスタマーサクセスの重要性が増しています」
MISOLもBoxの代理店として、Boxの導入支援はもちろんのこと、ユーザー企業がBoxを使い倒すためのさまざまなカスタマーサクセスのメニューを用意している。
MISOLの支援をBoxの運用に生かしているのが大陽日酸だ。同社は日本酸素ホールディングス傘下の大手産業ガスメーカーで、酸素や窒素、アルゴン、アセチレンなどの産業ガスを幅広い業界に提供するとともに、ガス関連の機器やサービスを展開している。
かつて同社はファイルサーバで技術情報や営業情報のファイルを管理していたが、同社の鈴木一登氏(経営企画・ICTユニット ICTマネジメント統括部 プラットフォーム部 ICTインフラ企画課)によると、セキュリティ対策やガバナンス上の懸念がなかなか拭い切れなかったという。
「ファイルサーバでは詳細なアクセス履歴などのログを十分に取得できないため、貴重な技術情報や営業情報を守る上でのITガバナンスが十分に機能していないのではという懸念がありました。そこで、ファイルの保管場所をセキュリティ機能に優れたクラウドストレージサービスに移行する方針を打ち出しました」
主だったクラウドストレージサービスを幾つかピックアップして機能を比較検討した結果、ログ管理機能に優れ、かつ大陽日酸が保有する大容量のファイルをコスト効率良く管理できるBoxを導入することにした。
当初はMISOL以外の代理店からBoxを購入してサポートを受けていたが、最新情報のキャッチアップを自社で対応せざるを得ない点に課題を感じていたと鈴木氏は語る。
「Boxから新たなリリース情報を公開されると、自分たちでチェックする必要がありました。しかし自社にとって影響が大きい仕様変更のリリース情報をまれに見落としてしまい、従業員のアクセス権限で問題が生じてしまったこともありました」
やがてBoxライセンスが契約更新を迎えることになり、代理店を再選定する機会が巡ってきた。そこで白羽の矢が立ったのがMISOLだった。もともと、大陽日酸はMISOLが開発・販売しているBoxのデータ移行ツール「Rocket Uploader」を利用しており、MISOLがBox関連のソリューションに強みを持っていることは知っていた。
MISOLの葛目圭彦氏(プロダクト事業部 シニアソリューションスペシャリスト)は「Boxの運用を続けるうちに『もっとセキュアに使いたい』『より便利に使いたい』という声をユーザー企業から頂きます。要望のうち、Boxの標準機能では実現が難しいものを弊社でツールとして実装して提供しているのがBoxエコシステムソリューションです」と説明する。
それだけでなく、MISOLがカスタマーサクセスを提供していることを知り、「もともと抱えていた『Boxの仕様変更や機能追加に追随できない』という課題の解決に役立つのではないか」(鈴木氏)と考えた大陽日酸は、Boxのライセンスと併せてMISOLのカスタマーサクセスを積極的に活用することにした。
以降、MISOLの廣瀬氏が大陽日酸担当の「カスタマーサクセスマネジャー」として、Boxの安全・安心な運用やさらなる有効利用のための提案を行っている。Boxの仕様変更や機能追加にどのように対応すればいいのかを資料にまとめて提供したり、定例会を通じて案内したりしているという。
「リリース情報はBoxからも公式にアナウンスされますが、内容は英語の直訳で日本のユーザーには理解しにくく、ユーザー企業にとっては自社にどの程度重要なものかも容易に判別できません。Boxにもカスタマーサクセス部門はありますが、ユーザー数が多過ぎるため各社の細かい仕様やニーズまでは支援の手が回っていません。弊社のカスタマーサクセスは、膨大なリリース情報の中からユーザー企業にとって本当に重要なものだけをピックアップし、具体的な対応策も含めてご案内できます」(廣瀬氏)
こうした支援を受けることで、大陽日酸におけるBoxの運用は目に見えて改善したと鈴木氏は語る。
「Boxの仕様変更に能動的に対応していただけるので、極めて安定して運用できるようになりました。利用している他のSaaSと比較しても、Boxは明らかにトラブルが少ないですね。Boxの利用状況に関するレポートを廣瀬さんに提供してもらい、従業員の利用状況を正確に把握できるようになったことで活用をさらに促すための施策に役立てられるようになりました」
Boxはサービス開始以来、新機能を矢継ぎ早にリリースしており、そのたびに設定項目も増えている。これらを細かく設定することで、ユーザー企業は自社の状況によりフィットした運用ができるようになる。しかし多岐にわたる各設定項目の意味や重要性を全て理解するのは難しく、設定漏れによるアクセス権限の設定ミスや情報漏えいのリスクも高まってきた。
こうしたセキュリティリスクにきちんと対処しつつ新機能を積極的に活用して利便性を向上させる上で、Boxに精通した専門家の伴走支援を受けられるカスタマーサクセスは利用価値が極めて高いと廣瀬氏は話す。
「SaaSの設定項目が多過ぎて内容を把握し切れなくても、個人利用なら『まあいっか』で済まされるかもしれません。しかし企業で利用する場合、設定漏れが深刻なインシデントに直結する恐れがあるため、決していいかげんに済ませることはできません。Boxを利用する際は、自社のセキュリティポリシーに照らして適切な設定や運用を指南してくれるパートナーの存在が不可欠です」
鈴木氏もカスタマーサクセスの支援を受けた結果、その価値を身に染みて実感したと語る。
「MISOLの質の高いサービスに満足しています。やはり私たちと一緒に走ってくれるパートナーがいることの安心感は、何物にも代え難いと感じています」
Boxは急速な勢いで進化を続け、最近はAIを取り入れた機能が注目を集めている。MISOLでBoxの新規導入プロジェクトを担当している小林真菜美氏(Box事業部 ソリューションスペシャリスト )は、こうしたAI関連の機能も積極的に提案していきたいと抱負を語る。
「生成AIを使って、Boxに保存された非構造化データを要約したり新たにコンテンツを作成したりできる『Box AI』の登場や、弊社のエコソリューションのクラウド化を進めるなど、ユーザー企業に提案できるソリューションの幅が広がってきました。今後はカスタマーサクセスの活動を通じて得られた情報や知見を生かして、ユーザー企業の個々のニーズに最適な提案を行っていきたいと考えています」
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