2027年4月以降に開始する事業年度から適用される「新リース会計基準」。開始まであと2年を切った今、企業の準備状況はどうなっているのか。ソフトウェアベンダーのクレオが国内企業186社にアンケート調査を実施し、大手・中堅企業の温度感や課題感をまとめている。それによると、多くの企業がまだ本格的な対策に着手していないことが分かった。
同社の漆坂達也氏は次のように語る。「『何もしていない』『情報収集段階』と答えた企業が合わせて約8割を占める結果となりました。まだ時間があると考えているのか、動きの鈍さが気になります」
調査対象を年商50億円以上の大企業86社に絞ると、約6割は新リース会計基準が自社にどの程度影響するのかを把握できていないと答えた。
「特に大企業の場合、リース資産は子会社を含めて多くの部門がそれぞれの方法で管理しており、全体像を把握できていないケースが多々あります。そのため、どう対応するか検討する以前の段階で止まっている、もしくは進んでいないと考えられます」
リース資産の管理状況についての質問に対しては、5割の企業が「Excelで管理している」と回答した。これは「専用システムを利用している」(3割)、「分からない」(2割)を抜いてトップだった。
「さらに年商50億円以上の大企業に絞っても、約4割の企業がExcelを使って人手で管理していることが分かりました。これまでのリース資産管理はITシステム化しなくても対応できていた業務領域だったと言えます」
しかし、新リース会計基準ではそれが一変する。従来は貸借対照表に計上せず、注記のみで済んでいたオペレーティングリースについてもリース処理をしなければならなくなるからだ。リース物件の確認に手間がかかるだけでなく、処理のプロセスも複雑化する。
「従来通りの方法で進めて処理が遅れたり誤ったりした場合、決算発表の遅延などを招く恐れがあります。さらに、リース資産を正しく計上していないと監査法人から指摘を受ける可能性があることも懸念点の一つです。そのことで株主や取引先などの信頼を失う可能性も否定できません」
仮に、全てのリース取引を新リース会計基準に対応させたとしても、企業経営には少なからず影響が出ると予想されている。
新リース会計基準は、企業が抱えるリース物件のうち、これまで会計上の「資産」として取り扱ってこなかった「オペレーティングリース」も、「使用権資産」「リース負債」として貸借対照表に組み込む必要がある。この会計上のオンバランスの増加は、貸借対照表の総資産、総負債額の増加を意味する。同じ事業をしていても総資産、総負債が増加することによって、経営指標であるROA(総資産利益率)や自己資本比率といった指標が悪化することになる。
従来はリース料として営業費用に計上されていた金額が、新基準では減価償却費および利息費用に分けて損益計算書に計上されるため、営業利益やEBITDAが見かけ上改善される。「不動産や車両、航空、物流、福利厚生など、リース案件を多く持つ企業ほど経営指標に与える変化が大きくなります」
事務処理の負担増加だけでなく経営指標への影響なども予想されるのが、新リース会計基準が企業にもたらすインパクトだ。現時点での企業の動きは鈍いが、一部の企業はすでに適用が始まっており、対応の猶予は限られている。
では、企業はこれからどのように対応を進めればいいのだろうか。
従来、企業が管理するリース物件は、簡単にいうと「リース契約書」があるものに限られていた。しかし新リース会計基準は、この解釈が大きく変わる。リース契約書がなく利用料を支払うような契約でも、特定の資産を使用する権利が一定期間その企業に移っているというリースの定義に合致した場合、会計上もその資産をリースとして取り扱わなければいけなくなる。
企業が新リース会計基準に対応するためには、従来はリースとして扱ってこなかった「隠れリース」とも言うべき取引を洗い出す必要がある。この作業は企業規模や業種などによって異なるため、関係する部門と協力しながら進めるしかない。この現状把握がまだできていない企業は今すぐ始めるべきだ。
この隠れリースを洗い出す作業も、これまでよりも複雑で作業量が膨大になる可能性が高い。これを機に従来のExcel運用から脱却して、専用の管理システムを導入することをクレオは推奨している。
一般的な新リース会計基準への対応スケジュール(3月決算企業の場合)は、2024年度に現状把握を終えて2025年度第1四半期に対応方針の検討に入るのが理想とされている。しかし、多くの企業が現状把握さえできていない状況では、このスケジュール通りに進めるのは難しい。
「現状把握フェーズにおいては、自社にとってリース管理はどうあるべきなのかを考え、場合によっては業務プロセスをどう変えるかを決めます。その上で、システムを導入するのであれば要件を定義し、それに合うシステムを提供できるベンダーを選んで、2026年4月にシステム導入を開始。翌2027年4月の本番稼働を目指すというのが基本スケジュールです」
ただし、現状把握が遅れている状況で精度の高い要件定義を行うのは難しい。初めてシステムを導入するケースでは、開発途中で予期せぬ問題が発生することも多々ある。
「そうした課題に対して、システム導入を前倒しして現状把握と業務改善を同時並行で進める方法をクレオはお勧めしています」
この「先行導入」の最大のメリットは、新制度の施行までにシステムに慣れる時間を十分に確保できる点にある。システムを早期に導入することで運用上の課題や改善点が見えてくるため、本番稼働までに適切な運用体制を整えられる。
「初めてシステム化する業務では、何から手を付けたらよいか分からないというケースがほとんどです。しかし、システム化するということは、必要な情報や対応の確認、現状把握を同時並行で進められる合理的な面があります。結果的に無駄な作業を省き、二度手間になることを避けられる可能性が高いのです」と、漆坂氏はその有効性を力説する。
早期導入によってシステムベンダーの繁忙期を避けられるというメリットもある。新リース会計基準に対応するためのシステム導入は、2025年秋から2026年春にかけてピークに達すると予測されている。この時期に需要が集中することで、ベンダーの対応遅延やプロジェクトの長期化といった事態も想定される。早めに取り組みを始めることで、スムーズな導入が可能になるだろう。
煩雑な手間が予想される新リース会計基準への対応を前に、気後れしている企業もあるだろう。クレオは、新リース会計基準に対応するシステムとして「ZeeM 固定資産・リース資産管理」を提供している。同社の大手・中堅企業向け人事・経理・会計システムである「ZeeMシリーズ」のオプションとして開発されたシステムで、ZeeM 固定資産・リース資産管理単独での導入も可能だ。
ZeeM 固定資産・リース資産管理は、管理会計、税務、シミュレーションなど複数の帳簿を柔軟に管理できる「複数台帳管理」、契約書や画像などの関連資料を一元管理できる「ファイル添付」など大手・中堅企業が抱える複雑な資産管理業務に対応するための豊富な機能を備えている。
仕訳や取得資産情報、マスターデータなど、多様なデータとの連携が可能だ。クレオ製だけでなく他社製の会計システムとも連携できるため、既存のシステムを有効活用しながらリース資産管理業務を効率化できる。
利用形態は、ライセンス購入モデル(オンプレミス型、IaaS型)と月額利用モデル(SaaS型)の3種類。固定資産管理のみ、リース資産管理のみ、またはその両方を組み合わせた利用も可能だ。
漆坂氏は「世界標準のERPでも、固定資産・リース資産管理のモジュールが使いやすいとは限りません。新リース会計基準対応のように最終的にデータ連携だけできればよいという業務であれば、使い勝手の良い別のシステムを組み合わせたいというニーズは多く、ZeeM 固定資産・リース資産管理はそのニーズに応えられます」と強みを語る。
ZeeM 固定資産・リース資産管理を先行導入した場合、2026年3月になると自動アップデートによって新リース会計基準に対応した機能が追加される。そのためユーザー企業は、「新基準の適用開始までにシステムの使い方に慣れながらリース会計業務のブラッシュアップを検討することで、ゆとりを持って対応できます」と漆坂氏は説明する。
最後に漆坂氏は、新リース会計基準への対応をこれから始める企業に対して、次のようにアドバイスした。
「新リース会計基準への対応は、財務部門やIT部門が個別に対応すればいいというものではありません。新たにリースに組み込まれる資産を業務で利用している各部門やグループ会社、取引先との関係を見直す契機になるリース資産の扱いが変わることで、経営指標が大きく変化します。それだけ影響範囲が大きいことだという認識を持っていただき、早めに対応するのが吉でしょう」
クレオは、新リース会計基準を理解してもらうために会計士による連載コラムやセミナーを開催し、ホワイトペーパーや特設サイトなどでも情報を精力的に発信している。これらの情報も参考に、1日でも早く新リース会計基準への対応を開始してほしい。
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提供:株式会社クレオ
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2025年8月7日