AI技術の進化は止まらない。人間の指示に基づいてテキストや画像などを生成する「生成AI」は広く普及し、日常業務に取り入れる機会も増えている。その流れで自動化技術は次のステージに進み、人間が設定した課題や条件を踏まえて自律的にプロセスを実行し目的を達成する「エージェンティックAI」※が台頭してきた。これらのAI技術は、企業経営の在り方に変革をもたらそうとしている。
こうした時流を見据えると、エージェンティックAIを支えるITインフラとして“AI-Ready”なデータ基盤の重要性はますます高まっている――日本オラクルの三澤智光社長は、2025年7月に同社が開催した「FY26事業戦略説明会」でそのように強調した。つまりAIのメリットを最大限に引き出す準備を整えたデータ基盤を用意してこそ、企業はAIを効果的に活用できるようになるということだ。AI時代にあるべきデータ基盤の姿とはどのようなものか、事業戦略説明会における三澤氏の言葉から読み解いていこう。
※本稿では「エージェンティックAI」と「AIエージェント」を次の意味で定義し、用語を使い分けている。
・エージェンティックAI:複数のAIエージェントが協働しながら自律的に意思決定し、複雑なタスクを遂行して目標を達成するAIソフトウェアの総称
・AIエージェント:環境や状況を踏まえて自律的に意思決定し、設定されたシンプルなタスクを遂行するAIソフトウェア
2026年度の重点施策として日本オラクルは、ミッションクリティカルシステムのモダナイズに向けた「日本のためのクラウド提供」と、「お客さまのためのAI推進」の2つを掲げる。決められたプロセスやタスクを自動化する従来のAI活用が静的なアプローチであるのに対し、複数のプロセスやタスクを自律的に実行するエージェンティックAIは動的なアプローチだ。アプローチが変われば、それを支えるあらゆるITにパラダイムシフトが起きるのは必然といえる。
従来型のアプリケーションは、GUI、プログラミング言語で処理内容が固定されたビジネスロジック(ルールや手順)、ビジネスロジックから生み出されたデータという構造が当たり前だった。だがエージェンティックAIのアプリケーションだと、UIは自然言語のやりとりに置き換わり、プログラミング言語で記述されたビジネスロジック部分はAIが肩代わりする。
このようなアプリケーション構造の変化を踏まえた「AIネイティブ」な開発が今後主流になると、データベースの重要性はより一層増す、と三澤氏は説く。ここで必要になるのが、AIエージェントがあらゆるデータを高速かつセキュアに処理できるAI-Readyなデータ基盤だ。
AI-Readyなデータ基盤の要件について、三澤氏は次の3点を強調する。マルチモーダル(文字や画像など多様な形式)で膨大なトランザクションを扱えること、リアルタイムデータを高速かつセキュアに処理できること、そしてデータとコンテキスト(ある情報が成立するための背景や状況)を一元管理する「シングルデータモデル」であることだ。
「アプリケーションベンダーがAIを実装する場合、AI専用のデータストアを外付けで用意した上で、アプリケーション側のデータをコピーして処理する“ボルトオン型AI”が一般的です。しかしこの手法はリアルタイム性に欠け、コンテキストと切り離されたデータのみをコピーして処理するため、AIの精度が下がるデメリットがあります。AIの精度を高めるにはコンテキストも重要であり、データとコンテキストを一元管理するデータ基盤が必要です」
オラクルはデータとコンテキストを一元管理するシングルデータモデルを古くから採用してきた。その結果生まれたのが「Oracle Fusion Cloud Applications」「Oracle NetSuite」などのSaaSに搭載された“ビルトイン型AI”だ。シングルデータモデルだからこそ、AIエージェントはアプリケーションの壁を越えて、あらゆるデータとコンテキストに自由にアクセスし処理できる。
三澤氏はこう語る。「競合他社のようにプロセスで生成されるデータをファイルシステムに落とすのではなく、データモデルからプロセスを起こすという真逆のアプローチです。オラクルは、ERP、SCM(サプライチェーンマネジメント)、HCM(人的資本管理)、CX(カスタマーエクスペリエンス)などのアプリケーションをシングルデータモデルで実現したアプリケーションベンダーだと自負しています」
特筆すべきは、同社のSaaSがAI-Readyである点だ。Oracle Fusion Cloud Applicationsは、既に152の生成AI機能と54のAIエージェント機能を組み込んでおり(2025年7月現在)、追加費用なしで日本語のAIエージェントを利用できる。AIエージェントのテンプレートやライブラリ、外部とのサービス連携を提供する「Oracle AI Agent Studio」には新機能「カスタムAI」が加わり、ユーザー企業が独自で用意したAIモデルを取り込めるようになった(有償オプション)。これにより、高度専門領域のニーズ、業種・業界固有のニーズに応えられるAIエージェントの構築がさらに加速するだろう。
三澤氏が挙げた3つの要件は、それぞれ密接に関係している。テキストだけでなく画像や音声など、マルチモーダルなデータがあっても、それ単体ではAIは意味をくみ取れない。そのデータがいつどこでどう発生し、それがビジネスにどう役立つのかというコンテキストをAIエージェントにしっかり理解させるために、データは詳細なコンテキストとセットで管理する必要がある。
この膨大でカオスなアーキテクチャにおいて、AIの処理をシンプルに支えるためには、AIエージェント時代を見越して設計されたデータ基盤が必要になるわけだ。オラクルのデータベース製品のフラッグシップに位置付けられる「Oracle Autonomous Data Platform」は、構造データやベクトルデータ、画像データなどのマルチモーダルデータを1つのデータ基盤で管理できるだけでなく、コメントやアノテーションといったコンテキストも一元管理可能だ。これらのデータとコンテキストは、「OpenAI」「Llama」などのLLMと組み合わせ、より高精度のAIエージェントを構築できる。
この他にも、オラクルが培ってきたさまざまな技術がAIエージェント時代のAI-readyなデータ基盤を支えている。強固なセキュリティとガバナンス機能、業務プロセスにおけるAIエージェント活用のためのOLTPやDWHといったマルチワークロード対応、AIエージェントが生成する大量のトランザクションを高速で処理するスケーラビリティ。「セキュリティと信頼性の確保が、AIエージェントの成否を分ける」のだと三澤氏は語る。前述のOracle Fusion Cloud ApplicationsやOracle NetSuiteなどのSaaSも、Oracle Autonomous Data Platformを基盤としてサービス提供している。
AIの進歩とともにアプリケーション開発の在り方も大きく変わろうとしている。オラクルのデータベース製品は、ローコードアプリケーション開発基盤「Oracle APEX」を標準搭載している。自然言語による指示を踏まえて生成AIがコードを生成するので、業務アプリケーションを誰でも簡単に開発できるようになる。Oracle Autonomous Data Platformの標準機能だけでも、必要なデータソースからLLMと組み合わせた、高精度な回答をセキュアに作成するAIエージェントがすぐに構築できるという。
オラクルのAIソリューションを活用して業務効率化に成功した企業として、ヤマトコンタクトサービスの事例を紹介しよう。同社はオラクルのクラウドサービス群「Oracle Cloud Infrastructure」(OCI)で生成AIサービスとデータベースサービス「Oracle Database 23ai」、そしてOracle Autonomous Databaseの「Oracle AI Vector Search」(ベクトルデータを活用したセマンティック検索機能)を導入。顧客の問い合わせの意味をAIが読み取り、キーワード検索と意味検索の双方から最適な回答を即座に提示できる仕組みを構築した。その結果、顧客からの問い合わせメール対応業務において、自己解決可能な問い合わせへのFAQ提案マッチ率を85%(従来の約2倍)まで向上させた。宅配便の配送で生じるメール問い合わせ対応業務についても、約20%をAIで自動処理できるようになったという。
AI導入に際しては、日本オラクルのコンサルタントが企画から実装まで一貫したコンサルティングサービスを提供する。ヤマトコンタクトサービスをはじめAI導入でビジネスを大きく変えた事例は多数あり、日本オラクルではAIソリューションを実装する機会が増えているようだ。そのため日本オラクルはコンサルタントを海外の先進的なプロジェクトへ派遣し、最新技術を体得させているという。
FY26事業戦略説明会で三澤氏は、エージェンティックAIの台頭によってオラクル独自のアーキテクチャの価値が最大化されつつある状況を「AIの進化が、オラクルの価値を再発見し、再発明してくれた」と表現した。事実として、OpenAIやMetaが抱える超巨大なAIデータセンターでオラクルのAIインフラが稼働し、そのサービスを支えている。これはオラクルが長年培ってきた負荷分散クラスタ技術、超高速ネットワーク技術、そのネットワークを正確に動かすソフトウェア技術によるものだ、と同氏は語る。
そのソフトウェア技術として、オラクルがデータベースベンダーとして長年磨き上げてきたこだわりの蓄積は、Oracle Autonomous Data Platformの骨となり、これからの時代のAIを支えるだろう。
さらにOracle Autonomous Data Platformを含めオラクルのデータベースサービスは、「Google Cloud」「Microsoft Azure」「AWS」など他のハイパースケーラーからも同じ機能、同じ価格で利用できる。このマルチクラウド展開によって、オラクルは「Gemini」「Azure OpenAI」「AWS Bedrock」といった各社のAIサービスとのシームレスな連携を後押ししている。クラウドベンダーとしてのオラクルは、AIという次のフェーズを見据えている。
AI導入とデータ基盤の検討は、今後の経営課題として無視できない。ただし日本ではオンプレミスに基幹システムを残している企業がまだまだあり、レガシーシステムが足かせになっているために革新的な仕組みを構築しにくい状況もある。オラクルは基幹システムのクラウドマイグレーションとモダナイゼーションでも多くの実績があるので、まずは日本オラクルに気軽に相談してみるのがいいだろう。
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提供:日本オラクル株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2025年9月2日