「既存顧客の離反」「新規事業の創出」など、企業は多数の課題に直面している。多くの企業が解決策として「顧客起点」を重視し始めているが、「企業成長や売り上げ向上にどうつながるか」という道筋は語られていないのが現状だ。
2025年6月に開催されたオンラインセミナー「企業変革の最前線 顧客起点で挑む持続的成長戦略」の議論から、顧客起点を成長戦略へと昇華させるためのヒントをレポートする。
左から、モデレーターを務めた酒井真弓氏(ノンフィクションライター)、ゲストの関口昭如氏(パナソニック コネクト デザイン&マーケティング本部 エグゼクティブ<デジタルカスタマーエクスペリエンス>、兼 ヴァイスプレジデント 現場ソリューションカンパニー)と近藤紗矢香氏(SAPジャパン カスタマーエクスペリエンス事業部 シニア アカウント エグゼクティブ)セミナー冒頭、酒井氏は「顧客起点の実践を難しくしているものは何か」と問いかけた。パナソニック コネクトの関口氏は、顧客と企業双方の変化に原因があると指摘する。
顧客側では自ら情報収集するセルフラーニング化が進み、購買に関わる意思決定者も増加した。その結果、購買プロセスは複雑化、長期化している。企業側もこれに対応すべく営業プロセスを整備してきたが、それが部門間の「サイロ化」を招いた。関口氏は「皆が同じ方向を向けず、顧客の状況が見えにくくなっている」と説いた。
この障壁を壊すために、同社が取り組むのが「顧客価値」の再定義だ。「価値を決めるのは顧客。われわれができるのは、成長のきっかけとなる“価値の種”を創ること」だと関口氏。同社は、価値の種を「創る」「伝える」「維持する」という活動を通じ、一貫した顧客体験を構築した。これが顧客との継続的な関係を育み、企業の持続的な成長につながるという。
関口氏の話を受け、価値の種を見つけるには意識変革も不可欠だと、SAPジャパンの近藤氏はコメント。顧客起点を阻む本質的な課題として2点を挙げた。
一つは「業務プロセスの主語が“顧客”になっていない」こと。近藤氏は「企業はドリルをどう売るかを考えがちだが、顧客が欲しているのは“穴”だ。このギャップに気付き、『顧客は穴を開けて何をしたいのか』まで踏み込むことが、企業の競争力につながる」と語った。
もう一つの課題は「企業としての一貫性」の欠如。部門ごとに顧客との接点が分断されていると、統合的な顧客ニーズを把握できず、ビジネスチャンスを逃しかねない。
これらを解決する手法として、関口氏はパナソニック コネクトが実践する「N1分析」(特定の顧客一人を深く分析する手法)を紹介した。関口氏は「マーケティング部門だけでなく、技術や営業など全部門の関係者がレビューに参加すること」が最大のポイントだと語り、「これにより、サイロを越えて顧客の課題背景を共有できる。そこから新たなコミュニケーションのアイデアだけでなく、将来の商品コンセプト、つまり事業成長のヒントが生まれる」とその効果を語った。
では、部門を越えて得られた顧客理解を、どう「成長の資産」へと変えるのか。鍵を握るのは、散在する顧客データを統合して活用するためのテクノロジーだ。近藤氏は、テクノロジーを活用して成果を挙げた2社の事例を紹介した。
自動車部品サプライヤーのBosch Automotive Aftermarket社は、データが複数のポータルやデータベースにサイロ化され、一貫した顧客対応が困難という課題を抱えていた。そこで同社は、SAPのソリューションを導入してアフターサービスに関するデータを「顧客コンタクトからバックエンドプロセスまで」一元化。顧客の利便性を高めて信頼を獲得し、ターゲットを絞ったサービス提供も可能になるなど事業成果につながったという。
三菱ふそうトラック・バス社は、顧客満足度の低さという課題解決の一環として、オンライン部品ショップを開設した。同社は従来、部品情報へ24時間365日アクセスできるプラットフォームを持っていなかったが、「SAP Commerce Cloud」の導入でこれを実現。新たな顧客接点と販売チャネルを創出し、シームレスな顧客体験の基盤を整えた。
最後に両氏は、顧客起点を経営アジェンダと捉え、部門の壁を越えて取り組む重要性を強調した。顧客を深く理解し、そこから得たインサイトを全社で共有、活用する。そのサイクルを回すことが、企業の新たな成長エンジンとなる。SAPジャパンは、そのサイクルを支えるテクノロジーと知見で企業の変革を支援している。顧客起点を成長戦略につなげるためにも、相談してみてはいかがだろうか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
提供:SAPジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2025年8月28日