企業の事業活動に欠かせない顧客とのコミュニケーション。中でもはがきや封書といった紙による通知は、金融機関や電力、ガスといったインフラ企業を中心に本人確認を要する重要な通知手段として長年活用されてきた。
しかしこの常識はここ数年で大きく揺らいでいる。郵便料金や紙代の値上げによるコストの上昇や開封率の低下、住所変更の手続き漏れによる不達など、紙ならではの課題が顕在化してきた。エンドユーザーへの通知が多い企業にとって、紙に代わる手段の検討は急務と言える。
「こうした課題を解決する手段として、デジタルとアナログによるメッセージ配信を併用する企業が増えています」と話すのは、TOPPANエッジの菊地淳史氏だ。
TOPPANエッジは、旧トッパンフォームズと旧凸版印刷の情報コミュニケーション事業本部セキュア事業部が統合して2023年4月に発足した。企業のDXを支援するインフォメーションソリューションやペイメントサービス、デジタルとオペレーションを融合させたハイブリッドBPOなど、「情報」を核としたさまざまな事業を展開しており、その一つに幅広い企業の通知業務の支援がある。
紙を使った通知業務をけん引してきた同社が近年力を入れているのが、紙とデジタルを併用して通知できる配信サービス「EngagePlus®」(エンゲージプラス)だ。2020年から提供している。
特に、お客さまのスマートフォンにダイレクトに通知ができるSMSやRCSとの組み合わせは効果が高いと菊地氏は話す。その背景には、スマホがインフラの一つになっていることによる「携帯電話番号の有用性」がある。
TOPPANエッジが2024年に実施した調査では、「携帯電話番号を変更したことがない」「5年以上同じ番号」と回答した人が全体の8割に上り、同じく約8割が「今後も同じ番号を使い続けたい」と回答した。携帯電話番号は住所よりも変わりにくく、よりエンドユーザーの手元に情報を届けられる“ツール”と言える。
携帯電話番号を使ったメッセージ配信の代表的な例は、携帯電話番号宛てに短いテキストを送信するSMS(ショートメッセージサービス)だ。受信者のスマホにポップアップ通知が表示されるため埋もれにくく、到達率は96%、開封率は80%(KDDI調べ)と高い。電話連絡や郵便物の送付と比べてコストを抑えられる点もSMSのメリットだ。
一方で、1通当たりの最大文字数が70文字と短く、画像など視覚的な情報を送受信できないといった制限がある。そのためより多くの情報を届けるためには「詳しくはリンクをクリックしてください」などと、Webサイトに誘導しなければならない。送信元は携帯電話番号で表示されるため、「誰から送られたメッセージか分かりにくい」といった課題もある。
そのようなSMSの機能を補った“新しいSMS”として注目されているのが「RCS」(リッチコミュニケーションサービス)だ。各国のモバイル通信事業者で構成される業界団体GSMAが標準化を進めている通信規格で、SMSと同様に携帯電話番号宛てにメッセージを送付できる。
最大の特徴が、高い開封率を維持したまま情報量の多いリッチコンテンツを送れる点だ。1通当たりの文字数は最大2730文字。テキストの他に画像や動画、スタンプ、位置情報などのコンテンツも送付できる。送信元は企業名や自治体名で表示されるため、受信側の安心感の醸成にも貢献する。
KDDIの原真吾氏によると、米国は主要な通信キャリアのほとんどがすでにRCSに対応しているという。日本では大手通信キャリアが共同で提供する「+メッセージ」として認知が高まっており、利用者数は2024年3月末時点で4000万人を突破した。それに加えて、KDDIの通信回線であれば、「Google メッセージ」とiOSの「メッセージ」アプリでRCSを送受信できるようになった※。KDDIは、審査を通過した企業のみが開設・配信できる「RCS公式アカウント」を提供している。
※auまたはUQ mobileの通信回線を使っているiPhone(iOS 18.4以上)、Androidスマートフォン(Android 8.0以上)などで利用可能(2025年9月時点)。
原氏は「SMSが持つ携帯電話番号基盤の圧倒的なリーチと高い開封率は、ビジネスにおいて大きな強みです。RCSはこの強固な基盤をベースにコミュニケーションの質を革新するサービスです」とRCSのメリットを話す。
「Google メッセージやiOSのメッセージがSMSの進化版であるRCS配信に対応したことで、エンドユーザーはスマホに標準搭載されているアプリで受信できるようになりました。SMSが“気付きを与えるツール”だとすると、RCSは“気付きを与え、読むことを促進するツール”である点が大きなポイントです。本人認証が必要な契約内容の確認や変更といった手続き画面にメッセージから遷移できます。企業にとっても、エンドユーザーとの新しいコミュニケーション方法を検討できるはずです」
RCSと特に親和性が高い業種として菊地氏が挙げるのが、金融やインフラ、不動産、運輸、人材など個人との接点が多いB2Cビジネスだ。TOPPANエッジはRCSのメリットにいち早く着目し、EngagePlus®の通知手段の一つとしてRCSを採用している。
「EngagePlus®の強みは、紙とデジタルの良さを併せ持っている点です。はがきや封書といった紙通知の他に、RCSやSMS、メールを使い分けてエンドユーザーが確認しやすい方法で情報を届けられます。TOPPANエッジがお客さまからお預かりしたエンドユーザーの個人情報を使って、デジタルを共通のインタフェースで配信できる点を高く評価していただいています」(菊地氏)
EngagePlus®はRCSを活用することで、通知業務の効率化にとどまらず顧客との新しいコミュニケーションを創出している。活用事例としては、クレジットカード会社A社の取り組みがある。クレジットカードの更新カードを送付する前に、RCSやSMSを使って事前通知を送る仕組みを導入した。
「A社は当時、更新カードの送付方法を本人確認が必要な書留から普通郵便に切り替えることを検討していました。普通郵便は住所変更などの手続き漏れによる不着リスクがあるため、カード送付前にRCSやSMSで『住所に変更がないかどうかを確認する事前通知を送ってはどうか』と提案したのです。結果として、デジタル通知にしても大きなトラブルはなく普通郵便での配送を問題なく実現でき、高い評価を頂いています」(菊地氏)
A社はTOPPANエッジの別のサービスを併用して、支払い方法の切り替え変更手続きに関する書面の電子化も推進。エンドユーザーにRCSやSMSで専用WebサイトのURLを送付して、電子書面の閲覧やダウンロードができるようにした。その結果、輸送コストの削減とエンドユーザーの利便性向上を同時に実現した。
地方自治体での活用も進んでいる。九州地方のある自治体は、特定健診の受診勧奨通知をはがきとRCSで送付している。その他の自治体も、紙の督促状送付後のフォローを電話からRCSに置き換えることで職員の業務負荷の軽減や収納率の向上に貢献している。
ここで気になるのが、世代や地域が異なれば開封率が変わるのではないかという点だ。高齢者の場合はRCSよりも紙による通知の方が良いのではないか。菊地氏に尋ねたところ予想外な答えが返ってきた。
「RCSを使った通知は高齢者層にも支持されています。『受診の予約を忘れていたが、自治体からの通知がスマホに届いたことで予約しました』といった意見が多く、特定健診の受診率が向上したとの報告を受けました。これには私たちも驚きました。導入前は、職員が電話をかけたり訪問したりしても受診率が向上せず頭を抱えていたそうですが、RCSを活用した結果、職員の負担軽減にもつながっています」
原氏はこの効果について「RCSは送信元が企業名や自治体名で表示されるため受け手が認識しやすく、常に持ち歩くスマホに通知が届くことで、はがきよりも見てもらえる可能性が高いことも理由の一つでしょう」と分析する。
Google メッセージとiOSのメッセージがRCS配信に対応したことでエンドユーザーの利便性はさらに高まり、より多くの人にリッチコンテンツを送付できるようになった。菊地氏は「この動きが加速すれば、企業の通知業務が変わるはずです」と期待を込める。
「高い開封率が期待できてリッチコンテンツの送付が可能なRCSに魅力を感じているお客さまはすでに多くいます。しかし、SMSと比較して対象ユーザーが少ない点がRCSの導入をためらう要因の一つでした。対象ユーザーが増えれば、SMSを使った通知をRCSに置き換える企業は必然的に増えるでしょう。そうなれば、紙とデジタルのメリットを最大限に生かした通知業務が可能になるはずです」
RCSの登場によって、顧客コミュニケーションは新しいフェーズに突入した。紙の通知で培ってきた信頼性とRCSが持つ利便性を組み合わせて顧客との新たなつながりを築き、より深いエンゲージメントを実現できる。
「SMSは、高い開封率から気付きを与えるツールとして広く利用されてきました。しかし、通知内容によっては文字数が不足するなど、利用用途に制限があったのも事実です。RCSならば、リッチコンテンツによる分かりやすい情報提供と企業名表示による信頼性の向上で幅広い活用が見込めます。RCSの対象ユーザー数はさらに拡大するはずです。リッチコンテンツが可能にする、次世代の顧客コミュニケーションをぜひ体験してみてください」(原氏)
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