「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」(以下、スマホ法)が2025年12月に全面施行される。この法律はスマートフォンの利用に必要なソフトウェアに関する新たなルールを決めて、公正で自由な競争を促進するものだ。アプリ事業者が販売や決済の仕組みを設計、選択できるようになる。
スマホ法の施行によって、国内ではアプリと関連グッズなどを合わせて6兆円規模の市場が開放されるといわれている。施行に先駆けてデジタルガレージが2023年に提供を開始し、2024年6月に本格稼働したのが「アプリペイ」だ。アプリ外課金決済の仕組みをベースに、アプリに限らず多様なデジタルコンテンツ事業者のビジネスを支援するサービスだ。アプリ外課金決済はもちろん、グローバルでの利用もできる。
デジタルガレージがアプリペイで描く戦略を、同社の崎島淳一氏と丸山恭平氏に聞いた。
「スマホ法がアプリビジネスやデジタルコンテンツ市場を大きく変えるきっかけになる」と語るのは、デジタルガレージでアプリ事業者向けの決済やマーケティング事業などを統括する崎島氏だ。
「国内のアプリ課金のマーケットは全体で2兆円程度といわれています。スマホ法の施行によって、この市場が開放されます。ゲームアプリ事業者はグッズなどのビジネスも手掛けていますから、キャラクタービジネスなどのIP(知的財産)を含めると国内で6兆円程度になると見込まれており、グローバルでは数十兆円※のマーケットになります」
※コンテンツの世界市場・日本市場の概観 経済産業省(2021年12月)
スマホ法は、モバイルOS、アプリストア、Webブラウザ、検索エンジンの4つのソフトウェアに関して特定企業の寡占状態から競争環境を整備する新たなルールを設定する。規制の対象となるのは国内の月間平均利用者数が4000万人以上の事業者で、現時点ではAppleとGoogleが対象になる。アプリ事業者は、これまで以上に幅広いビジネス展開ができるようになると崎島氏は説明する。
アプリビジネスの可能性が広がる中で注目されているのがアプリ外課金決済だ。アプリ内でコンテンツを購入または課金するのではなく、外部のWebサイトなどで決済できるサービスを指す。
アプリペイの事業責任者で、サービス立ち上げから関わってきた丸山氏は、アプリ事業者への代表的なメリットを2点挙げる。
「一つは手数料が安くなることです。一般的なアプリストアの販売手数料が売り上げの約30%といわれるのに対し、アプリペイの手数料は5%です。もう一つは、将来的に課金したユーザーに直接コンタクトを取れるようになることです。アプリのアップデートや新規リリース情報の提供、イベントの告知などもできるでしょう」
アプリ外課金サービス経由での購入はアプリ内よりもアイテムが増量されることが多いなど、ユーザーにとってもメリットがある。
開発事業者により多くの収益が渡るよう、特にゲームアプリの利用シーンでは、あえてアプリペイを利用する行動変化も見られているという。
「ゲームのユーザーは、そのサービスの事業者も含めて応援している人が多いですね。SNSでも『手数料が安いアプリペイで購入して、より良いサービスを作ってもらった方がいいよね』と事業者を応援する声が上がっています。アプリ事業者にも、ユーザーにも喜んでもらえるサービスとして可能性を感じています」(丸山氏)
アプリペイは、ゲームアプリをはじめとする多くの事業者に利用されており、国内有数のアプリ外課金プラットフォームとして成長を続けている。
購入の流れは次の通りだ。ユーザーがアプリペイのショップで購入したいアイテムを選ぶと、決済ページに遷移する。ユーザーは決済ページで固有のIDを入力する。アプリペイはアプリ事業者に対して該当ユーザーに商品を販売していいか確認し、問題ないユーザーのみに販売を許可する。購入が完了すると、購入したアイテムがアプリに反映される。
アプリペイは決済システムだけでなく、ショップの構築機能やユーザーをショップに集めるマーケティング機能、カスタマーサポートを提供する。
「アプリペイは2週間ほどでシステムを立ち上げられます。アプリ事業者が自社で全て立ち上げると時間と工数がかかる上、開発や契約も大変です。アプリペイは簡単に利用できるので、アプリ事業者は面白いコンテンツの開発やユーザーに届けることに集中できます。その延長線上に私たちのビジネスがあると考えています」
事業者ごとに最適な販売設計ができるのも特徴だ。複数の事業者のアイテムを横断的に販売するモール型ショップと、アプリ事業者の公式ショップの2つを軸にアイテムを販売している。モール型ショップには、既に自社で公式ショップを運営している事業者も出店している。
集客経路も多く、丸山氏は「ゲーム攻略媒体、クレジットカード会社のポイントモール、インフルエンサー経由など、多様なチャネルを通じて集客しています。特徴としては、公式ショップを一度も使ったことのない新規ユーザーの利用が多い点が挙げられます。通常のEC同様、公式ショップとモール型ショップが共存するようになると考えています」と話す。
最近はゲーム以外の事業者からの問い合わせも増えているという。漫画や動画などの配信サービスの決済やサブスクリプション型サービスなど、幅広い事業者の課金の用途でアプリペイの導入が広がる可能性がある。
物販でのアプリペイ利用も始まっている。アプリ事業者がグッズやTシャツなどゲーム以外の商品を販売する場合に、アプリペイで引き換え券を販売し、イベントなどで商品を受け渡す仕組みだ。崎島氏は、今後もさまざまな事業者にソリューションを提供したいと話す。
アプリ外課金決済は国内市場だけでは完結しない。特にゲームや動画、漫画など、ユーザー基盤がグローバルに広がる領域では、海外展開を前提として事業を設計しているケースも多い。
その際に課題となるのが、国や地域によって異なる納税方法や決済手段、マーケティング手法などだ。アプリペイは、2025年10月から事業者に代わり法的な販売主体を担うMoR(Merchant of Record)サービスを提供することで、グローバル展開を開始した。アプリペイを利用することで、取引自体は国内で完結させながら、世界の市場へ向けてサービスを提供できる。
「海外展開は決済動線だけでは成立しません。納税やユーザーの動線まで一体で考える必要があります。そこをまとめてサポートできる点が強みです」(丸山氏)
海外市場での販売には、アプリ外課金サイトの認知獲得や動線設計も重要な要素となる。デジタルガレージが手掛けてきた広告運用やマーケティング支援が、ここで強く結びついている。
「私たちはもともと、ゲームの事業者にマーケティングを提供していました。その基盤にデジタルガレージの決済ソリューションを組み合わせることで、このビジネスを生み出せました。先ほど話に出たポイントモールも、仕組み自体を私たちが提供しています。まさしく自社の強みがサービスに生きていると考えています」(崎島氏)
こうした動きの背景には、日本発コンテンツへの世界的需要がある。ゲームやアニメ、漫画を中心に、日本のIPは国際市場において確かな競争力を持つ。
「日本のコンテンツは世界に誇るものです。アプリペイを軸にクリエイターたちがより多くの作品を発表できる環境をつくり、その作品を世界中に届けるお手伝いをしたいです。これからも、日本が誇るコンテンツ産業を応援していきます」(丸山氏)
スマホ法の完全施行が近づく中、その変化は制度や手数料の議論にとどまらない。事業者がサービス設計の幅を広げられる一方で、ユーザーにとっても、楽しみ方や購入動線が多様化し始めている。
崎島氏は、今後の方向性を次のように捉えている。
「市場が変わる中で、デジタルコンテンツのビジネスは事業者がユーザー体験をより柔軟に設計するモデルへと変化していきます。『グローバル』『IP』だけでなく、進化を続ける『AI』といった潮流の中で、事業者の成長を支えられる『土台』を提供したいと考えています」
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
提供:株式会社デジタルガレージ
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2026年1月9日