多くの業界で進展するDXは、行政である東京都にも浸透している。中でも変化が目覚ましいのが東京都と取引する事業者向けの契約・請求プロセスの電子化だ。Webでの効率化の取り組みが進んでおり、業務負担を大きく軽減することに成功した事業者も多い。縦割りになりがちな行政組織の壁を乗り越えたDXをどのように実現したのか、担当者に聞いた。
東京都と取引する事業者は、契約締結後、実務を開始し、納品書や完了届の提出を経て一つの事案を完了させる。
この過程で、多くの書類が東京都と事業者の間を行き交うことになる。従来は紙による処理が中心だったが、近年はデジタル化が加速している。その中核を担うのが「電子契約サービス」と「東京都契約請求システム」だ。
電子契約が民間企業で普及する動きに合わせて東京都も2023年から契約を電子化した。当初は一部の部局でスタートし、2025年に対応部局を拡大。本庁だけでなく事業所での利用も可能になり、東京都のパートナーになる事業者の利便性を高めている。
財務局の鵜澤友行氏は「電子化は東京都の構造改革の一環であり、サービスの速やかな利用拡大を図った」と語る。
従来の契約手続きでは、書類作成や製本、都職員との確認作業のために何度も都庁を訪れる必要があった。電子契約ならば来庁せずにWebで手続きを完結させられるだけでなく、紙の書類や収入印紙、押印も不要になり、さまざまな業務負担や金銭的コストを軽減できる。
「アポ取り、紙書類の保管場所などの負担が解消される他、契約を一元管理できるというメリットがある。書類の紛失リスクもなくなり、紙よりも安全性は高まると考えている」
電子契約を幅広く利用してもらうため、導入方法をシンプルにした。都の電子契約は、東京都独自の電子調達システムと民間の電子契約サービスを併用しており、必要な準備は電子調達システムから「契約担当者事前登録」と「契約手続情報登録」を行うだけで完了だ。事前登録で役職・担当者名、メールアドレスなどを1度登録すれば、今後は契約ごとに登録したものの中から選択するだけで済む。
「実際に契約締結を行う場合には、登録したメールアドレス宛に東京都より契約書データの確認依頼が送付され、確認して問題がなければ同意するだけで事業者側の手続きは完了する。メールの確認はスマホでも可能だ」
とはいえ、紙からデジタルにすぐ移行できる事業者ばかりではない。東京都はデジタルへの移行が困難な事業者に配慮して紙の書類にも対応しつつ、さまざまな導入サポート施策を展開している。
その一つが、説明会の定期開催だ。説明会の動画や資料はWebで公開しており、都合の良いタイミングで視聴できる。説明会でカバーし切れない細かい疑問に対応できるようにヘルプデスクも設置し、サポート体制を充実させている。「説明会はWebだけでなく、オフラインでの開催と組み合わせたハイブリッド型でも開催した。毎回、参加者は200人近く、事業者の関心は高い」
実務に不安を感じる事業者には、コンサルタントによる無料の伴走型支援も実施した。3回まで利用できるサービスだが、実際には1、2回のサポートだけで自信を持つ事業者が多かったという。そこで支援の中で事業者から聞き取った電子契約導入に当たっての不安の声を生かして、事業者向けの電子契約導入ガイドラインを年度末に発行し、サポートを強化する予定だ。
「利用してみれば『デジタル移行のハードルは案外高いものではない』と感じる事業者が多い。まずは気軽に触れてもらい、業務負担が軽減されることを実感してほしい。効果的なアプローチがあれば積極的に採用して、引き続き効率化に取り組む」と鵜澤氏は意気込みを語る。
「東京都契約請求システム」は、契約締結後に発生する納品書・完了届や請求書などの実務に関わる書類を扱うシステムで、2024年から運用を開始し、段階的に拡大している。デジタルサービス局の伊藤学氏は「これまでも部分的には電子化されていたが、プロセスのどこかに紙作業が残っていると電子化のメリットを損なってしまう。プロセス全体を電子化したいと考えて取り組んだ」と理由を語る。
電子契約と同様、利用に当たっての事前登録は簡便なもので、GビズIDを取得していればすぐ利用できる。利用が始まれば書類提出のために来庁したり郵送したりする手間がなくなり、修正や再提出の負担も減らせる。
書類には重複する記入事項も多い。同システムを使えば各種書類に共通して入力する情報は自動反映されて重複入力がなくなるため、紙ベースで必須だった書類間の内容照合も不要になる。契約内容に変更があった場合にも後工程に自動的に情報が反映されるなど、利便性に配慮している。
東京都契約請求システムも、利用を拡大するために都庁の窓口でチラシを配布している他、スムーズに利用を開始できるようにヘルプデスクによるサポートも提供している。
利用した事業者にインタビューして課題を探るなど、ユーザーの声の汲み上げにも積極的だ。事業者からは「(書類作成のための)入力の省力化に加えて、押印や郵送が不要になったことで、書類の作成・発送という一連の手間がなくなった感覚。スムーズにいけば9割以上の時間を削減できる」との声が上がるなど好評だった。
好評を受けて、2026年3月から知事部局など(公営企業局、東京消防庁、警視庁を除く)の物品購入・委託契約に対象を拡大し、利用できる案件が大きく増える。併せてチラシ配布での普及啓発やヘルプデスクの強化により導入のハードルを下げるという。
だが想定外の疑問や課題が浮上することも予測される。「利用事業者へのアンケートを継続し、その意見をシステム改修に組み込む予定だ。より簡単で使いやすいシステムに進化させたい。対象となる案件が増えるこのタイミングで、ぜひ東京都契約請求システムを利用してもらいたい」と伊藤氏は力強く語る。
これらのサービス、システムでは行政特有の「縦割り組織」というイメージとは真逆に、財務局とデジタルサービス局という両組織が連携して「使いやすさ」「分かりやすさ」を追求する取り組みが続く。
一方で、両組織がDX促進に当たって障壁と感じているのが「新しい仕組みに対する抵抗感」だという。ミスが許されないビジネスの現場で、新しい仕組みを導入することでトラブルが起こるかもしれないという懸念は無視できない。
この点について、鵜澤氏と伊藤氏は「説明動画やヘルプデスクなどを最大限に利用して、その不安を取り除けるようにしたい。実際に利用すれば『意外に簡単』『以前より業務が楽になる』ことが実感できるはずだ」と声をそろえる。
東京都は今後もさまざまな施策を打ち、事業者にシステムを利用してもらうための工夫を凝らすという。東京都の電子化による進化はまだ始まったばかりだ。
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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2026年3月8日