
ポイントサービスは単なる値引き施策を超え、顧客のブランドへの愛着を醸成する新たなフェーズ「3.0」に入った。しかし、これを実践するには膨大な行動データの処理や高度なパーソナライズが必要になる。AIエージェントを活用した効率的な実現方法と、顧客エンゲージメントの未来とは。
「ポイ活」が定着し、幅広い世代がポイントを日常的に活用している。B2CマーケティングでLTV(顧客生涯価値)の最大化と顧客ロイヤルティーの向上が喫緊の課題になる中、注目を集めているのが「ポイントサービス3.0」だ。その潮流と実践方法、AIエージェントの活用について、日立ソリューションズでデジタルマーケティングソリューション「PointInfinity」のサービス責任者を務める渡邉浩史氏と、GMOメディアでポイントマーケティング事業をけん引する佐藤真氏に聞いた。
――「ポイ活」が定着する中で、ポイントサービスの在り方も変化しています。ポイントサービスの変遷を教えてください。
渡邉: 日本は世界有数のポイント大国です。古くは1990年代、紙のスタンプカードを使った販促・値引き施策、つまり金銭的なインセンティブとして始まりました。2000年代になると、CRMやID-POSとポイントを連携させたデータ活用のフェーズに入ります。
最近出てきたのが、「ポイントサービス3.0」というエンゲージメント重視のフェーズです。購買だけでなく、アプリログインやイベントの参加、SNSでのシェアといった行動にインセンティブを与えて、日常的な接点を通じて企業やブランドへの愛着を醸成する。ポイントは単なるお得なものから、企業と顧客の関係性を高めるマーケティングツールに進化しているのです。
――なぜ今、ポイントサービス3.0への転換が必要なのですか。
渡邉: お得感だけでは、もう他社との差別化が難しいからです。企業はお客さまに継続的に使っていただき、LTV(顧客生涯価値)を高めたい。その手段として、ポイントを活用したエンゲージメントが注目されています。
佐藤: 初期のポイントサービスは、あくまで購買時の金銭の代わりにポイントを使うというものでした。ただ、購買だけの接点では、月に1回しか購入しない商材ならタッチポイントも月1回にとどまります。では接点の頻度そのものを増やすにはどうするか。そこでポイントを活用するようになってきたわけです。ここ10年ほどで「ポイントをためること」自体を目的、価値にするユーザーも増えています。
渡邉: ポイントサービス3.0ではポイントの使い方も変わります。「1ポイント=1円」の値引きに加えて、お金では買えない特別な体験と交換したり、環境保護や社会活動に寄付することでサステナビリティーに貢献できたりするなど、精神的なインセンティブが重視されて、それが愛着と継続的な関係性につながります。
――ポイントサービス3.0を実践した事例を教えてください。
渡邉: かつてのポイントサービスといえば、小売店や流通など、購買者と直接接点を持つ企業が中心でしたが、現在は鉄道会社や金融機関などさまざまな業種に広がっています。
ある鉄道会社は、当社のポイントサービス基盤「PointInfinity」を導入し、日常の鉄道利用やグループ企業でのお買い物でたまったポイントを沿線の商店街で使える仕組みを展開しています。沿線住人は日常の移動でお得に買い物できて、商店街は送客効果を得られるため、鉄道会社・商店街・住民の三者にメリットが生まれ、強固な沿線経済圏が形成されています。さらに日々の暮らしを通してためたポイントで、地域のNPO法人やプロスポーツチームを応援できる仕組みも構築しています。
また、ある地方銀行は、若年層との接点構築や口座の継続的な維持が課題となっていました。そこで、スマホアプリを起点とした新たなポイントサービスを導入し、口座開設やローン契約といった金融取引に対してポイントを付与する仕組みを構築しました。たまったポイントは共通ポイントへの交換にとどまらず、地域通貨への交換や、地元イベントへの参加といった地域ならではの特別な体験と交換できます。このように、ポイントを通じて利用者の企業に対する愛着を醸成し、地域含めたエンゲージメントを強化する事例は広がっています。
佐藤: 当社はポイントサイト構築・運営支援サービス「GMOリピータス」を提供しています。ゲームや脳トレなど「ポイントをためるコンテンツ」を開発できることが強みです。天気予報専門メディア「tenki.jp」の導入事例では、天気予報や防災情報を伝えるだけでなく、天気に応じた行動や意識の変化を促す新しいユーザー体験を創出することを目的にGMOリピータスを導入いただきました。天気予報の確認でポイントが貯まる仕組み「tenki.jp ポイント」を導入し、導入後は天気の確認とあわせてtenki.jp メンバーシップ(ID)登録も進むなど、利用面でも良い変化が見られています。
――ポイントサービス3.0の実践に当たって、課題はありますか。
渡邉: 3つあります。第1に、購買データに加えて多種多様なアクションデータが蓄積される中で、膨大かつ複雑なデータをどう扱うか。第2に、一人一人に合わせたパーソナライズ、いわゆる「ハイパーパーソナライゼーション」を実装する難しさ。第3に、ユーザーの熱量が高い瞬間にリアルタイムでアプローチできるかです。分析から施策立案、実行までするとなると、マーケターに膨大な運用負荷がかかります。
佐藤: ポイントサービスの核は、膨大なデータの集合体です。購買だけなら1日1セッションで済みましたが、「SNSのシェア」や「日々のアクセスやチェックイン」といった行動データは、1人当たり1日数百回のレコードが発生し、億単位のデータを正確に処理しなければなりません。「ポイントが付与されていない」という声にはすぐ応える必要があるので、システムのレスポンシビリティーが非常に重要です。
――そうした課題を解決する手段はあるのでしょうか。
渡邉: 注目しているのはAIエージェントの活用です。AIの得意領域は、膨大なデータを短時間で分析することです。ポイントサービスやCRMに蓄積された膨大なデータからユーザーの属性や趣味嗜好を読み解いて顧客の解像度を上げ、それを基に自律的に分析して、個別のオファーをリアルタイムで届ける。AIエージェントならこれが可能になります。マーケターは日々の運用負荷が軽減されてクリエイティブな仕事に集中でき、販促原資も効率的に運用できます。
――ユースケースはありますか。
渡邉: 一例を挙げると、ランクアップの見込みが高そうな会員に対して自律的に購買などのアクションを促すメッセージを送信し、アクションが起こった時点でインセンティブを付与する、というユースケースがあります。それぞれ、会員の属性や趣味嗜好を読み解く分析エージェント、確度の高いユーザーを発見する抽出エージェント、メッセージの文章やバナーを作るコンテンツ作成エージェントがオーケストレーションして、1つの施策を自律的に実行するものです。
佐藤: 当社は、ゲームコンテンツにおけるポイント付与のしきい値設定にAIを活用しています。手動での設定では、時にポイント付与が過多となることがあるため、プレイ状況をAIが分析し、ゲームごと、難易度ごとに適切な還元をダイナミックに最適化する仕組みを構築しました。これにより、ポイント付与コストを約30〜40%削減させました※1。不正ユーザーやbotへの対策、A/Bテストの自動化にも一部活用をしています。今後はエージェント同士が連携する「Agent to Agent」の構想も進めます。
※1 GMOメディア株式会社での対象期間3か月、2025年12月算出実績。
――ポイントサービス3.0を実践する基盤として、日立ソリューションズの「PointInfinity」があります。
渡邉: PointInfinityは、ポイントの付与、管理からデータ分析、顧客コミュニケーションまで一貫して実現できるデジタルマーケティングソリューションです。20年以上の実績の中で、会員管理・ポイント管理機能にきめ細かな要件や性能面のノウハウが詰まっており、標準機能として提供しています。ミッションクリティカルなシーンでの導入事例も多数あり、性能と信頼性の高さをご評価いただいています。ポイントはお金と同じですから、間違いは許されません。お客さまの要件に合わせて柔軟なカスタマイズが可能で、伴走支援する体制も整っています。
――PointInfinityは「AIエージェント連携ソリューション」があるそうですね。
渡邉: AIエージェント連携ソリューションは、PointInfinityの会員情報やポイント履歴をはじめとする顧客データを高度なAIプラットフォームと連携させ、マーケティング業務にAI機能を簡単に組み込めるソリューションです。
例えば、離反しそうな会員をAIが予測して離反前にアプローチするような施策を打つには、従来はAIエンジニアによる開発が必要でした。AIエージェント連携ソリューションであれば、こうした施策を実現する機能をマーケティング担当者がノーコードで開発できます。生成AIによるコンテンツ生成や、既存のMAツールとの連携も可能です。
佐藤: エージェントはユースケースごとに一つ一つ作らなければならないことが現状多いので、用意されたエージェントをローコストで導入できるのは非常に魅力的ですね。POSと連携した顧客のデモグラフィックデータと組み合わせれば、AIの推論・自律性はさらに強力になります。日立ソリューションズさんはPOSと連携する大規模な会員・ポイント基盤、当社はWebやアプリのレイヤーで継続利用を促す「ポイントをためるコンテンツ」があり、バックエンドとフロントエンドで補完し合える関係です。PointInfinityと当社のGMOリピータスやゲーミフィケーションを組み合わせた協業にも期待しています。
――ポイントサービスの構築や運営に悩む読者にメッセージをお願いします。
佐藤: 私たちは「企業と人をポイントで近づける」ことを掲げています。これから導入を検討される企業さまにも、導入済みでも活用に課題を感じている企業さまにも、ユーザーがより活発にポイントを活用できる体験と環境を提供したいと考えています。
渡邉: 日立ソリューションズは「DX by AX toward SX」をコンセプトに、AIの活用を通じたDXをベースに変革を推進し、価値創出と持続可能な社会の実現に貢献しています。今後もデジタルマーケティング領域におけるAI活用に積極的に取り組むことで、お客さまのLTV最大化とエンゲージメント醸成、持続的なビジネスの成長に貢献していきたいと考えています。
※この記事は日立ソリューションズより提供された記事をITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集したものです。
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