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イタリアンレッドの誘惑――Ducatiの魅力を1098Sで体感する
ライダーを魅了し続けたイタリアンレッド

 「ビッグバイク」という言葉からイメージされるバイクはなんだろう? 威風堂々たるハーレー、無骨さが男心をくすぐるカワサキ、“POP”ヨシムラのマフラーが似合うスズキ……。それこそライダーの数だけ異なった答えが返ってくる。そんな一翼を担うバイクのひとつにドゥカティを挙げることに異存を挟む声はないだろう。

 ラテンの情熱をそのまま溶かし込んだような深紅のボディ、Lツインエンジンが発する官能的な鼓動、レースシーンで培われた速さへの飽くなき追求。いずれもライダーの心をつかんで離さない。

SuperBikeシリーズのフラグシップ「1098S」

 スーパースポーツ「900SS」が日本国内で高い人気を博したのは記憶に新しいところだが、ドゥカティの進化は今もたゆまず進んでいる。現在はストリート感あふれる「Monster」、70年代にファビオ・タリオーニが作り出したメカニカルデザインを最新テクノロジーで再現した「SPORTCLASSIC」、オン/オフを問わないオールラウンダー「MULTISTRADA」などのシリーズがラインアップされており、パフォーマンスを追求する「SuperBike」も当然、用意されている。

 そのなかで、究極を求めるライダーのために提供されるのがSuperBikeシリーズのフラグシップ「1098S」だ。ビッグバイクの究極形のひとつ、1098Sにまたがり日常を忘れるライディングへ出かけよう。

最も美しいモーターサイクル

 モータースポーツをチェックしていた人ならば、スーパーバイク世界選手権などで活躍していた「999」を覚えていることだろう。1098はその後継となるスーパーマシンで、1098Sはそのスペシャルバージョンだ。わずか171キロの車体には115kw/9000rpmをたたき出す1099ccの新型Lツインエンジン“テスタストレッタエボルツィオーネ”を搭載している。

 さらにSバージョンは前後オーリンズサスペンション&マルケジーニ製鍛造リム、蓄積したデータをコンピュータへ取り込み、分析できるデータロガーシステムも備えるなど市販モデルとは思えない贅沢な装備が特徴だ。

ブレンボ製モノブロックキャリパーや前後オーリンズサスペンションなど充実した装備がSバージョンの特徴(左)、ステアリングダンパーも標準装備。フルデジタルのMotoGPタイプメーターを備える(右)

 これだけの装備とフルカウルを備えながら、そのボディは驚くほどスリムで、美しい。1098Sが発表された2006年のEICMAミラノショーで「最も美しいモーターサイクル」に選ばれたのも納得できる。

 アルミ製片持ちスイングアームやセンターマウントされたマフラーが外観的なスリムさを演出しているだけでなく、またがってみてもその印象は変わらない。シート高は820ミリと平均的な日本人男性ならばほぼカカトがベタ付きする高さ。15.5リットルと十分な容量が確保されていながらタンクは滑らかな曲線を描いており、ニーグリップがぴたりと決まる。

迫力あるセンターマウントマフラー(左)、フロント/リアカウルからは艶やかなグラマラスさが伝わってくるが、シートやタンクなど体に接する部分はスリムでライダーとの一体感は高い(左)
バイクに乗る楽しさを再確認させてくれるスーパーバイク

 スタートボタンを押すと、即座に起動したツインエンジン独特の鼓動がダイレクトに体へ伝わってくる。滑らかさを感じさせるインライン4やシリンダーの脈動が前面に押し出されるシングルとも異なる、ツインならではの独特のフィーリングだ。スペックだけを見ればそのままサーキット走行も可能なほどだが、排気音もうるささを感じさせるほどではなく、これから訪れるだろう走りの喜びを感じさせる前奏曲に思える。

1098Sフロントマスク

 またがったときに感じた一体感は走り出してからも変わらない。確かに3000rpmを超えたあたりからの躍動感は筆者がこれまでに乗ったどんなバイクよりも力強いものだが、どこまでもコントローラブルで安心感を絶えず与えてくれる。試乗日はあいにくのウエットコンディションだったが、前後のタイヤはしっかりと路面をホールドし、情報を伝えてくる。スポーツタイプのビッグバイクというと、どこか気難しいという先入観を1098Sはことごとく打ち破ってくれる。

1098S

 細身のパイプフレームは一見すると華奢さすら覚えるが、いくつかのコーナーをクリアするとこれは完全に計算し尽くされたデザインであることをハッキリと自覚させる。コーナリングには侵入速度と角度、クリア中の動作など複数の要素がリアルタイムに入り交じるが、どの局面でも1098Sはそのライダーの意図を正確に反映してくれる。多少のオーバースピードで侵入しても、クリア中に減速を余儀なくされる状況におちいっても、危険を感じることは皆無だ。

 確かにこのライディングポジションは安楽なものではないが、無理な姿勢を強いられるわけではなく、さほど疲労は蓄積していかない。これなら市街地から高速道路、ワインディングまでさまざまなシチュエーションでライディングを楽しめるだろう。ほんのわずかな時間だったが、「バイクに乗る」という根源的な楽しみを再確認させてくれるマシンであることを痛感した。

 走る。曲がる。止まる――。バイクに求められる3つの要素を追求していき、深紅に結実させたバイク。それがドゥカティ 1098Sだといえるのではないだろうか。

取材・文/+D Style編集部

取材協力/ドゥカティ ジャパン http://www.ducati.co.jp