まずは作品賞から。どの作品も地味ながら超個性派ぞろいということで、いつになく混戦模様。大本命はコーエン兄弟の「ノーカントリー」で、ナショナル・ボード・オブ・レビュー、ニューヨーク映画批評家協会賞など、1月29日現在、各映画祭において計95部門を受賞。対抗馬は「ノーカントリー」同様、作品、監督、脚色賞の主要部門を押さえ、批評家ウケもいいポール・トーマス・アンダーソン監督の「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」。アカデミー賞の前哨戦といわれるゴールデン・グローブ賞ドラマ部門を受賞したイギリス映画「つぐない」も気になるところ。ただし、ゴールデン・グローブ賞を受賞すればアカデミー賞は確実という神話は崩れつつあり、前回のアカデミー賞受賞作は「ディパーテッド」、ゴールデン・グローブ賞は「バベル」(ドラマ部門)と「ドリームガールズ」(コメディ・ミュージカル部門)が受賞するなど、最近3年の作品賞受賞作はバラバラ。大穴は、アカデミー賞としてはやや異色な青春コメディ「JUNO/ジュノ」。「クラッシュ」など規模の小さな作品が結果を残していることを考えれば、化ける可能性は十分あり。 |
続いて監督賞。昨年は、そろそろあげないと……というアカデミー会員の心情が反映されてか、アカデミー賞とは縁のなかった名匠マーティン・スコセッシが「ディパーテッド」で受賞。ところが、今年は“名誉賞的監督”のノミネートはなく、気鋭の監督が揃った。過去のアカデミー賞では脚本賞どまりだったコーエン兄弟が悲願の監督賞をモノにするか、独自の世界観を貫く若き奇才ポール・トーマス・アンダーソンか。「サンキュー・スモーキング」で中ヒットを放った、「JUNO/ジュノ」のジェイソン・ライトマンも有力である。個人的には、カンヌ国際映画祭とゴールデン・グローブ賞で監督賞に輝いたジュリアン・シュナーベルに一票。同監督の「潜水服は蝶の夢を見る」は人間の心が持つ大きな可能性に感動せずにはいられない珠玉の名作なのだ。 |
今年一番華やかな顔ぶれは主演男優賞。「フィクサー」のジョージ・クルーニーは、巨大法律事務所でクライアントの不祥事をもみ消す日陰の役どころを、持ち前の渋さを発揮しつつ魅力的に演じる。クルーニーが善に目覚めるのに対し、闇へと落ちていくのは「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」のダニエル・デイ=ルイス。しがない鉱山採掘者だった男が石油成金となり、欲望にまみれていく姿を狂気たっぷりに熱演。歌うキラー理髪師がハマり役だった「スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師」のジョニー・デップは見事ゴールデン・グローブ賞を受賞。アカデミー賞には「パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち」「ネバーランド」に続いてのノミネート、朋友ティム・バートンとのコンビ作で3度目の正直となるのか?! ハリウッドの中心人物となったクルーニーか、実力のデイ=ルイスか、人気ではダントツのデップか、三つ巴の戦いが予想される。ほかに「クラッシュ」のポール・ハギス監督による硬派なサスペンス・ドラマ「告発のとき」でトミー・リー・ジョーンズ、デヴィッド・クローネンバーグ監督と再び組んだ「Eastern Promises(原題)」でヴィゴ・モーテンセンがノミネート。 |
一方の主演女優賞だが、05年は実在のカントリー歌手ジューン・カーターを演じたリース・ウィザースプーン(「ウォーク・ザ・ライン/君につづく道」)、06年はエリザベス女王を演じたヘレン・ミレン(「クィーン」)と、最近は“実在の人物”を演じると受賞率が高いようだ。それを踏まえると、今年の注目は2人。エリザベス(1世)女王役のケイト・ブランシェットか、伝説のシャンソン歌手エディット・ピアフに成り切ったフランス人女優のマリオン・コティヤールか。2人ともそこにいるだけで圧倒的な存在感(威圧感)を発揮していたが、特にコティヤールは眉毛を剃り、生え際の毛を抜くという女優魂を見せ、LA映画批評家協会賞やゴールデン・グローブ賞も受賞、アカデミー賞に最も近い女優として注目される。「ハードキャンディ」で一躍注目されたカナダの新進女優エレン・ペイジ、家族の悲喜劇を描いた「The Savages(原題)」のローラ・リニーもダークホース的存在で目が離せない。 |
助演男優賞は「ノーカントリー」で暗殺者を怪演したハビエル・バルデム、「ジェシー・ジェームズの暗殺」でブラッド・ピットを完全に食っていたケイシー・アフレック(ベン・アフレックの弟)、「フィクサー」で良心の呵責にさいなまれ精神を病んでいく敏腕弁護士を熱演したトム・ウィルキンソン、「カポーティ」で主演男優賞を取ったフィリップ・シーモア・ホフマン、今年で83歳の大ベテラン、「イントゥ・ザ・ワイルド(原題)」のハル・ホルブルック。誰が取ってもおかしくない状況だが、やはり鉄板はハビエル・バルデムか。 |
そして助演女優賞。「アイム・ノット・ゼア」でボブ・ディランの役を演じて、主演女優賞とのWノミネートを果たした貫禄たっぷりのケイト・ブランシェット。ベン・アフレックの監督デビュー作「Gone Baby Gone(原題)」のエイミー・ライアン。この2人が前哨戦のほとんどを獲得。ほかにも、「アメリカン・ギャングスター」でハーレムを牛耳る一家の母親を凛として演じた大ベテラン、83歳のルビー・ディー、今回の候補者の中で最年少となった「つぐない」のシアーシャ・ローナン(13歳)、「フィクサー」でジョージ・クルーニーと堂々渡りあったティルダ・スウィントンが続く。「つぐない」はキーラ・ナイトレイやジェームズ・マカヴォイがまさかの候補漏れになったので、シアーシャ嬢に頑張ってほしいが、ケイトかエイミーの一騎打ちになりそう。 |
最後に長編アニメーション。オスカー常連のピクサー×ディズニーの「レミーのおいしいレストラン」とソニー・ピクチャーズの「サーフズ・アップ」とは毛色の違うフランス製アニメ「ペルセポリス」がノミネートされたのは嬉しい限り。カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞ししているだけに受賞の可能性も。 |
★作品賞 ★監督賞 ★主演男優賞 ★主演女優賞 ★助演男優賞 ★助演女優賞 ★脚本賞 ★脚色賞 ★長編アニメーション賞 ★外国語映画賞 |
取材・文/本山由樹子