「ノーカントリー」 「ファーゴ」などで知られるコーエン兄弟が、ピューリッツァー賞受賞作家コーマック・マッカーシーの小説「血と暴力の国」を映画化。主人公は裏金をネコババした溶接工(ジョシュ・ブローリン)、彼を執拗に追う暗殺者(ハビエル・バルデム)、そして2人を追う老保安官(トミー・リー・ジョーンズ)。追う者と追われる者の、おかしくも哀しい血まみれの旅の記録。全編に尋常でない緊張感が漂い、キャストの渋さも手伝って、中盤以降は哀愁も。無感情に人を殺しまくる暗殺者を演じたハビエルは傑出したうまさ。万人向けの作品ではないが、コーエン兄弟作品の中でも最高傑作と評判なので、今年前半の話題作として押さえておいたほうがいい。 |
「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」 社会派作家アプトン・シンクレアの「石油!」を映像化。20世紀初頭のカリフォルニア、しがない銀の採掘者だった男が、運良く石油を掘り当て大物事業家に。己の価値観のみを信じ突き進む彼は、やがて政界の汚職に巻きこまれ、多くのものを失っていくのだった……。“21世紀の「市民ケーン」”とまで絶賛され、評価も上々。未見のため何とも言えないが、監督が「ブギーナイツ」「マグノリア」のポール・トーマス・アンダーソンだけに、一筋縄ではいかない作品であることは容易に想像できる。監督から熱烈な出演オファーを受けたというダニエル・デイ=ルイス。今回も徹底した役作りで、魅了してくれるだろう。 |
「フィクサー」 “フィクサー”とは弁護士なのに裏社会で後始末を専門に担当する、もみ消し屋のことだ。マイケル・クレイトンはニューヨーク最大の弁護士事務所に所属する“フィクサー”。ある日、同僚弁護士が、クライアントである農薬会社の企業犯罪を告発しようとして、精神を病んでいく。これをきっかけに、マイケルは“フィクサー”としての特命を受けるが、彼もまた命を狙われるほどの陰謀に巻き込まれていく。原題「マイケル・クレイトン」だけを見たときは、「ジュラシック・パーク」などで知られる小説家マイケル・クライトンにちなんだ作品かと思ったが、全然関係ない……。「ボーン・アルティメイタム」の脚本を手がけたトニー・ギルロイの初監督となるサスペンスだが、クルーニー、ウィルキンソン、スウィントンと役者がとにかくうまいこと。その熱演を見るだけでも一見の価値あり。 |
「つぐない」 試写で見たとき、席を立てないくらいに感動したのが、この「つぐない」。ベースはイアン・マキューアンの世界的ベストセラー「贖罪」。監督ジョー・ライト、主演キーラ・ナイトレイ、製作がワーキングタイトルと、「プライドと偏見」の同じ組み合わせ。舞台は1930年代、第2次大戦前のイングランド。政府官僚の長女セシーリアと、その使用人の息子ロビー。幼なじみの2人はお互いの気持ちに気づき、身分の違いを乗り越えて結ばれようとしていた。ところが、セシーリアの妹ブライオニーの嘘によって、2人の仲は引き裂かれてしまう。人間の怖さ、醜さ、脆さを静かに、そして丁寧に描き、人間ドラマとしても、サスペンスとしても秀逸。独断と偏見で作品賞は本作に! |
「JUNO/ジュノ」 ちょっと変わった16歳の女子高生ジュノは、ある日、勢いでクラスメイトと関係を持ち、予期せぬ妊娠をしてしまう。親友の助けを借りて、生まれてくる子供のために理想的な里親を見つけようと大奮闘。「サイドウェイ」「リトル・ミス・サンシャイン」のフォックス・サーチライト作品。「サンキュー・スモーキング」のジェイソン・ライトマン監督が深刻な問題をカラッと描く。口コミでジワジワと人気を集めていたところに、アカデミー賞の作品賞、監督賞、主演女優賞、脚本賞の主要4部門ノミネートのニュース。全米ではすでに1億ドル突破、独立系映画としては異例の大ヒットとなっている。 |
「エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜」 エディット・ピアフその人を知らないまでも、「愛の讃歌」や「バラ色の人生」に聞き覚えのない人はいないだろう。フランスでは国民的なシャンソン歌手ピアフの偉大な足跡と、太く、短い波乱万丈の人生を綴る。ピアフの魂を揺さぶるあの歌声は、喜びも悲しみも、自分の生き様を歌に込めたから。20歳から47歳で老婆のような姿で亡くなるまでのピアフに成り切ったマリオン・コティヤールが素晴らしい。まさに鬼気迫る演技! |
「潜水服は蝶の夢を見る」 「ELLE」の編集長として華々しく活躍していた主人公を突然襲った、脳梗塞という悲劇。全身が麻痺し、言葉も話せず、唯一自由が利くのは左目のまぶただけ。彼はその左目のまぶただけで、自伝を書くことを決意する。「バスキア」のジュリアン・シュナーベル監督による、驚くべき実話。感傷的すぎないのがいい。カンヌ国際映画祭では高等技術賞に輝いただけあって、主人公の視点(左目)から捉えた斬新な映像表現はお見事! |
「アウェイ・フロム・ハー 君を想う」 主演女優賞と脚色賞にノミネート。「スウィート ヒアアフター」のアトム・エゴヤン製作総指揮のもと、「あなたになら言える秘密のこと」「ドーン・オブ・ザ・デッド」のカナダ出身の女優サラ・ポーリーが初めて監督したヒューマン・ドラマ。幸せに暮らす老夫婦、だが妻が突然アルツハイマーだと診断され、養護施設で暮らさなければならなくなる。初めて別々に生活することになり寂しくなると思っていたら、妻はすぐに同じ施設で暮らす別の男性と仲良くなってしまい……。妻を演じたジュリー・クリスティは「ダーリング」以来2度目のオスカーを狙う。 |
「アイム・ノット・ゼア」 「エリザベス:ゴールデン・エイジ」 「告発のとき」 「ジェシー・ジェームズの暗殺」 「ペルセポリス」 「The Savages」 |
取材・文/本山由樹子