南部アフリカで見られる野生のネコたち(小型ネコ編):山形豪・自然写真撮影紀
前回は南部アフリカに生息する大型ネコたちを紹介した。さて、今回は小型のネコたちに焦点をあててみよう。
南部アフリカにはリビアネコ、サーバルキャット、カラカル、クロアシネコという4種類の小型ネコ(ネコという動物は、便宜的に大型ネコと小型ネコという2つのグループに分けることができる)がいる。
なかでも最も広範囲に分布し、場所によっては出会うのも比較的容易なのがリビアネコだ。彼らはさまざまな環境へ柔軟に適応できるため、サハラ砂漠や大陸中部の熱帯雨林を除くアフリカ全土に生息しており、地域によって色や模様が若干違う。
南アフリカ、ボツワナ、ナミビアにまたがるカラハリ砂漠の個体群の特徴は、薄いピンク色の耳と前足の黒いシマだ。写真を見て「うちのネコと全然変わらないじゃないか」と思った方もいらっしゃるだろう。実はこのリビアネコを4000年ほど昔、古代エジプトの人々が飼いならしたのがイエネコの起源だと言われている。
現在でも、この原種の特徴をそのまま受け継いでいるイエネコの品種は存在する。アビシニアンなどがそれだ。アビシニアンの原産、由来については諸説あるのだが、そもそもアビシニアとはアフリカ東部に位置するエチオピアの旧称であり、エチオピアのリビアネコを家畜化したものがアビシニアンという説もある。
サーバルキャットは黄色い体に黒の斑点、大きな耳と長い脚が特徴のスレンダーなネコだ。見通しの利かない草むらをす住みかとするため、視覚に頼らずネズミなどの居場所を聞き当て、ジャンプして捕らえる。耳が頭に比べて非常に大きいのは獲物の正確な位置を把握するためなのだ。成獣のオスだと体長1メートル、体重10キログラム以上になる。
ヒョウやチーター同様、体の色と模様は草原では非常に効果的なカムフラージュとなるため、生息が確認されている野生動物保護区などでも中々お目にかかれない。写真のサーバルキャットは南アフリカのクルーガー国立公園で道を渡っているところを偶然とらえたものだ。
南部アフリカの小型ネコ科の中でもっともゴツく、どう猛なのがカラカルだ。アフリカーンス語でロイカット(赤いネコ)と呼ばれるように、体色は赤茶色で、長く黒い毛がピンと伸びた耳が特徴だ。ヒツジの子どもなど家畜を襲うため、害獣として駆逐されるケースが多く、動物保護区以外では数が減っている。
私はこの10年間、頻繁にアフリカのフィールドに通っているがまだ一度しか出会っておらず、撮れた写真も歩き去っていく姿を写したこの1カットのみだ。ただし、カラハリ砂漠では比較的多く目撃されているので、そのうち良いショットが撮れるだろうと期待している。
そして最後にもう1種、残念ながら写真はおろか、見かけたことすらないのがクロアシネコだ。足には黒い縞模様、体には同じく黒い斑点を持つとても小柄なネコで、体重は1〜2キログラム程度しかない。南アフリカ在住の写真家仲間に聞いても、誰一人として撮影に成功していない幻のネコである。
前述の3種のネコたちは日中でも活動する習性を持つのに対し、クロアシネコは完全に夜行性な上、警戒心が非常に強いのがその理由のようだ。また、飼育環境への順応が困難であるため、動物園でも飼っている所は珍しい。
このように南部アフリカには美しい野生のネコたちが暮らしている。いずれも厳しい自然環境に見事に適応し、生存競争を勝ち抜いてきた美しいハンターたちである。
著者プロフィール
山形豪(やまがた ごう) 1974年、群馬県生まれ。少年時代を中米グアテマラ、西アフリカのブルキナファソ、トーゴで過ごす。国際基督教大学高校を卒業後、東アフリカのタンザニアに渡り自然写真を撮り始める。イギリス、イーストアングリア大学開発学部卒業。帰国後、フリーの写真家となる。以来、南部アフリカやインドで野生動物、風景、人物など多彩な被写体を追い続けながら、サファリツアーの撮影ガイドとしても活動している。オフィシャルサイトはGoYamagata.comこちら
【お知らせ】山形氏の新著として、地球の歩き方GemStoneシリーズから「南アフリカ自然紀行・野生動物とサファリの魅力」と題したガイドブックが出版されました。南アフリカの自然を紹介する、写真中心のビジュアルガイドです(ダイヤモンド社刊)
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