オーラが違う新生ノクト――ニコン「AF-S NIKKOR 58mm f/1.4G」:交換レンズ百景
夜想曲「Nocturne」からその名を取ったと言われる「Noct Nikkor」の再来、それが「AF-S NIKKOR 58mm f/1.4G」だ。決して安価ではないが、一度は使ってみたいレンズといえる。
「欲しい」
このレンズをニコン「D610」に装着して、ファインダーをのぞいた瞬間にそう思った。そのレンズとは同じくニコンの「AF-S NIKKOR 58mm f/1.4G」。開放F値こそ違うが、銘玉「ノクトニッコール」の再来ととらえてもいいだろう。58ミリという焦点距離、しかもナノクリスタルコートをおごった新生ノクトは放つオーラが違った。
スペックから想像するとAF-S NIKKOR 58mm f/1.4Gはとても重量級のレンズを想像するが、過去に使っていた明るいレンズの代名詞ノクトニッコールやライカ・ノクチルックスと比較するととても軽い。およそ半分程度の重さだ(約385グラム)。外観上の大きな特長は、ナノクリスタルコートのあかし「Nバッジ」と、グッと奥まった大口径前玉の美しいコーティングだ。外装の仕上げもとても美しく、撮り手をその気にさせてくれる。
写りも抜群だ。どうしても点光源の収差などがクローズアップされてしまうが、開放からしっかりとしたコントラストとヌケの良さを実現している。何よりも美しいボケ味が素晴らしい。ピントがあった点から、柔らかに連続して優しくボケていく描写は、ボートレートやスナップにも最適だ。決して安くないレンズだが、ニコンのフルサイズ機を持っていれば、一度は使って見たいレンズの一本に数えられるに違いない。
路面電車の運転台。F1.4開放で手前中央のボタンにフォーカスした。画面奥へと続く柔らかなボケ味が美しい。また金属製のパネルの冷たい感じもしっかりと伝わってくる。
下町をブラブラ撮影中、発見した蔵を見上げて撮影。手前にあるひさしの立体的なボケ味が秀逸だ。人間が注視した時のボケ方に近く、自然な描写が魅力だ。
ひとつふたつ絞ると真円のボケを楽しむことが可能だ。このように背景を美しく演出することができる。またモデルの瞳から前髪までの被写界深度内の描写から深度外への、おぼろげではかない感じの連続感がとてもいい感じ。
夜間撮影はこのレンズの独壇場である。F1.4開放でこの描写だ。新しくなった東京駅を手持ちで撮影したカットだが、壁に埋め込まれた時計からレンガの質感、建物のエッジ、わずかに空に残る雲のディテールなど申し分のない写りだ。
雨上がりのイルミネーションが美しい。このレンズのためのようなシチュエーションだろう。濡れたタイルのリアリティさ、LEDの形状までしっかりと判別ができる。開放からためらいなく撮影できるのがうれしい。
夜のカフェをスナップ。肌寒いため誰もテラス席にはいない。手前テーブルに落ちている雨粒にフォーカスしシャッターを切った。画面奥に行くに従ってボケていくが、その自然な描写がとても好ましい。オールドレンズによくあるとろけるような描写でもなく、うるさいボケでもなく、品のある優しい"Bokeh"だと感じる。
夜のポートレートを開放で。モデルの濡れた瞳と髪の描写、そして背景のボケが見事だ。品のあるムーディーな写りがとても美しい。
モデルの向かって左目にフォーカスし、灯りで暖を取るイメージで撮影した。肌のトーンとニットの自然な風合いがいい。優しくソフトなボケ方は女性の撮影にもってこいだ。ぜひとも“高感度番長”D4のセンサーを搭載したニコンDfでもこのレンズを試してみたいものだ。
(編注:本記事では一般的な撮影状態での利用を念頭としているため、人物撮影にレフ版などは利用しておりません)
(モデル:三橋愛永 オスカープロモーション)
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