独特の広さや歪みを楽しみたくなる魚眼レンズ――オリンパス「M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PRO」:交換レンズ百景
魚眼レンズと聞くと、特殊な用途にしか使えないと思いがちだが、F1.8と非常に明るくレンズ前2.5センチまで寄れるこのレンズは、誇張されるパースやデフォルメ効果、独特のボケを生かした面白い写真が撮れる。
オリンパスはここ数年、マイクロフォーサーズマウントのハイエンドレンズを着々と充実させている。PROと名付けられたシリーズがそうだ。同じ焦点距離のレンズでも、エントリー向けの安価で小型軽量のお手軽レンズから、プロ向けの高価だがハイクオリティで防じん防滴仕様レンズまで選べるのが素晴らしい。
そんなミラーレス界随一のレンズラインナップが、マイクロフォーサーズマウントの面白さだ。そこに投入されたのが、PROと冠がついた対角魚眼レンズの「M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PRO」だ。
すでにパナソニックから8mm F3.5という魚眼レンズが出ているが、オリンパスのPROレンズは防じん防滴でF1.8の大口径なのが特徴である。F1.8の魚眼レンズなんて世界初のハイスペックで、写りも魚眼レンズでここまでやらなくてもというくらいよい。
何しろ15群17枚のレンズを使った大作。それでも315グラムに納まるのはマイクロフォーサーズマウントならではだ。
ハイクオリティの魚眼レンズとなるとたいてい太く大きくなるが、コンパクトに収まっているのもよい。レンズの質感は非常に高く、金属製ならではの剛性感があり、大きなフォーカスリングは軽すぎず重すぎずのほどよいトルクでピントの微調整もしやすい。
もちろんAFで使ってもいいのだが、F1.8と明るい上に寄れるので、背景をぼかした魚眼マクロ写真を撮れたりするのだ。そういうときはシビアにMFで合わせたい。EVFをのぞいて拡大表示してやればMFでしっかり追い込むことができる。
では撮ってみる。
まずは分かりやすいところで、竹藪を真下から見上げてみた。一点透視的な構図で撮ると歪みは目立たず、遠近が強調された超広角的に撮れる。
すごいのはそのクオリティ。ディテールの解像感は魚眼レンズとしては非常に高いし、魚眼レンズは一般的に周辺の画質劣化が目立つのだが、かなりしっかり出ているし色のずれも見られない。さすがPROレンズだ。
同じシーンでも少し中心をずらしてやると、魚眼らしい歪みを楽しめる。
魚眼ならではの歪みを楽しむなら、ぐっと寄ってモノを撮るといい。魚眼で自転車を撮ってみた。絞り開放だとこの距離でも背景がほどよくボケてくれる。
さらにめいっぱい寄るとマクロ的な写真も。ガクアジサイをほぼ真上から狙ってみた。魚眼らしく球形に撮れるのが面白い。
水平線を上か下に少しずらしてやると、魚眼ならではの球面っぽい背景を楽しめる。F1.8ならではの魚眼写真だ。手前の雑草をぼけさせて田植えが終わったばかりの田んぼを狙ってみた。
今回、ボディはOM-D E-M5 Mark IIを使ったが、これはバリアングル液晶なので、モニターを開けば縦位置でのローアングルやハイアングル構図を撮りやすい。
魚眼で寄れるとなるとお約束の鼻デカ写真も撮れる。レンズを向けたら急に首をにゅっと伸ばしたのでフォーカスがちょっとずれちゃったがご勘弁。これだけはRAWデータを現像・若干のトリミングを施してある。
このレンズは魚眼なのにF1.8と明るい。しかもボディには強力な手ブレ補正機構がついている。となれば「暗くて狭いところ」へ行ってみるしかあるまい。
というわけで、暗くて狭いところへ行ってみた。下水道の地下深くである(見学会に参加した)。集中豪雨時に下水管の排水能力を超えた水が流れ込んだとき、川に放流できない雨水を流して一時的に貯留し、浸水を防ぐ施設。ヘルメットと軍手と長靴を渡され、地下50メートルまで階段で降りていく。とても狭いので魚眼レンズ必須である。
地下深く、たぶん溜まった水を吸い上げるポンプ施設かと思う。底に少し水が溜まっていた。これはもう明るい魚眼レンズ+ボディ内手ブレ補正万歳、という写真。ライトで部分的に照らされた機械の質感がすごくしっかり出てる。魚眼レンズとは思えないクオリティだ。
続いて幹線へ向かう連絡管。集中豪雨時はここを水が流れていくのだ。内径は4〜5メートル。ぞろぞろと歩く参加者を後ろから。限られた照明のかなり暗い管の中を歩いて行くのである。地下深すぎて外気の影響をあまり受けないのですごく涼しい。
最後はあふれた雨水を貯留管に流し込むための集水管。真上から水が落ちてくれるのだが、効率よく素早く水を落とすために、中にらせん状のガイドがついている。こうすることで水が螺旋に沿って流れ、その分の空気が中央の空間から抜けるので速く水が流れるのだそうだ。
その底から真上を狙ってみた。影が大きく入っているのは、中を見学しやすいよう、真上に向けて一灯照明があるため。おかげで不思議な光景となった。
全カット手持ち。しかも軍手をしたままなので操作しづらいのだが、それでもこれだけ撮れてしまうのだからえらいもんである。
魚眼レンズといえば、長時間露光で星の軌跡を写し取る星景写真にも使われるし、水中撮影にも欠かせないし(たぶん、オリンパス的にはこの用途をメインに考えているのだと思う)、全天球パノラマの素材撮影にも重宝するわけだが、ここまでクオリティが上がると、魚眼ならではの広さや歪みをもっと幅広いシーンで楽しみたくなる。
価格はそれなり(希望小売価格13万5000円/税別)でなおかつ受注販売なので、おいそれと買えるものではないが、ハイクオリティの魚眼レンズに興味があるなら、この誘惑に耐えるのは難しいに違いない。
関連記事
- 「OM-D E-M5 Mark II Limited Edition Kit」や「M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO」などの発売日が決定
オリンパスイメージングが、発売を予告していた「OM-D E-M5 Mark II Limited Edition Kit」や超広角ズームレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO」、大口径魚眼レンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PRO」の発売日を発表した。 - 高品位&防じん防滴に生まれ変わった10.7倍ズーム――オリンパス「M.ZUIKO DIGITAL ED 14-150mm F4.0-5.6 II」
高倍率ズームの利点は、レンズ交換なしで広角から望遠までの幅広い画角で撮影できること。雨や雪の日、あるいは同行者がいてレンズ交換に時間をかけたくないときなどに特に重宝する。そんな1本を紹介しよう。 - コンパクトなシステムで“サンニッパ”相当が実現――オリンパス「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO」
オリンパスから、プロフェッショナルレンズシリーズ「M.ZUIKO PRO」の第2弾として、F2.8通しの望遠ズームレンズが11月に登場する。80ミリから300ミリという幅広い焦点距離をコンパクトなボディでカバーできるのが魅力だ。 - 写欲をかき立てる、存在感を持った広角単焦点――オリンパス「M.ZUIKO DIGITAL ED 12mm F2.0」
明るく高性能な単焦点レンズには、ズームレンズとは違った魅力がある。とりわけ美しいボケ味と切れのある描写は、単焦点レンズならではで、撮影もより楽しくなる。今回はコンパクトなボディのOM-D E-M10と12mmレンズだけを持って出かけてみた。 - 高級レンズが引き出すいつもと違う彼女の表情――オリンパス「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO」
グレードの高い撮影機材を使うと、撮るほうも撮られるほうも気分が高揚し、ふだん以上に魅力的な表情が撮れる。というのは本当なのか。オリンパス製ハイグレードレンズを使って雰囲気重視のポートレートを撮ってみた。 - 明るい標準ズームで撮る旅の景色――オリンパス「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO」
オリンパス「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO」は、同社の高性能レンズ「M.ZUIKO PRO」の第1弾となる大口径標準ズームだ。旅にレンズ1本だけ持って行くとすれば、私ならこれを選ぶ。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.