電子書籍に読者は何を求めているか?遠藤諭の「コンテンツ消費とデジタル」論(1/2 ページ)

iPadやGALAPAGOSなどの登場で電子書籍が話題になることが増えている。この盛り上がりは本物なのか? それとも一時的なものなのだろうか? 今回は電子書籍の利用動向調査を元に「電子書籍を読んでいるのは誰か?」「読者は何を求めているか?」を考察する。

» 2011年05月11日 08時00分 公開
[遠藤 諭,アスキー総合研究所]
アスキー総研

「遠藤諭の『コンテンツ消費とデジタル』論」とは?

 アスキー総合研究所所長の遠藤諭氏が、コンテンツ消費とデジタルについてお届けします。本やディスクなど、中身とパッケージが不可分の時代と異なり、ネット時代にはコンテンツは物理的な重さを持たない「0(ゼロ)グラム」なのです。

 本記事は、アスキー総合研究所の所長コラム「0(ゼロ)グラムへようこそ」にて4月12日に掲載されたものです。遠藤氏の最新コラムはアスキー総合研究所で読むことができます。


 米国のダメなものを紹介しまくった、ポール・ファッセルの『BAD Or, the Dumbing of America』という本があるのだが、真っ先に出てくるのは「米国の本はなぜあんなにもバカでかくて重いのか?」だった。確かに、米国には漬け物石のような本があったりするが、それは本に対する文化の違いなのか、万引き対策なのか、いろいろ考えても分からない。

電子書籍の利用意向は「利用する」と「利用しない」が半分ずつ

 電子書籍を取り巻く動きが、とても速くなっている。いささか旧聞の感があるのだが、昨年11月12日から開催された「電子書籍・コミック サミット in 秋葉原 2010」に参加させてもらった。詳しい内容は公式サイト(参照リンク)をご覧になっていただくのがよいとして、アスキー総合研究所ではこのイベントのための事前アンケート調査を実施し、その結果をカンファレンスや会場内のパネルで紹介した。

 同調査は、アスキー総研で提供しているネット行動とコンテンツ消費に関する1万人調査『MCS 2010』(参照記事)の対象者から約7500人をランダムに抽出して、電子書籍・電子コミックについて詳しく聞いたものだ。いまのところ、日本の電子書籍市場は携帯電話や電子辞書(それぞれ数百億円ある=後者はハード込みだが)が中心である。そして、KindleやiPadやGALAPAGOSの登場で、いよいよ電子書籍の市場が拡大するかというタイミングであり、いわばユーザーの事前意識調査といったものといえる。

電子書籍を読んでいるのはシニア?

 調査結果の中で気になったのが、「電子書籍の利用状況・利用意向」である。出版業界には、すぐにでも電子書籍の時代が来ると考えている人もいれば、「本は紙でなきゃイヤだ」という読者もいる。下のグラフが利用状況、利用意向のアンケート結果だが、全体を大きく「利用する」と「利用しない」に分けると、だいたい半分ずつという結果になった。そして、「今後利用する」と確信を持って答えた人は3.5%と、思いのほか数字が伸びなかった。

有料・無料を問わず、電子書籍・コミック(雑誌等も含む)を、携帯電話・PHSやスマートフォン、パソコン、専用端末など、何らかの端末で利用しているかどうかという質問に対する回答。「現在利用している」から「今後利用するかもしれない」までの利用者・利用意向者と、「今後も利用しないと思う」「今後も利用しない」という非利用意向者が、ほぼ拮抗している

 しかもその内訳を見ていくと、年齢層では50代が多く、60代も目立っている。「電子書籍はシニア層?」というわけなのだが、カンファレンスで米ソニー・エレクトロニクスの野口不二夫氏も、中心ユーザーは50代とおっしゃっていたと思う。Kindleは、大学生や、空港などで見かけるようなバリバリのビジネスマンが使っているのでは? と返ってきそうだが、実は、Kindleユーザーの年齢層が高いことはよく知られている。

 Amazonは2009年4月に、Kindleユーザーの年齢層などのデータを公表した(「Kindle Demographics」、参照リンク)。それを見ていくと、55歳以上が37.3%、35〜54歳が38.4%。全体では50歳以上が約半分を占めていたのだ。同社は、Kindleの正確な販売台数を明らかにしておらず、またその後、こうしたデータは公表されていないように見える。昨年7月の米ZDNetには、「Amazonさん、Kindleユーザーの属性教えてよ!」(Amazon, Show Me the Kindle Demographics!)などという記事も掲載されている。

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