電子書籍における漫画インタフェースを大いに語る(前編)うめ・小沢高広×一色登希彦×藤井あや(1/3 ページ)

漫画が電子書籍として配信されるケースが増えている中、漫画家の意見はあまり反映されることなく進んでいる感がある。本特集では、うめ・小沢高広氏、一色登希彦氏、藤井あや氏という電子書籍の出版経験を持つ現役の漫画家3名が、思いのたけを語り尽くす。

» 2011年06月24日 12時00分 公開
[山口真弘,ITmedia]

 いま、電子書籍のプラットフォームで漫画が配信されるケースが増えつつある。イーブックジャパンなどの電子書籍ストアにおける販売はもちろんのこと、先日は少年ジャンプやマガジンといった漫画雑誌が、期間限定ながら電子書籍での無料閲覧という試みを行ったことも話題となった。これとは別に、自炊して電子書籍端末で読むためのビューワアプリも数多くリリースされるなど、漫画を電子書籍端末、もしくはPCの画面上で読むための環境整備が進んでいる。

 しかし、本職の漫画家がサービスの仕様策定に関わっている「Jコミ」や「漫画 on Web」はともかく、多くのビューワでは漫画を描く側、つまり漫画家の意見がほとんど反映されずにインタフェースなどの仕様が策定されつつある感が強い。タップやフリックといった操作に対する挙動はもちろん、端末の向きを変えたときの挙動、さらには一部のフォーマットで実装されつつある、画面サイズを変更した際にコマが分割表示されるリフロー機能などだ。一方でケータイコミックのように、おおよそ漫画の文法とはかけ離れた実装でありながら、定着しようとしている挙動も存在する。

 こうした現状について、電子書籍の出版経験を持つ現役の漫画家3名に集まってもらい、思いのたけを語ってもらった。インタフェースに対する考えはもちろん、漫画界を取り巻く現状、さらには紙か電子書籍かという問題を超えた本の流通に対する提言まで、熱い意見が飛び交った。本稿ではこの座談会の様子を3回に分けてお届けする。

座談会俯瞰

座談会に参加いただいた方々

うめ・小沢高広

2人組漫画ユニット「うめ」の主に原作担当。妻は主に作画担当の妹尾朝子。代表作「東京トイボックス」「ちゃぶだいケンタ」。現在月刊コミックバーズにて「大東京トイボックス」、月刊コミック@バンチにて「南国トムソーヤ」を連載中。2010年2月、Kindle Storeで初の日本語漫画「青空ファインダーロック」を発売。若き日のApple創設者を描いた「スティーブズ」をパブーで公開したことでも話題となった。

URL:http://www.chabudai.com/


一色登希彦

東京離脱作業中の漫画家。代表作「日本沈没」「モーティヴ ー原動機ー」「ダービージョッキー」。現在『ジャンプSQ.19』にて「水使いのリンドウ」連載中。オンライン漫画サイト「漫画 on Web」で過去の著作を販売するほか、2011年5月からはeBook Japanにて「ダービージョッキー」全22巻を販売。

URL :http://toki55.blog10.fc2.com/


藤井あや

ボーイズラブ系漫画家。代表作「桃色男子」「男巫女」。現在「コミックJUNE」「Boy'sLOVE」にて「桃色男子〜檸檬編〜」「男巫女」連載中。2010年2月、Kindle Storeで桃色男子の英語版「Peach BoyMOMO&MIKAN」を発売。「日本Kindleの会」の管理人も務める。

URL:http://ayafujii.jp/


司会進行:山口真弘

テクニカルライター。PC周辺機器を中心としたハードウェアレビューが専門だが、最近では電子書籍に関連した漫画家や事業者へのインタビューも多い。「徹底討論 竹熊健太郎×赤松健 電子出版時代における漫画編集者のあるべき姿」「『沖縄発の本』を電子書籍で全国へ──沖縄eBooksの挑戦」など。

「電子書籍を本気で意識するなら、見開きを全廃する覚悟が必要」(一色)

うめ・小沢高広氏 うめ・小沢高広氏

── 今日は電子書籍における漫画インタフェースというテーマなのですが、まずは電子書籍によって漫画そのものの描き方が変わるのかどうかを伺っていきたいと思います。まず小沢さん、小沢さんはKindleでの出版やパブーでの著書販売など、電子書籍に対してさまざまに取り組まれていますが、どう思いますか?

小沢 描き方について言えば、最近は、文字の級数は20Qを使うようにして、18Qの比率を減らしつつあります。iPadでは、見開きの場合20Qくらいのサイズでないと読めないからです。ただ、最近ストーリーが混みいってきてセリフが長くなってきたので、やっぱり18Qにして、技術の進歩に任せようかなと思っていますけど(笑)。

 実は今、Photoshopからコミスタ(注:ComicStudio)に移行しつつあるんですが、コミスタはトーンを最初から網点で貼れるんですよ。でも網点にした場合のモアレの出方はビューワによって異なるので、意図的にグレーのデータをマスターとして保存しています。グレーで保存しておけば、後から網点にすることは簡単なので。

 電子書籍によって漫画の表現そのものが変わるのかどうかについては、例えば見開きを減らそうとか、そうした意識はありませんね。

── 次に一色さんに伺いたいのですが、一色さんは「日本沈没」などの作品を拝見する限り、見開きの表現を多用されるケースが多いと思いますが、現時点での電子書籍は見開き表示をあまり得意としていませんよね。ネームを切ったり完成原稿を描く際に、こうしたことを意識されることはありますか。

一色 ないですね。いまのところ紙の雑誌に載せることを前提に、紙の雑誌のルックベースで考えてしまいます。電子書籍を本気で意識するなら、見開きを全廃する覚悟が必要でしょうし。

── 一色さんは佐藤秀峰さんが立ち上げられた「漫画 on Web」に出展しておられますけど、漫画 on Webは基本的に見開き表示ですよね。

一色 見開きのみでしたが、今はiPhoneやiPadでも見られるようになっていて、それらは縦持ちしたときは片ページずつ表示できます。

── なるほど。続いて藤井さんですが、藤井さんはボーイズラブ(BL)というジャンルからして、ケータイコミックで出版される割合も多いですよね。

藤井 ええ。BLについて言えば、最近はどこの版元さんも、ケータイで出すことを前提に紙の本を出しています。

小沢 ケータイコミックだと画面上はコマ単位で表示されますが、原稿自体は普通に描くんですよね?

藤井 そうです。作家さんとしては紙で出してほしい方がほとんどなので、コミックの発売と同時にガラケーの方でも出すと。女の子はみんな携帯を持ってて常に見てるから、宣伝にもなるんですよね。ガラケーで配信が始まればmixiに広告バナーが載って、そこから紙の本にも興味を持ってもらったり。

── 電子書籍が紙の本の販促にもなっているという。

藤井 出版社はそう考えている節がありますね。

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