男性同士の恋愛を扱った小説や漫画などを好む女性を指して使われる「腐女子」。電子書籍の売れ筋でもあるこのジャンルについて、まみぺこさんが勉強会形式で教わるこの企画。最終回では、ボーイズラブ系漫画家の藤井あやさんに、最近のBL作品の傾向やプロの描き手から見た腐女子の世界観について教えてもらった。
漫画もアニメもゲームも大好き。
きちんとヲタクとして育ってきたはずなのに、BLだけが分かりません!
なぜ? どうしてみんな腐っていくの? 私だって腐女子になりたかった。
BLの魅力をもっと知りたい。腐女子の世界をまだまだ教えてほしい。
腐女子は、一体何に萌え、ときめいているのか。その素顔に迫ります。
「BLを描いているときは完全に攻め」
腐女子は「受け」にも「攻め」にも、どちらにも感情移入できる。
BL漫画家の藤井あやさんが、「受け」と「攻め」の魅力について教えてくれました。
藤井あやさんは、雑誌『Boy'sLOVE(ボーイズラブ)』などで
女体化BLなどを好んで描かれているBL漫画家さんです。
藤井先生、早速ですが腐女子になったきっかけを教えてください!
今は漫画家をやっていますが、きっかけということなら『小説JUNE』でしたね。
『小説JUNE』はご存じですか? 昔刊行されていた、BLをテーマにした硬派な小説雑誌です。
『カセットJUNE』の時代ですよ。ドラマCDなんてまだありませんでしたから。
カセットテープですよカセットテープ。
うちは漫画がダメで、活字ものならOKという教育方針だったんです。
『小説JUNE』はすべて活字。男の人同士の同性愛がテーマの小説です。
でも、何というか、今思えば本当に硬派なBL小説ばかりでしたね。
人が亡くなったりするようなわりと重いテーマだったりして。
エロはあっても朝チュンでした。
最近のBL作品の「受け」は、総じて女の子らしい男の子なんだけど、
昔のBL作品って「受け」も「攻め」もきちんと男なんですよ。
「俺は男なのにどうしてあいつが好きなんだ」と悩むシーンがきちんと描かれているんです。
本当にきちんと悩むんです。「あいつは男で、俺も男なのに……」って。
最近のBL作品は、男同士で恋愛してもそこまで悩みませんよね。
時代なのかもしれないけど、あまり重すぎるテーマは好まれなくなってきています。
BLの文法を分かっている人が付いてきてくれている感じがします。
言い換えれば、BLの下地があるんです。省略してもいいよね、と。
BLにもそれぞれの時代で流行りがあるんですよ。
アラブの石油王が流行ったり、医者が流行ったり、擬人化が流行ったり。
あぁ、そうそう、次の『BE×BOY』の特集「第一次産業特集」なんですよ!
農業や林業にたずさわっている人たちのBL。
「おまえを守るのは大地と俺」みたいな感じになるのかな(笑)
そうですね。
ともあれ、BLってラクなんですよ。
Julieさんも言っていたけど、男女の恋愛だと、
どうしても面倒くささや生々しさがついてくるんです。
でもBLだと「ファンタジーだから」で済むんです。
そう。BLってファンタジーなんですよね。
アニメで魔法少女に変身したり、巨大ロボットが敵をやっつけたりするのと一緒で、
「男同士が恋愛をしている」というファンタジー。
男同士で無理やり押し倒したとしても嫌よ嫌よも好きのうち。
やめろやめろって言いながらいちゃついてるんですよそれは。
たった一言、下の名前を呼ばれただけで恋に落ちてしまうんです。
そういう過剰描写も許せてしまうのがBLかなと。
だから、読むほうもラクだし描くほうもラク。
安心できますね。エンターテインメントですよ。
分かります。
もし押し倒されたのが女の子のキャラだったら
「襲うなんてひどい」って思ってしまうんですけど、男同士なら大丈夫。
お互い熱い思いをぶつけあう激しいBLでも安心して読んでいられます。
思春期のころは、感情移入せずに美しいBLを外からこっそり鑑賞させていただく、
という読み方をしていたんですけど、最近はどんどん感情移入して読めるようになりました。
昔は、少年ものしか読めなかったんです。サラリーマンものとかは生々しいというか。
世界が違いすぎて怖かったんですけど、もう今はなんでも読めますね。
『タクミくんシリーズ』は大ファンだし、尾崎南先生の『BRONZE』も神だし
ヤマジュンさんもいけますし。
私も何でもいけますね。
若いころは奇麗なイケメンばかりだと嬉しいなって思っていたけど、
今はもう本当に何でもいける。むしろおっさんおいしいです。
腐女子というのはですね、いろいろなものを吸収していって神へ近づいていくんですよ!
腐女子は腐女神(ふじょしん)になる!
感情移入するときの読み方は「受け」の男の子になっているんですけど、
読んでいるうちに「受け」があまりにも可愛すぎたり女の子らしすぎると、
「もうダメ! 感情移入していられない!」と思って「攻め」のほうに感情移入します。
どちらにも感情移入できるというBLのいいところかもしれませんね。
なるほど!
私、BLを読むときはみんな「受け」に感情移入するものなんだと思っていました。
「攻め」が相手で「受け」の男の子に感情移入して読むものなのかなって。
だって、読んでいるのは女の子だから。
いやむしろ「攻め」ですよ。
私がBL漫画を描いているときは完全に「攻め」です!
こいつをどういじり倒してやろうかと思って描いていますから。
かわいい男の子に感情移入しているのではなく、鑑賞して、いじめぬいている感じ。
ここが重要なんですが、BLって、どんなにハードな性描写があってもベースは「恋愛」なんです。
男の人が読むエロ漫画は、男脳の世界観で構築されているから、
ぶっちゃけ恋愛がなくてもセックスがあればOKなんです。
でもBLは女の子が読むものだから、同じセックスがあるにしても、
そこには「好きだから」というベースがないと成り立たないんです。
BLが少女漫画の延長っていうのはそういう意味なんですね。
腐女子の皆さんって、そうやってきちんと理由づけして
恋愛の根っこを大切にしているんですね。
「ヤリたい」っていう感情で恋愛するのはダメですか?
うん。だからこそ、BLにセックス描写はあってもなくてもいい。
キスがゴールでいいですよね。
そう。この話、セックス要らないよね。と思うこともたくさんあります。
2人が手をつないで、朝ちゅんちゅんってスズメが鳴いていればいいですね。
腐女子の中にも、例えば結婚したり、子どもを産んだり
人生の大きいエピソードがあるとBLからふっと離れてしまう人がいるんです。
仕事が忙しかったり育児が忙しかったりすると現実の方が大変ですから。
でもね、そうした人がBLに戻ってくるとパワーアップしているの。出戻りは強いですよ。
疲れたときや、いろいろな恋愛を経験した後もBLをファンタジーとして
これからもずっとずっと楽しんでいってください。
わはー! 皆さん、長時間にわたってどうもありがとうございました!
ここで語っていただいたことは、あくまでゲストの皆さんのケースなんですよね。
世の中にいる腐女子の数だけ腐女子論があるんだろうなと勉強になりまくりました。
腐女子のかたがたがBLの何に萌え、ときめいているのか。
その謎に一歩近づけたような気がします。
腐女子勉強会お疲れさまでした!
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