インタビュー
» 2011年08月12日 10時00分 公開

電子書籍フォーマット「EPUB 3」で漫画は変わるの?イーストに聞いてみた(2/3 ページ)

[山口真弘,ITmedia]

海外展開を前提に、構造化されたデータを作るクリエイターが出てくるかも

イースト コンテンツビジネス事業部開発部部長の加藤一由樹氏。氏のTwitterアカウントはneo_karo_jp

―― 前回の漫画家さんの座談会では、セリフの外出しについては肯定的な意見が出てきつつも、リフローはわりと無理があるんじゃないかという意見が出ていました。この辺りのお考えはいかがですか。

高瀬 EPUB 3の成果報告会で使ったサンプルデータについては、吹き出しは本当は別レイヤーでやりたかったんですが、提供していただいたデータが最初から1枚絵の画像だったので、セリフの文字だけ消してサンプルデータを作りました。理想としては、作画の段階で吹き出しの背景を描いていただいて、別レイヤーに分かれているとリフロー時に消すことができてきれいだろうなとは思いますね。

―― うめさんは、吹き出しの背後まで描いているので問題ないというお話でしたね。藤井先生は吹き出しを乗せてデッサンが取れないのをごまかすというワザが使えなくなるから嫌だと(笑)。一方で一色先生は、吹き出しの位置を含めて視線誘導をやっているということで、どちらかというと否定的なご意見でした。吹き出しがなくなると、それはもう漫画じゃないよねという。

高瀬 漫画って、最初のネームの段階でページレイアウト前提にして作られてるものですよね。それを維持したままリフローというのは、絶対両立し得ないことだと思います。そこはもう、新しいものを作ろうとしたらすでにあるものを捨てなければダメといった議論になってくるでしょうし、そうやってできたものを果たして漫画と呼んでいいかも、また別の問題かなと思います。

加藤 この辺りは、既存のコンテンツとこれからのコンテンツとで、全然違う話だと思うので、分けて考えた方がいいかもしれませんね。

高瀬 コンテンツを輸出するときに、縦長の吹き出しに横書きの英語のテキストを入れていくというのは不自然ですし、1回画像化されてしまっていると、手作業でやるのも大変ですよね。なので、海外などでの展開を前提に、きっちり構造化されたデータを作るというアプローチをするクリエイターさんが、これから出てくるんじゃないでしょうか。

―― 例えば今、海外に輸出されている漫画ではその書き文字を全部消した上で、英語やハングルに直すという作業を、作者ではない海外の出版社などが行っているわけですが、データを構造化しておけばそこまで手をかけずに翻訳をして出すことができますよという、そういう認識で合っていますか。

高瀬 いまはまだツールがないので、どういうデータ形式にするかという問題はありますが、やろうと思えばできるはずです。この例(編注:以下の画像)だと、書き文字はコンテンツの上に英語のテキストを添える形で実現しています。効果音のところやこういうタイトルの部分とか。この「ゴクッ」っていう文字に上から英語のテキストをかぶせたりと、画像には手を加えずに、しかも英語でも分かるようにする。日本語だけのときは、これをパッと消すっていうことぐらいはできます。

コンテンツの上に書き文字を英語のテキストとして添えた例(1コマ目の画像が青いのは選択しているため)。「haruko's boyfriend〜」の箇所にさりげなくCSS3のテキストシャドウが使われていることが分かるだろうか。海外などでの展開を前提に、構造化されたデータを作るアプローチが漫画の制作でも普及するか

―― 余談ですが、上にテキストを置いている時に、背景が黒だったらどうなるんですか。背景も黒、文字も黒で埋没しちゃいますよね。周りが白か何かでアウトラインを取るような感じになるんですか。

高瀬 これはCSS3のテキストシャドウという、周りに白い影をつける拡張を使ってます。ただ、このプロパティはEPUB 3では必須じゃないんですよね。WebKitには実装されていますけど、ビューワによっては埋もれることがあるかもしれません。文字を影ではなく縁取りで表現できるプロパティも提案されているようですが、まだ固まっていませんね。

―― なるほど。

EPUB 3の成果報告会で使われていた漫画のサンプルデータのソースを見ると、日本語テキストと英語テキストを並べて記述し、それをスタイルシートで切り替えている

高瀬 セリフについては、あらかじめXHTML5に日本語テキストと英語テキストを並べて記述し、スタイルシートで切り替えています。英語を表示した状態から、リロードすると英語の文字が消えて日本語になるという。

―― ツールでどう実現するかですよね。この間の漫画家さんの座談会で、ComicStudioなどから直接エクスポートできたらどうですかという質問をしたら、それは断る理由はないという回答だったんですが、やはりそれは漫画家さんが手で作業をするのは難しくて、ツール側で実装すべきですよね。

高瀬 わたしもそうできたらいいなと思います。EPUBじゃなくても、とにかく制作段階でちゃんと構造化されたデータを用意することが重要ですよね。紙に出たものをスキャンしてデジタル化するというのが、一番工数が掛かるので。ただ、技術者だけで頭でっかちに話していくと危険な部分ですから、それは突っ走らないように気にしているところです。

―― IDPFでの、日本の漫画コンテンツの扱いはどうなんですか。

加藤 (EPUB 3の仕様策定責任者である)ビル・マッコイも村田(真)さんも、EPUB 3の漫画利用に関しては積極的にやりたがっていますが、具体的なビジョンはこれからといったところですね。

高瀬 今回EPUB 3の仕様がほぼ確定したわけですが、今後どんな使い方があるかというシナリオごとにワークショップが開かれる予定です。例えば最初のテーマは複雑なレイアウト、リッチなレイアウトについてなのですが、そういったものの1つとして漫画がテーマになる可能性はありますね。

―― 昨年暮れから話題になっているJコミも、テキストを外出しにしておいて、Google翻訳にかければ別の言語に書き換わるという仕組みをオンラインビューワに実装しています。テキストを外出しにしておいて翻訳するという、よく似た結論が全然違うところから出てきて興味深いのですが、ご覧になっていていかがですか。

Jコミのオンラインビューワ、ムラサメ Jコミのオンラインビューワ、ムラサメ

高瀬 Jコミいいですよね。わたしの中ではすごく評価が高いです。EPUBの場合、注記やメモ書きといったアノテーションについての仕様が、今後EPUB 3とは離れた形で策定されるんですけれど、漫画のセリフをアノテーションという形でテキストデータで持っておくことはできるはずなんですよね。なので有志のボランティアの人が英語のテキストを加えてみようといった具合に、セリフの多言語化もできるんじゃないかなと思って、個人的に期待しています。

―― そうなると、Google翻訳をベースにファンがセリフを入力していくJコミとよく似た形になるわけですね。

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