シャープ、教育市場に向けたタブレット型学習端末を発表

シャープは教育市場に向けたタブレット型学習端末「JL-T100」を発表した。「2020年までに児童生徒1人1台の情報端末」という政府戦略をにらんで同市場はこれから大きな変化がありそうだ。

» 2012年03月01日 13時00分 公開
[西尾泰三,ITmedia]
JL-T100 JL-T100。CPUはルネサスモバイル EMMA MobileEV2(デュアルコア)で、microSDスロット、USB/microUSBコネクタ、ヘッドフォン/マイク端子などを備える

 シャープは3月1日、教育市場に向けた10.1インチタブレット「JL-T100」を発表した。価格はオープンだが4万円を切る価格帯での販売を想定しているという。

ディスプレイサイズは10.1インチ(1024×600ドット)のノングレア液晶で、ペンを持った手が画面上に触れても反応しにくい抵抗膜方式のタッチパネルを搭載。サイズは278×180×14ミリ、重量は約650グラム。端末としては現時点での安定性を重視しAndroid 2.3ベースとなっている。これまでシャープがリリースしたタブレットの知見は随所に生かしながら目的に特化した設計となっているタブレット製品だ。

手を添えて細かい文字を書き込めるよう、ベゼルを厚くするとともに抵抗膜方式のタッチパネルを搭載。付属のペンは断面が丸みを帯びた三角形型でやや大きめの鉛筆サイズ

 ソフトウェア面では、ランチャーソフトである「ホームメニュー」により、必要なアプリに限定したアクセスを設定できる。また、PDFファイルなどの教材を表示し、そこに直接手書きで書き込んで保存したりすることも可能。マーカーで教材の文字を隠して暗記学習に役立てる「暗記モード」なども用意されている。このほか、動画や音声は4段階の可変速再生も可能。教科書体のフォント(モトヤ教科書2/3/4)が搭載されているのも特徴といえる。

 このほか、シャープが提供しているタッチパネル搭載の大型多目的ディスプレイ「BIG PAD(PN-L802B)」と連動した教育ソリューションなどが提案されている。BIG PADを電子黒板として利用し、黒板の内容を児童生徒のタブレットに送信、あるいはその逆を行うなどしてインタラクティブな授業が可能になるとしている。これらはそうしたLMSシステムの構築が前提となるが、シャープとしてはこれまで「Interactive Study」「LessonMate」などの学校教育ソリューション事業を手掛けてきた実績をとともに教育市場に訴求していきたい考えだ。

「2020年までに児童生徒1人1台の情報端末」という政府戦略をにらむ

 同社がこうした端末を発表したのは、教育のICT(情報通信技術)化に向けた行政の取り組みと密に関係している。この領域において政府は、2010年5月にIT戦略本部が決定した「新たな情報通信技術戦略」(教育関連)を2010年6月に「新成長戦略」として閣議決定している。以下はその抜粋だ(強調はeBook USER)。

子ども同士が教え合い、学び合う「協働教育」の実現など、教育現場や医療現場などにおける情報通信技術の利活用によるサービスの質の改善や利便性の向上を全国民が享受できるようにするため、光などのブロードバンドサービスの利用をさらに進める。


 この閣議決定に従って、総務省・文部科学省・経済産業省などは教育のICT化に向けた取り組みを実施していくことになる。例えば文部科学省であれば教育の情報化ビジョンとして「学びのイノベーション事業」を、総務省は「フューチャースクール推進事業」などを展開している。前者が主にソフトウェア的、後者がインフラ的な整備を進めようとする実証研究だ。

 「新たな情報通信技術戦略」は工程表が用意されており、教育関連の工程表が以下の図だ。

新たな情報通信技術戦略工程表(出典;高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部)

 注目したいのは赤枠で囲った2014年度からの「安全安心な環境のもと、児童生徒1人1台の情報端末による教育の本格展開の検討・推進」の部分。2020年までに児童生徒1人1台の情報端末を導入する予定となっている。ここにベンダーも注目しており、シャープもいち早く端末を発表したというわけだ。

 文部科学統計要覧(平成23年度)によると、現在、国内の学校数は約5万8000校、在学者数は約2000万人。そのほか、学習塾は約5万事業所、外国語絵会話教授業などの教養・技能教授業務を手掛ける事業所は約9万、受講生数は約1390万人とある。児童生徒1人1台の情報端末を導入するという行政の取り組みがこうした市場に大きな変化をもたらすことは想像に難くない。

 シャープによると、今後の実証研究などでJL-T100の採用が決定しているわけではないというが、水面下では各社がしのぎを削っていると考えられる。電子教科書の動向と併せて注目していきたいトピックだ。

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