羽があるって、楽じゃない――「進学天使」胡瓜の「このWeb漫画読もうぜ!」第2回

「これは!」と思ったWeb漫画をピックアップするこのコーナー。イースト・プレスから作品集も出ている九井諒子さんの「進学天使」を紹介します。

» 2012年04月25日 00時00分 公開
[山田胡瓜,ITmedia]
photo 「進学天使」(「西には竜がいた」より)

 現実の世界に当たり前のようにファンタジーが息づく。あるいは、ファンタジーが現実的なテーマに直面する。九井諒子さんの漫画には、そんな世界がしばしば描かれる。視点の面白さ、そして作品に合わせて巧みに絵柄を変える圧倒的な画力とセンス――出版社がこの才能を見逃すはずはなく、イースト・プレスから作品集「竜の学校は山の上」が出ている。今回紹介する「進学天使」は、この作品集にも収録されているものだ。Web上では、九井さんのホームページ「西には竜がいた」で読める。

 進学に悩む女子中学生の背中には、羽が生えている。神の使いか、魔女の呪いか――そんな大層な話ではなく、理由は「病気」。飛ぶには飛べるが、簡単じゃない。「空飛べたっていいことないもん」とこぼす少女。「自転車こいだ方が圧倒的に楽」な現実が、彼女の前には広がっていた。

 異能の人も、進学しなきゃいけないし、将来も考えなきゃいけない。周囲の期待と、内に秘めた自分の思いとの間で葛藤する少女の姿は、等身大の学生そのものだ。それでも、やっぱり魔法には人を感動させる力がある。空に舞い上がった少女のスペクタクルが、静かに読み手の胸を打つ。

 酸味も苦味も効いた現実に、スプーン1杯のファンタジー。墨と余白が潔く使われたページ1枚1枚の、なんと美しいことか。こんなステキな作品に出会えるインターネットに感謝である。

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