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» 2012年05月25日 10時00分 公開

赤松健は隣接権とそれを巡る議論をこう見る(2/3 ページ)

[まつもとあつし,ITmedia]

作者はそれで幸せになるのか?

―― なるほど。ただ、著作隣接権が出版社に付与された場合は、Jコミに限らず作者の意思に関わらず、電子書籍展開などが行われてしまうことになりますね。

赤松 それは分かりませんが、確かに原盤権のある音楽の世界では、アーティストの意思に反してベストアルバムが出て、アーティスト自身が「あのCDは買うな」と発言するとか、そういう展開があるようですね(笑)。

赤松健氏 「現状では、業界の現実、そして法律問題と漫画家の立場を理解して動ける人はなかなかいない」と赤松氏

 しかし、やはり大手出版社がいったん絶版にしたような古い作品は、たとえ初期の電子化のコストをパブリッジが肩代わりしたとしても、その後もずっとコストをかけて管理・販売していくというのはなかなか難しいのではないでしょうか。というか、絶版書がメインでは(産業革新機構が出版デジタル機構に出資した)150億円を回収できるような売り上げはあがらないと思います。文化財保護という観点からは非常に良いかもしれませんが……。

 いくらロングテールだと言ったところで、現状見ても年に一冊も売れないってこともありますからね。でも著者とやり取りするための人件費とか管理費は掛かるわけじゃないですか。するとやっぱり、おカネにならないものはやらない、という判断になるんじゃないかな。Jコミの場合は、全巻無料で読めるせいか、月の収益が0円だった作品は今までに一つも存在しませんけどね。

―― いくら肩代わりするといっても、死蔵されていた全部が全部出てくるわけではなく、ただこれまでの方法論では出てこなかった作品が出てくるようになる、といったところでしょうね。

赤松 図書館なら儲からなくても本が並んでいることに意義があると思いますが、それって作者が幸せになるんですか?

 いまでも電子書籍の印税って微々たるものじゃないですか。出版社は積み重ねれば一定の売り上げになるかもしれませんが、それで幸せになる作者はやっぱり少ないでしょう。その辺りがどう考えられているのか、疑問はありますね。仮に作家の許諾なしで電子化が行え、パブリッジもあるので、有無を言わさず電子書籍になる、でも著者にはほとんど利益が還元されないとなったら、「じゃあ最初から出版社を介さずにやった方がいいよね」という人が出てくるんじゃないかな。

 いまはJコミもそうだけれど、コミケもあるし、ニコニコ動画的なものもある。いろいろな発表の手段があるわけですから。逆に何でもかんでも出版社がやる、ということになると彼ら自身が困ることになるんじゃないですかね?

隣接権は海賊版対策に有効なのか?

―― 一方、赤松先生もTumblerで挙げていたように、「海賊版対策」として出版社への権利付与は有効だという意見もあります。これまで出版社が訴訟を起こすことができなかったけれども、それが可能になる、というロジックですね。

赤松 それは、著作権侵害は親告罪なので「著作者本人でなければ何も動けない」という話ですよね。しかし例えば、過去に「ラブひな」がファイル共有サービスにアップされる事件が結構ありました、そうすると、講談社から「警察が容疑者を逮捕したいと言っていますが、良いですか?」と電話で問い合わせがあるんです。私はそれに対して一言「良いですよ」と答えるだけです。それで終わり。この「30秒くらいの手間」を省きたいってことですかね? ――いいですよ、省かなくても! そんなの大した手間じゃないですよね(笑)。

 実際私の場合、一回その確認作業をしたら以後は編集部に任せてしまいますし、裁判にも何にも一切関わったことはありません。また、読者の方から「海外のサイトに作品が上がってますよ」と報告メールをもらうと、逆にこちらから講談社の版権部に連絡して、「何とかしておいてください」って言うこともあります。

―― 確かに。削除依頼だけであれば、正式な委任を受けた代理人であれば可能ですし。

赤松 ニコニコ動画などの場合は、講談社に削除ツールを提供していて、特に私が連絡しなくても削除されてしまうようですね。その場合は「講談社の依頼によって削除」とか表示されているはずです。その委任を受ける手間を省きたいから権利付与を求めているのなら、それは合理的ではないように思います。

 それに、海賊版を撲滅したい、といっても、隣接権は海外には通用しないわけです。海賊版はほとんど海外サーバですよね。作者に確認を取る少しの手間を省きたいというのも不自然ですし、どれをとってもヘンですよね? 隣接権があってもなくても、海賊版対策にかける手間とコストは変わらないんじゃないかなと思います。

―― なるほど。もう1点指摘されているのが、仮に訴訟を起こすとなった場合に、現状では出版社がその主体になれないので、スキャン代行訴訟のように、著者に原告になってもらわないといけないわけですが。これは著者にとって負担ですし、スキャン代行のときも一部の読者からは「どうしてそんな主張をするのか」という批判の矢面に立つことにもなりました。

赤松 それも善し悪しで、著者が「本をバラバラにしないで!」と直接訴えかけた方がいわゆる市民感情には響きやすいということもありますよね(笑)。顔出しNGの著者さんならば記者会見をしなければいいわけですし。

 出版社が取り締まってくれない、そして自分は原告になりたくないという著者は、弁護士に委任状を渡して代行を依頼するという方法もあります。それさえも嫌だという場合は、さすがに泣き寝入りするしかないかもしれない。しかしそれはもう、仕方がないと思いますよ。作品を世に送り出した著者の果たすべき責務ではないかと。

―― その場合の手間やコストは?

赤松 確かに漫画家さんの中には「自分は絵だけを描いていたい。ほかのことは一切やりたくない。」という人も大勢います。そういった方々に矢面に立てとはなかなか言えない。電子書籍が本格的になっていけば、エージェントにそういった業務を委託していくということになるかなと思いますね。でも現状では、業界の現実、そして法律問題と漫画家の立場を理解して動ける人はなかなかいないですね。

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