知ってること全部書いたらまさに発禁、そうでなくてもギリギリのラインを攻める出版社擬人化4コママンガ「飯田橋のふたばちゃん」。出版業界のきわどいネタが詰まったこの作品の単行本第1巻発売を記念し、横山了一さん(原作)、加藤マユミさん(作画)の夫婦に話を聞いた。
「双葉ちゃん」「集英ちゃん」「講談ちゃん」「小学ちゃん」――出版社を擬人化した女子高生が永遠の日常を送る4コママンガ「飯田橋のふたばちゃん」。双葉社のWebコミックサイト「WEBコミックアクション(旧Web漫画アクション堂)」で2012年5月に連載開始となったこの作品は、キュートな絵柄と裏腹な出版業界のきわどいネタで公開直後から出版業界関係者だけでなく広く話題となった。
あれから約1年、“ギリギリのラインを攻めた”待望の第1巻が紙の単行本として6月28日に発売された。eBook USERでも毎週木曜にお届けしている出張版ももちろん含まれる。今回は、横山了一さん(原作)、加藤マユミさん(作画)の夫婦が描くこの作品の知られざる裏側を担当編集者の國澤正火土さんも交えてじっくり聞いた。
―― eBook USERでも出張版を掲載させていただいている出版社擬人化4コママンガ『飯田橋のふたばちゃん』、単行本第1巻発売おめでとうございます。今日はふたばちゃん誕生までの経緯などをうかがえればと。
横山 僕が双葉社に持ち込んだのがきっかけです。いつか行ってみたい出版社だと思っていて。いざ持ち込んだら國澤さんに見ていただいたんです。2011年の暑い夏の日でした。
―― 持ち込んだ時点でもうふたばちゃんのネームだったんですか?
横山 持ち込んだネームは違うものでした。そちらの反応も悪くなかったんですが、「売れるものがほしい」とストレートに言われて(笑)。
國澤 ネタとしては面白かったんですが、連載として毎回やっていくのは厳しい&そこまで食いついてもらえないんじゃないかと思ったんです。
私、横山さんが月刊少年チャンピオンさんで描かれていた『極漫』がすごく好きで、あわよくばお声掛けしたいと思っていたところでの来訪だったんですよね。だからこれはチャンスだと思い、もう少し一緒に企画を練りませんかという感じでやり取りが始まりました。
―― 出版社を擬人化するネタで行こうと決まったのは、どんな経緯だったんですか?
横山 3,4回目の打ち合わせくらいだったと思いますが、2回目くらいには女子高生漫画で行きましょうという話が出ていましたね。当時流行っていたものなどから着想を得る感じだったかな。
國澤 4コマショートのマンガで売れてるネタの傾向と、そうした売れ線の傾向の中でまだやられてないネタはどういうものかをあれこれお互い意見を出し合ってましたね。当時、擬人化ネタは日丸屋秀和さんのWebコミック作品『Axis powers ヘタリア』を中心にいくつか出ていて、それを1つ意識していました。あと『けいおん』的な女子高生の日常ものというのも。
―― 4コマというジャンルにしたのは?
横山 実は最初、御三家の講談社・小学館・集英社に双葉ちゃんが近寄れない、みたいなストーリー漫画調で描いていたんですが、全然面白くなくて2ページくらい描いてやめちゃったんです。もっとゆるゆるした感じで行こうってことになって、勝手に4コマにしちゃったんです。4コマだとネタをたくさん詰め込めるからというのもありますが。
―― 出版社というアイデンティティが固まった存在を基に話を構成するのは、原作者としていかがですか?
横山 描いてみたらものすごいネームを描きやすくて。出版社ってキャラがすごく立ってるので、例えばここはスポーツが得意で、こっちはファンタジーばっかりでそれ以外の漫画は不得意とか。それをそのままキャラクターにすると、普通の漫画のキャラよりも立つというか。話を作るときも、何かイベントがあってスポーツ大会だったり、幼稚園に訪問する会とか。そういう際に各出版社の特徴を出すと、うまい具合に話が転がったりして、自分でもびっくりしました。
―― 出版社の擬人化は、これ以前にはなかったんでしたっけ?
國澤 正確には、前例が1つあります。『今日の早川さん』という、SF好きの女子大生、早川さんが主人公の話で、ラノベが好きな富士見さんがいて、純文学が好きな岩波さんがいて、という、擬人化というよりはそれぞれのジャンルの本が好きな女子たちの日常4コマ。
私、この作品が好きで買って読んでいたんですが、ふたばちゃんの企画を練っているときにはまったくそのことを思いだせなかったんですよね。後で思い出して、社内の企画会議を通す段では、それを過去実績として現実的な“読み“が出せたので企画が通り易かったというのはあります。
―― ふたばちゃんが実際に始まったのが2012年の5月15日でした。Web上で連載するのが決まったのはいつごろだったんですか?
横山 2011年の年末ぐらいでしたね。
國澤 もともと横山さんとの企画は、ふたばちゃんに決まるまでは「漫画アクション」本誌での掲載を想定していたんですが、これに決まった段階で、これはWebでやった方がいいと私がお願いしました。題材自体が業界ネタなので、これが始まったら業界関係者にちょこちょこ話を取り上げてもらえるだろうと。であれば情報の拡散のスピードは、雑誌よりもWebの方が絶対早いと思って。
横山 実際、始まってみたらTwitterで結構リツイートされたりネットで盛り上がってうれしかったですね。
國澤 ITmedia eBook USERさんに最初に取り上げていただいたのが大きかったですよ。Web連載ということもありますが、正直、本誌の連載作品を含めて、連載開始時点でこれだけネットで話題になった作品はここ数年でほかにないと思います。
横山 最初、本誌には知り合いの漫画家さんが結構載ってたので、一緒に載れたらなと考えていたんですが、嫁さんが……。
加藤 主人は「紙の方がいい!」ってすごい言ってて、私は、「これから時代はWebや! こういう作品だしいいんちゃうか?」って説得して。
―― 加藤さんは本作で作画を担当されていますが、ご自身でも『女子 恋愛百科』『月とたまご』『腐しぎの国のリンゴ姫』『ギャルポリ』などの作品を連載されてましたよね?
加藤 はい。以前は自分一人でネームを切って描くのが面白かったんですけど、出産して子どもができてから、描けなくなっちゃって。
―― いわゆるスランプのような感じでしょうか。
加藤 「創作」と「出産や育児」は、脳の使う部位が全然違うんじゃないかなと。育児って、子供があれした、これしたみたいな、日常の目の前のことに対応していくじゃないですか。それをこなしていたら全然できなくなっちゃったんですよ、空想、想像、創作が。
―― なるほど。興味深いですね。
加藤 それを両立されている女性作家さんもたくさんいらっしゃるので一概には言えませんけど、私はそうだったんですね。仕事はしたいけど、作れないな〜って思ってたところに、夫の方がそういう話になって。最初は私が絵を描くつもりではなくて、もっと絵がうまくて今風なのを描く絵師の方がいるんだろうなと思っていて黙っていたら、國澤さんの方から「いい人いませんか?」みたいな感じで。「え? 誰もやらないならやります!」みたいな(笑)
―― ところで、キャラクター設定は、國澤さんと詰められていったんですか?
國澤 横山さん自身が複数の出版社で描かれてきて、お付き合いがあることが前提で成り立っているネタなので、横山さんから提示されたものに私が編集者という立場で知っている業界ネタを加えていただいて、キャラを作ってもらう感じですね。
横山 でも、詳しくないジャンルもあったりして、特にエロ系は本当に國澤さんに助けていただいてますよ。かなり裏のことまで知っていて、「それ描けないよ!」ってことまで教えてもらってるんで(笑)
―― それは心強いですね(笑)。加藤さんはキャラクターのデザインをどう作り上げていったんですか?
加藤 最初の絵柄は普通の頭身のものだったんですけど、國澤さんが「もっとデフォルメをぐっと効かせた方がいい」と。それで、デフォルメキャラにしたら、「いや、もっと本当に記号的なくらいの方がいい」って……2回くらい縮みましたね。最初の絵柄――この頭身で行く、この感じで行くっていう――が決まるまでは苦戦しました。絵柄が固まってしまえば、キャラの描き分けとかはそんなに苦でもなかったんですけど。
横山 僕がまず女性キャラを描くのが苦手なので(笑)。「おぉ、こんなに上手いじゃない、女性キャラいいじゃない」と満足しちゃうので。唯一言うのは、これだとギャグの面白さが薄れるかもってときくらいですね。
加藤 私が作画で意識してるのは、普段の可愛い顔とかじゃなくって、オチとかでの変な顔、ふたばちゃんとかのツッコミの顔とかリアクションの顔で、夫のネームの雰囲気を壊さないようにすることですね。白目の顔でも雰囲気を壊さないように、とか。
それでいて、各話のトビラとかは「もっとかわいく描いてやる!」と構図とか勝手に変えちゃったり。そういうのは夫は長けてないんで(笑)。かわいく見せる部分ではプラスアルファして、ギャグの面白さは殺さないよう意識してます。
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