週刊少年ジャンプ“公認”MAD――その取り組みはこうして生まれた(2/2 ページ)

» 2014年03月17日 11時00分 公開
[西尾泰三,eBook USER]
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ジャンプは加点方式――おもしろいことを届けたい

―― かなり積極的にさまざまなクリエイターとつながっていこうとする印象を受けますが、ジャンプ編集部はもともとそういうスタンスでしたっけ?

服部 僕らが最初ですね。ジャンプって、今までは放っておいても売れる媒体でした。面白ければ勝手に売れていくし、面白くなければ売れないシンプルな媒体。最近の漫画業界には『意図的に売っていく』流れがあるんですけど、ジャンプ編集部には「そうじゃない!」みたいな文化もあったりして。

中路 漫画づくり自体は変わらないけど、その売り方が変わってきているという印象です。

 これまでは、ジャンプ自体が最大の宣伝媒体でした。「ジャンプに載っていれば売れる」という。また、アニメを放送するとコミックスも売れるなどもありますね。今でもそれは大きいのですが、アニメの放送枠自体が地方では少ない。加えて、最近は書店もどんどん無くなっています。

 そうした状況ですから、より多くの読者に知ってもらうために露出する先をしっかりと確保していく必要性があると思っています。これまでのようにジャンプ本誌や、書店さんの店頭広告だけを頼るのではなく、それこそ、ネットで若い人の人気を集めるドワンゴさんと協力したり、MADが盛り上がっているのであればそこに乗っかって知ってもらう場をどんどん広げていきたいと思います。

―― ジャンプLIVE!もそうした取り組みの1つですよね。ところで、ニコニコ動画にはどのような印象をお持ちですか。

中路 とにかくエネルギーはすごいですよね。うちの若手や、作家さんたちの中にもものすごいファンがいます。誰かが「規律のないエネルギー」と表現していましたが、そのとおりですね。実際、少し危うい感じもときおりあるのですが、その危うさからしか生まれないエネルギーのようなものも確かに感じています。

―― では、ドワンゴにはどういった印象をお持ちですか?

服部 僕の感覚ですけど、ドワンゴさんは、商売も考えているかもしれないけど、そんなことよりも「面白いからやりましょうよ!」って感覚があって、それが僕らの本質的な部分に合うんですよね。

中路 クリエイティブは、仕事感が出すぎちゃうと急につまらなくなることがよくあります。そういうケースでは、作品のイメージを壊さない程度の企画が出てきて、こっちもそれに対して「いや、それは違います」というか、減点方式みたいな見方になってしまうので、話題になる企画って生まれにくいんですよね。

服部 減点方式という表現はいいですね。ジャンプは加点方式ですから。「これをやったら、何かすごいことになるかもしれない!」みたいな。

ジャンプ読者の外へのリーチ

―― コンテストの第2弾、第3弾はどうでしょう? ワンピースやナルトのようなビッグタイトルでやるなどのお考えは?

中路 今回の結果を見ると、次回の開催もあり得ない話ではないと思います。

服部 全然ありだと思います。企画の位置づけを変えて、何かのイベントに合わせてのお祭り的な企画でやる分には、そういう作品でやるのもありかもしれませんね。

 ただ、どの作品でもこの手法がはまるわけではないという気がします。例えば、ワンピースなどでやれば、応募数もすごいことになるでしょうが、その分、ネガティブなものもガンガン来てしまってリスクも増えてしまうかなと。

 となると、これから大きく育てていこう、というような作品で、ファンからすると「MADを作ってこの作品を自分たちも応援するぞ!」って思えるような作品が合うように思います。今回の2作品はそういった意味でもちょうどいい感じだったのかなと。概して、ジャンプ読者の外に潜在的読者がいそうな作品だと、こういう取り組みに合いそうな気がします。

―― ジャンプ読者の外の潜在的読者、とは?

中路 これはほとんどすべてのヒット作品に当てはまるのですが、いわゆるヒット作品というのは、“ジャンプの外”に訴求しないと本当のヒットにならないんですよね。

 例えばワンピースは単行本の発行部数がジャンプ本誌の発行部数以上になっています。ジャンプは読まないけどワンピースは読んでくれる読者が作品を支えています。今回のコンテストもそうですが、そういう人たちに訴求するための新しい取り組みとして考えていければと思います。その中で、今まで僕らと出会う機会がなかった新しい才能と出会うことができて、何か新しいことを生み出していければ、僕らも進化できるし、世界が広がっていくんじゃないかと。

『ワールドトリガー』葦原大介先生がコメント

ワールドトリガー
  • Q:自身の作品がMAD素材となることをどう思いますか

宣伝以外の何物でもないと思っているので、ありがたいことです。

ほかの作品(音楽とかアニメとか)と組み合わされることで、そちらのファンの方の目に留まって興味を持ってもらえる機会も増えるのではと思います。

  • Q:コントロールできているMADならアリ?

こういうことを言うと怒られそうですが、個人的にはコントロールできていなくてもアリだと思います。コントロールできないところがMADの面白いところだと感じているので、管理・規制しすぎると良さが薄れるような気がしています。

  • Q:こんなMADは嫌だ、というものがあれば(逆にこんなMADは歓迎でも可)

1つ前の回答と同じ理由で、MADに対する注文は特にないです。作った人の作品への愛とこだわり、切り取り方・掛け合わせ方のセンスが堪能できるものが見ていて楽しいです。

  • Q:(主に権利者としての観点から)MADとの付き合い方はどうありたいと思うか

著しく連載作品の価値を損なうようなもの(最新話を丸ごと載せるとか)や、権利的に看過できないもの(公式の素材を使って金儲けするとか)でない限りは自由に楽しんでもらえればいいと思います。

  • Q:今回のコンテストを通じて得られた気づきなどはありますか?

製作者の方々の、ワールドトリガー対する捉え方の違いや推し所の差、愛情が伝わってきて、とても楽しかったです。将来的に時間ができたら自分でもMADを作ってみたいと思いました。

2次審査に進んだ5作品以外にも、1次を通過させたい作品がたくさんありました。参加して頂いた方々、本当にありがとうございます。2次審査も楽しみにしています。健康や実生活に無理のないよう、制作を楽しんで頂けたらと思います。


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