ソーシャルギフトサービス「giftee」とマガストアが連携し、マガストアの電子雑誌をギフトとして贈ることができる取り組み。ソーシャルギフトと電子雑誌のそれぞれが抱える課題にどう影響するか。
2014年、電子書籍・雑誌を取り巻くトレンドの1つに、コンタクトポイントの増加が挙げられる。
電子書籍はここ数年で、ユーザーを急速に増やしているが、絶対数でみれば、紙の読者とはまだ大きな差がある。このため、各社ともさまざまな施策で、電子書籍を手軽に楽しめるようにする取り組みを進めている。
例えば電子書籍をリアルの書店で検索・購入までできるようにしたり、コンテンツカードの形で販売したり、あるいはBooklive!とTSUTAYAが協業して進めようとしていることなど、2014年はネットサービスとリアルの連携を深め、広くユーザーを増やしていく施策が多く見られる。
電通の電子雑誌配信サービス「MAGASTORE(マガストア)」もまた、こうした取り組みを推進している。5月には、ソーシャルギフトサービス「giftee」と連携し、マガストアの電子雑誌をギフトとして贈ることができる取り組みを開始した。
ここでは、giftee代表取締役の太田睦氏、マガストアを運営する電通から大崎孝太郎氏、片山智弘氏を招き、この取り組みの意義について聞いた。
西尾 最初に、gifteeのこれまでについてご紹介いただけますか。
太田 gifteeは2011年3月にスタートしたサービスで、ギフトの中でも比較的少額な「スモールギフト」にフォーカスしています。
LINEやFacebook、Twitterなどで、友達の誕生日のお知らせや、転職しました、出産しましたといったさまざまな情報が流れてくる中で、「おめでとう」と一言声かけるだけじゃなく、ちょっとしたギフトをそこに添えられるようになるといいなと思ったのがきっかけです。
「気持ちやコミュニケーションと一緒に届けるギフト」というのがgifteeのテーマの1つで、片手でサッと探して、サッと贈るようなギフトのコミュニケーションを目指しています。
西尾 スモールギフトとして贈られるのはどういった商品が中心なのですか。
太田 特定のお店で使えるオンラインチケットです。コーヒーやビール、スイーツといった、平均単価でいうと500〜600円くらいの商品のオンラインチケット。そこにギフトカードを付けてURLの形で贈ることができるというものです。ローカルのカフェが全国に100店舗くらい、全国チェーンだとスターバックスやファミリーマートに参画いただいています。
西尾 現在のユーザー数は?
太田 直近だと約12万人で、毎月1万人ほどのペースで増加しています。
2014年1月に、スターバックスが「Starbucks e-Gift」という形でソーシャルギフトに参入したことで、この単語が一気にメディアに取り上げられ、そのタイミングで一緒にgifteeも取り上げていただいたのが大きいです。
西尾 サービスを開始した当初はTwitterのアカウント宛にギフトを贈ることができ、その後メールアドレス、Facebook、LINEと連携を拡大しています。サービスの利用傾向で特徴的なことはありますか。
太田 現在は利用の7割くらいがLINEです。厳密にいうと1対1なのでソーシャルギフトではなくて、LINEでつながっている友達に贈るというクローズドな形になっていますが。
利用者の男女比はほぼ半々、年代でいうと20〜30代で、スマホからの利用が約9割ですね。男性だと29歳くらい、女性だと32歳くらいの方に多く利用いただいているようです。
ギフトを贈るシーンは、男性だと関係作りや、もっと近づきたいという動機が多いようで、特に男女間で贈ることが多いようです。また、女性は育児などで友人に会えないことが増え、でもFacebookやLINEではつながっていたりして、ギフトを贈り始めるという利用のされ方ではないかと思います。
西尾 太田さんは、KDDIのインキュベーションプログラム「KDDI ∞ Labo(ムゲンラボ)」の第1期生なんですよね。gifteeもそこで生まれたとお聞きしました。
太田 はい。そのころからずっとご支援いただいています。ファンドから出資いただいていることもあって、今だとauスマートパスのユーザー向けにお得な商品を用意するなど、auさんとサービス連携している面が多くあります。
西尾 今はどのようなことが課題だとお感じですか?
太田 一番の課題はコンテンツですね。有名店舗のコーヒーなどを中心に取りそろえていますが、相手がそのお店に行くかは分かりませんよね。だから、店舗数の多いスターバックスやファミリーマートのギフトがよく贈られています。
全国で広く使えるコンテンツを追加していこうとすると、多店舗展開されているようなチェーン店と組むか、オンラインでコンテンツを楽しめるギフトを追加していくか、という大きく2つの方針があり、今回のマガストアさんとの取り組みは後者に当たるわけです。
西尾 なるほど。マガストアは2009年にiOSアプリからサービスを始め、2010年4月にAndroidアプリ、その後、Kindleストアアプリ、Windowsストアアプリとプラットフォームを展開してきましたよね。現在の概要を教えていただけますか。
片山 取り扱いのある雑誌は900誌以上、商品数でいうと1万5000ほど。電子雑誌に関しては日本最大級のサービスになっています。
ユーザー数は約20万人。30〜40代の男性を中心にiPadから利用される方が多いですね。アプリのダウンロード数だと累計で約250万ダウンロードとなっています。
売れ筋としては、週刊誌やビジネス誌、それとPC/タブレットなどのデバイス着眼したデジタルガジェット系の雑誌は紙よりもポジションが高いことが多いです。
西尾 インプレスビジネスメディアが先日発表した「電子書籍ビジネス調査報告書2014」によると、電子書籍の市場と比べても、電子雑誌のそれはまだまだ小さいです。
大崎 市場自体は今後も伸びると確信しています。現状で言いますと、いわゆる誰もが知っている雑誌でも、まだマガストアで販売していないものもありますので、コンテンツの拡充を推進することが、1つの成長のキーになるとは思っています。
コンテンツのアグリゲーション以外でも、CRMや各種マーケティング施策で実施したいことが山のように積み残っていますので、それらを一つ一つ丁寧に形にしていくことで更なる飛躍が可能となるでしょう。
よく、「(マガストアは)何で雑誌だけなの?」と言われるのですが、(電通は)広告会社なので、紙の雑誌同様、広告との親和性が一番高いのが電子雑誌と考え、事業の“起点として”電子雑誌事業を行っている訳です。
片山 せっかく自社事業でマガストアをやっているので、グロースハック的な施策であったりとか、ノウハウのアセット化、ほかにも電通全体でデジタルソリューションの開拓をやっているので、テストパイロットケースとしてマガストアでさまざまな取り組みをしていきたいと考えています。
私は、コンテンツの拡充と両輪で“間口”を広げることが大事だと思っていて。今回の取り組みとも関連しますが、紙の雑誌はスーパーのレジ前やコンビニなどにも置いてあり、触れる機会が非常に多いですよね。しかし現状、電子雑誌はコンタクトできる母数が圧倒的に少ない。だから、マガストア単体で商売するだけでなく、電子雑誌に触れる機会、売り場を広げることにも注力したいのです。
西尾 東海旅客鉄道(JR東海)も東海道新幹線の一部車両でWi-Fi経由のコンテンツ配信「N700コンテンツラウンジ」を実証実験していて、そこで電子雑誌も配信されていたりしますよね。電子書籍の方でもコンテンツカードの販売や書店店頭などでの電子書籍購入などが増えてきていますね。広告との親和性について、もう少し詳しくお聞きできますか。
大崎 電子化によって広告の効果が客観的な数値として現れるようになったため、本当の意味で、広告の価値を企業に提供できる時代になったのだと思います。
片山 例えば広告が何秒読まれただとか、ある雑誌のどのページが人気だったかなどは現状でも分析できますが、こうしたデータを編集にフィードバックできればもっと違うものができるんじゃないかと。
大崎 紙の雑誌だとアンケートハガキを集計して、どの特集が人気なのかを把握して、次号以降の誌面作りに活用されているのだと思いますが、例えばアンケート集計かっかとマガストアの無垢(むく)なデジタルデータを比較して見ることができたとしたら、両者の結果の“差分”について、編集の方々も大変興味を持っていただけるのではないかと思います。
それと、紙の雑誌ではさまざまな観点で難しかった「電子雑誌の企業向けインセンティブとしての使用」があります。例えば、クライアント企業の商品にシリアルナンバーがついていて、それを入力すると抽選で電子雑誌がもらえるようなキャンペーン、いわゆる“デジタルインセンティブ”を使ったキャンペーンも今まで以上に推進していきたいです。ここが多くの企業と取引のある我々のポイントになると考えているからです。
西尾 海外でgifteeのようなギフトサービスはどういった状況にありますか。
太田 例えばFacebookも米国ではギフトサービスを提供していますが、一番進んでいるのは韓国ですね。韓国にあるあらゆるチェーン店のギフトはすべてデジタルで贈れますから。韓国はカカオトークのユーザーが多く、カカオトーク内でスタンプのような感じでギフトがやりとりされていて、マーケットも非常に大きいです。
西尾 なぜ韓国ではギフト文化が浸透したのでしょう。
太田 韓国は「法人ギフト」からスタートしたことが1つ挙げられると思います。例えばコカ・コーラの新商品が出たときに、「ギフトで無料で贈ろう」みたいなキャンペーンだとか。ある程度インフラが整った状態で、じゃあこれを普通にお金を払って友達にギフトで贈ろうというサービスが出てきので、そこは特徴的ですね。
西尾 gifteeにもそうした法人ニーズはありますか?
太田 はい。サービス開始当初は個人の利用シーンを考えていましたが、法人からの問い合わせが非常に多く寄せられています。例えば、営業したあとのメールにコーヒーを付けるという営業ツールとしての利用だったり、キャンペーンの景品に使ったりといったものですね。
西尾 ソーシャルギフトのキャンペーンも増えていますか?
太田 そうですね。有名なところでいうと、キリンがやっている「BEER to friends」というFacebookやTwitterでビールを1本贈れる企画はよく知られていますし、上手くいっているとも聞いています。メーカーもギフトという文脈で商品が認知されるとイメージアップにつながるので、こうした企画は増えていくのではないでしょうか。
西尾 デジタルコンテンツ、あるいはエンタメ系のコンテンツギフトの需要はどうでしょう。
太田 韓国でもエンタメ系のギフトは非常に多いですし、米国だとFacebook giftで「hulu」や音楽のストリーミング配信サービスをしている「spotify」の1カ月利用権なども贈られているようです。
西尾 話を戻して、電子雑誌のギフトはユーザーからの反応はいかがですか?
太田 gifteeのユーザーにとっては、これまでとは違う種類のコンテンツが入ったので、意外だというような声が結構ありました。ソーシャル上で贈るギフトというのは、相手の細かい好みまで分からないことが多いので、そういう場合に重宝するのだと思います。
ただ、認知度という意味で、電子雑誌を贈れることが上手く伝わっていない課題もありますから、auスマートパス上でも告知させていただいたりして認知を促進する取り組みを進めています。
西尾 体感的には、10年前と比べると雑誌を読むことが減ったように感じていますが、皆さんはどうですか?
大崎 若年層の雑誌離れは進んでいる気はします。よく言われることですが、スマートフォンを含めた新たなメディアが増えたことにより、行動様式の変化が起こったからでしょう。「可処分時間の奪い合い」の問題ですね。
それをピンチなんて言う人もいますが、電子雑誌を含む電子書籍ビジネスにとってはまさに追い風でありチャンスにほかなりません。スマホやタブレットを媒介として読むのが、電子書籍であり、電子雑誌ですから。
しかしながら電子雑誌は「体験」が非常に重要で、体験しないとその価値が分からない。いわゆるユーザーエクスペリエンスが肝です。体験推進のために、プロモーションでライト版(無料試し読み)の提供や、場合によっては本誌の値引きなどの施策も行っています。
成長を促すエンジンをプロダクト自体に埋め込むということを意味する「グロースハック」というキーワードがあります。そのモデルとしてAARRRがあり、その中でも私は1つの「R」である“リファラル”施策に注目しています。日本語に直すと「紹介」というような意味ですが、今回のgifteeさんとの取り組みも形を変えたリファラルだと考えているんです。プレゼントするわけですから、相手に紹介しているにほかなりません。
このサービス連携が意味するのは、マガストアにとっては売り場が広がり、gifteeさんはコンテンツが増えることで新規会員の獲得や売り上げにつながる。まさにWin-Winな取り組みになっています。
ふとした時に、友人や恋人との待ち合わせ時に、一杯のコーヒーをプレゼントすると同時に、電子雑誌を贈れたらgifteeさんのサービスに厚みが増すし、我々のメリットも大きいという着想に至り、すぐさま太田社長にご提案申し上げ、とんとん拍子に話が進み実現に至りました。こうした他の素晴らしいサービスとの相互メリットある連携を今後もどんどん推し進めていきたいと思っていますが、その第1弾であるこの取り組みは特に大事にしていきたいです。
西尾 ソーシャルギフト、そして電子雑誌の間口を拡げたい、という両社の思いがうまく結実していると。先ほどファミリーマートのギフト券が人気だという話もあったように、「電子雑誌のギフト」の価値を訴求がこの取り組みの見どころとなりそうですね。
太田 そうですね。個人的にどう発展させていきたいかというと、いまはこの中から好きなものを選んでくださいというギフトで、ギフトとしては角がなく丸い。それはそれで利便性は高いですが、ギフトって本来はもっとエッジが効いているべきだと思うんです。
例えばサッカーが好きだから『サッカーダイジェスト』を贈るとか、ビジネスマンに『AERA』を贈るとか。ギフトというのはその人の自己表現なので、「これを読んでほしい」という強いメッセージ性を出せるよう、将来的には個別の作品や、あるいは紙の本も扱えるようになると面白いなと思っています。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.