Adobe DRMに代わる電子透かしが急拡大中

ソーシャルDRMとも呼ばれる電子透かしの採用は欧州で拡大している。DRMは今後どういった方向に進むだろうか。

» 2014年11月18日 11時45分 公開
[Michael Kozlowski,Good e-Reader Blog]
Good E-Reader

 大手出版社や電子書店が、コピー防止対策としてAdobe DRMを捨てて電子透かし技術を採用しはじめている。電子透かしの方が読者にとって、購入した電子書籍を電子書籍リーダー、スマートフォン、タブレットに取り込む作業が簡単だからだ。電子透かしは現在、欧州の出版業界ではスタンダードになっており、北米でもその可能性に注目が集まりつつある。

 ソーシャルDRMとも呼ばれる電子透かしがデータを管理する方法には、2つのフォームがある。1つは(メールアドレスのような)電子書籍購入者の個人情報で、もう1つは販売事業者がユーザーや販売データベースを確認するためだけに使うID番号だ。

 電子透かし市場の主要プレーヤーは数社存在する。2011年からソーシャルDRMを提供しているオランダのBooktreamは、最近世界市場に乗り出している。主要顧客の1つはJ・K・ローリング氏の「ハリー・ポッター」シリーズの専門サイト「Pottermore」だ。オンラインコミュニティーであり、電子書店でもあるPottermoreは、2012年の立ち上げ以来、Booktreamの技術を使っている。

 英大手出版社のHarperColllinsと米電子書籍出版社LibreDigitalはBooktreamの競合である米Digimarcの「Guardian Watermarking for Publishing」を選んだ。同社の違法コピー対策技術は、電子書籍に不可視な透かしを入れるだけでなく、透かし入りのコンテンツがアップロードされていないか監視するため、ネット上を年中無休でクロールしている。

 Digimarcは透かし入りコンテンツを見つけると版元に一意の識別子を送り、版元はこの識別子で取引記録をチェックできる。Digimarc Guardianの透かしは購入者の個人情報は含まれない、アノニマスなデジタルIDだ。

 出版社が電子透かし技術を採用する方法の1つは、違法コピー対策専門企業に頼ることだ。オランダの電子書籍出版社であるeBoekhuisは最近、同国の違法コピー対策技術企業BREINと、コンテンツの違法オンライン共有対策で契約を結び、独自の電子透かしシステムを構築した。

 この独自システム搭載の電子書籍を販売する書店は、事前に書籍購入者のデータをeBoekhuisおよびBREINと直接共有しなければならない。これにより、BREINは電子書籍の違法コピーを追跡する力を持つことになる。

 これは有用ではあるし、違法行為からクライアントを守る必要があるのは分かるが、難しい面もある。オランダの電子書店E-webshopsを経営するカート・ロクス氏は次のように話す。「新しい契約書に署名することになった。この契約書には、BREINがオンラインで電子書籍のコピーを見つけたら、その書籍の購入者についての情報をBREINに直接提供しなければならないと書いてある。書店側は、顧客情報を2〜5年間保持しなければならない。この契約書に署名しなければ、eBoekhuisの電子書籍は販売できない」

 電子透かしを厳格にし過ぎると、読者が自分を犯罪者のように感じてしまうこともある。2014年3月に開店したVerso Booksで電子書籍を購入すると、自分の名前とメールアドレスがカバー画像だけでなく、巻末までの全ページにわたって表示されるのだ。あるユーザーは「何だかずっとストーカーから『おまえがどこに住んでいるか知っている』というメッセージを送りつけられ続けているみたいで、読書に集中できなかった」と書いている。

 電子透かしの最大の欠点(出版社にとっての、であり、読者にとってはむしろ利点)は、友人同士の短時間のファイル共有の阻止はできないところだ。本の貸し借りというのは昔からある読書体験だが、デジタルでは出版社にとっての脅威になる。

 英老舗出版社Little, Brown and CompanyのCEOで英国出版協会の会長も務めるウルスラ・マッケンジー氏は最近、次のように語っている。「DRMは意図的な違法コピーも、DRM解除ソフトをダウンロードするユーザーも阻止できないことは分かっている。重要なのは、出版社や著者にとって重要な主流読者によるファイル共有を阻止するからDRMを支持していることだ」

 電子透かしあるいはソーシャルDRMは欧州での支持が高く、DriveThru、Tor、Baen、Bokusなどの大手企業が電子透かし付きのコンテンツを販売している。オランダでは全出版社の65%が採用済みで、Digimarcによると、2013年には55誌の(電子透かし入りの)雑誌が読まれ、売り上げ300%増に貢献したという。

Copyright© 2015 Good E-Reader. All rights reserved.

(翻訳責任について)
この記事はGood E-Readerとの合意の下でアイティメディアが翻訳したものです。翻訳責任はアイティメディアにあります。記事内容に関するお問い合わせは、アイティメディアまでお願いいたします。