記事で振り返る「2014年の電子書籍市場」(定額読み放題編)

2014年も残すところあと1週間ほど。少し気が早いですが、今週は、2014年の電子書籍市場で起こったトピックの中から、eBook USERが今年その動向を注視していたものを幾つか振り返ってみたいと思います。今回は「定額読み放題」。

» 2014年12月24日 19時15分 公開
[西尾泰三,eBook USER]

 2014年も残すところあと1週間ほど。ということで、少し気が早いですが、今週は、2014年の電子書籍市場で起こったトピックの中から、eBook USERが今年その動向を注視していたものを幾つか振り返ってみたいと思います。

 2014年、eBook USERが注目していた動きは、大きく分けると、「Webマンガ、無料コミックアプリ」「定額読み放題」「電子図書館」「書店連携」「セルフパブリッシング」「権利関連」の6つに分けられます。中には2014年に目立った動きがなかったトピックもありましたが、それぞれの領域で変化を感じる1年になりました。今回は、定額読み放題について振り返ります。

海外ではオールジャンルの読み放題、日本では電子雑誌の読み放題がブレイク

Kindle Unlimited 日本でもいつか? Kindle Unlimited

 海外ではAmazon.comが7月に「Kindle Unlimited」をスタート。月額9.99ドルで電子書籍とオーディオブックが読み放題になるサービスで、その後スペインやイタリアフランスやブラジルでもサービスを開始しています。

 電子書籍のサブスクリプションサービスはKindle Unlimitedのほかにも、海外の有名どころではOysterや、メディアドゥとの戦略的提携を発表しているScribdといったサービスが存在します。これらはどれも特定期間内の使用権を提供するサブスクリプションモデルですが、それぞれのプラットフォームに並ぶ作品は違いがあります。Kindle Unlimitedにはいわゆる米国の大手出版社の作品はほとんど見られず、Oysterなどは大手出版社の協力も得ながらラインアップを拡充、Scribdも中期的にはメディアドゥからのコンテンツ提供を受けたりもして、ラインアップを拡充するとみられます。


 一方日本では、今年「定額読み放題」は主に“電子雑誌”の領域で広がりを見せました。

 その立役者となったのは、NTTドコモの「dマガジン」。月額400円(税別)の“電子雑誌読み放題サービス”として6月にスタートしたdマガジンは、当初70誌以上、今では100誌以上が読めるようになっています。

 このdマガジンはサービス開始から半年ほどで会員数が100万人を突破しており、先日、日本電子出版協会が発表した「第8回 JEPA電子出版アワード」のデジタル・インフラ賞も受賞するなど、今年の定額読み放題の顔となったサービスといってよいでしょう。

 インプレス総合研究所が発表している電子書籍の市場規模では、2014年度の電子書籍市場を1250億円、電子雑誌市場が140億円とそれぞれ予測しています。この市場調査は“購入”金額の合計を市場規模としており、サブスクリプションモデルがどう位置づけられているか不明ですが、仮にこれらも含めるなら、dマガジンは年の売上が50億円近くになると考えられるので、電子雑誌市場の中でかなり大きな割合となっているのかもしれません。

 このほか、パピレスが「電子貸本Renta!」で展開している「女性向け雑誌セレクション」(ビューン提供)や、オプティムが発表した「タブレット使い放題 powered by OPTiM」も雑誌が定額読み放題となるサービスです。オプティムのサービスはPDFベースであるなど割り切った部分もみられますが、雑誌のバックナンバーが読めることに力点を置くなど他社との差別化を図っています。

 こうしたサブスクリプションモデルの読み放題サービスは、ユーザー数と月額料金のかけ算でボトムの売り上げをイメージしやすいですが、一方で、アップセルが難しそうな印象を受けます。それ故か、電子雑誌の領域では横展開を図ることでユーザー数を拡大しようとする動きがいくつか見られます。

 例えば、Fujisan.co.jpを手掛ける富士山マガジンサービスの電子雑誌ソリューションは、ソースネクストが提供する「アプリ超ホーダイ」(月額360円)の中の1つとして追加されましたし、ストアサービスを手掛けるシャープも先日、販促などで電子雑誌などの活用などを図る法人向けソリューションを発表するなどしています。

5月に休刊した『egg』

 2014年の雑誌市場は、漫画誌を除外してみても、講談社の男性向けファッション誌『HUgE』、角川春樹事務所発行の女性向けファッション誌『BLENDA』、ギャル系ファッション誌『egg』や『小悪魔ageha』、渋谷系ギャル男雑誌『men's egg』、1984年創刊のMacworld誌、紙版Computerworldなどが休刊を発表した1年でした。

 一方で、『Boon』『主婦の友』『Olive』などの有名雑誌は復活を果たしています。こうした雑誌がそれぞれの特徴を生かしたユニークな展開をデジタルでも見せるのか、個々の雑誌ではなくそれらのまとまり(群)をユーザーは長期的に支持していくのか。TSUTAYAが始めたAirBookのように、紙の書籍を買うと電子版も無料で得られるサービスと合わせて電子雑誌の動向はターゲット層も含め今後も注目です。

 また、一般書籍の読み放題をみると、BOOK☆WALKERが「BL☆美少年パスポート」「角川文庫プレミアムクラブ」を開始しました。自社やグループ内のコンテンツを読み放題にする動きは少しずつ増えてきていますが、新刊や有名タイトルを含め、幅広いタイトルを定額読み放題で提供するサービスはまだしばらく難しそうだと思わざるを得ません。

 別の回で触れる予定ですが、コミックでは全巻無料で読めるアプリなども2014年は数多く登場しました。個々の雑誌でバックナンバーを含めた形の読み放題サービスが登場するかは、雑誌の権利処理も合わせて考える必要がありますが、そうした課題を乗り越え、個々の雑誌のサブスクリプションサービスが成立し得るのか。2015年はそうした視点でも注目していきたいと思います。

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