「出版社“中抜き”が目的ではない」 作家発の電子書籍「AiR」の思い(2/2 ページ)
出版社なし・作家が集って発行した電子書籍「AiR」の狙いは、「ワクワクしてもらう」こと。「既存のあり方を否定するのではなく、新たな可能性を実践したかった」
App Storeで“17禁”に 「商業分野には完全なる自由な表現空間は存在しない」
販売ルートはApp Storeのみ。App Storeでは、暴力表現や性表現のあるコンテンツが配信拒否(リジェクト)されることがある。万一のリジェクトを危惧し、瀬名さんは「2つあった案のうち、エロティックな内容のものを避けた」など、執筆陣には“防衛策”を採った人もいる。
AiRには戦闘シーンや恋愛を扱ったコンテンツも含まれており、App Storeで「17歳以上のみダウンロード可能」と分類された。解説文には「頻繁/極度 ホラー/恐怖に関するテーマ」「頻繁/極度 成人向け/わいせつなテーマ」「頻繁/極度 性的内容またはヌード」「頻繁/極度 擬似ギャンブル」などおどろおどろしい警告が並ぶ。
堀田さんは、「あそこまでの警告が付きながら審査を通してもらったことを面白く感じた」と余裕の表情だ。「商業でやる限り、完全に自由な表現空間は存在しない」というのが堀田さんの持論だ。「僕がかつていた漫画の世界、特にギャグ漫画の領域は、テキスト表現よりはるかに規制が厳しかった。審査があること自体にに違和感はなく、もしその基準が納得いかなければ違うフィールドを求めるだけだと思っている」
3500ダウンロードで最低採算ラインクリア
出版社が出す紙の書籍は、初版分がまったく売れなくても刷り部数分の印税を著者に支払い、そのリスクは出版社が負担するが、AiRは、売れた分だけの収入を著者に分配する「実売印税」。1冊も売れなければゼロ、1000冊売れれば1000冊分の収入を、参加者で分配する。
「製作スタッフと書き手が共同で1つのプロジェクトを立ち上げ、その成果を全員で分配する仕組み。出版の常識からすればちょっと過激かもしれないが、次世代のモデルの1つではないか」と堀田さんは自負する。
売り上げの40%が著者分。30%がApp Storeの登録料、30%がデザイナーや編集者の取り分だ。AiRの場合、参加者の労力に合った報酬を支払うには、先行版(350円)で最低3500ダウンロード必要。5000ダウンロードあれば、紙の書籍として出版社から出した場合と同程度となるという。「採算分岐点は紙の書籍より劇的に低い」
販売部数は非公開。発売から1週間弱経った23日時点で、「最低ラインはクリアし、ビジネスとしての目標は達成しつつある、というところ」。7月には一部コンテンツを追加した正式版を600円で発売し、さらに伸ばしていきたいという。
Twitter「@AiRlogue」で読者とコミュニケーションし、メールでも問い合わせや感想も受け付けている。「さまざまな反響をもらっているが、特に印象的なのは『自分も参加したい』というご意見。こうした声を聞くと、ある種の閉塞感に風を通したような企画と受け止めていただいているのを感じる」
「もし、今のテレビ番組や音楽、流行などがどれも『どこか違う』と感じている人に、『こんなのが読みたかったんだ』思ってもらえたらうれしい」
第2弾など今後の展開は「まったくの未定」という。「まずはAiRを成功させることに集中したい」
「ニートマガジン作りたい」
堀田さんは自称「ニート」だ。定職もなく「家でゴロゴロしている」が、「僕のようなニートでもこんなことができるというのが電子書籍の魅力」。AiRのような仕組みがうまくいなら、ニートが作ってニートが売る。ニートのための電子書籍「ニートマガジン」だってできるかもしれない。
「今までの出版業界は、かつての自動車産業やゼネコンのように、出版社、印刷会社、取次、書店と、すそ野の広い雇用を実現してきたが、そうした幸福な時代は終わりを告げた。だが紙というコストとリスクから解放された電子書籍なら、数人で作れば2000〜3000部でも成立する。小さいけど活発に活動しているユニットが日本中にポカポカたくさんある。そんな世の中になればハッピーエンドだと思う」
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