「元素図鑑」はハリー・ポッターの世界を目指してつくられた:「元素図鑑」作者インタビュー(前編)(4/4 ページ)
一見すると退屈な周期表を、まるで魔法のように魅力的なコンテンツに変えたiPad向け電子書籍「元素図鑑」。その開発者であるセオドア・グレイ氏に話を聞いた。
電子出版こそが本の未来
――実際にアプリを発売してみて、成果はどうでしたか?
グレイ 紙版の元素図鑑は30ドルしますが、iPad版は13.99ドルで発売しました。多くのiPhone用アプリケーションと比べると、高価な印象がありますが、なぜかAppStoreでは、ただのプログラムよりは本のほうが高く売れるという傾向があります。多くのiPadユーザーが、本であれば、多少、多めにお金を払っても仕方がないと思ってくれているようです。
大方の電子書籍は12.99ドルほどですが、我々は彼らよりはいい仕事をしている、という自負があったので、それより1ドルだけ高い13.99ドルで発売しました。
そして驚くように売れました。GoogleのAdSense広告で5年以上にわたって宣伝してきたPeriodictable.comの総売り上げを、iPad版の初日の売り上げが上回ってしまったのです。
紙版の元素図鑑は、倍以上の30ドルの値段がするにもかかわらず、発売以来9万部ほど売れ、化学書としてはかなりのベストセラーです。今年の9月には日本語を含む12カ国語版が発売され、累計18万部ほど刷ることになりますが、それでも利益で比較するとiPad版が、数倍上回ることになりそうです。
理由は簡単で、紙の本は作るのにコストがかかりすぎるからです。紙の本の値段は30ドルほどもしますが、そこから得られる印税はわずかなものです。まず印刷代がかかります。また、印刷された大量の本はまず倉庫に納められますが、売れなかった場合には、そこに大量の在庫として残るわけで、これにもコストがかかります。
これに対してiPad版は価格が約半分の15ドルです。ここからアップル社が売り上げの30%を持って行きますが、これは本当にわずかなお金です。10ドル以上がまるまる利益として入るのです。
紙の本の出版社のビジネスと、アプリケーション形式の本の出版社のビジネスを比べると、後者のほうがよほど魅力的に見えます。最初にかかる費用が少ない点も大きな魅力でしょう。私は電子出版こそが本の未来だと思っています。
(後編に続く)
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