店舗内にある裁断済みのコミックとスキャナーを有料で使えるサービスを提供する「自炊の森」は、申し出のあった著作権者に対し、本を業務上で使用する許諾を得る対価として、1冊当たり定価の10%(印税相当)を支払う用意があると発表した。
自炊の森は2010年12月に東京・秋葉原でプレオープン。ユーザーが電子化したい書籍を持ち込むと、その場で裁断・スキャンでき、データを持ち帰ることができる「持ち込み自炊サービス」と、店内に置かれた裁断済みのコミックなどをスキャンしてデータを持ち帰る「在庫本自炊サービス」を提供していた。
しかし、特に後者は著作権法で規定された私的複製の範囲を超えるのではないかという懸念や、著作権者に対する利益還元が行われないことなどが指摘され、同月31日にはサービスを一時休止していた。
その後、店内の裁断済み書籍の利用に関して課金は行わず、スキャンに必要な機材一式(同社ではスキャンブースと呼んでいる)を貸し出す方式に変更し、2011年1月にサービスを再開していた。
同社のスタンスとしては、ユーザーが私的利用のために私的複製する“環境”を提供しているだけで、複製の主体は利用者であること、そして、著作権法の附則5条の2で「当分の間、30条1項1号の『自動複製機器』には、『文書又は図画の複製に供するもの』は含まないものとする」という規定から、複製権の侵害には当たらないとしている。これは、TSUTAYA横浜みなとみらい店のサービスと同様のスタンスだといえる。
こうした動きの中、国内の主要な出版社が参加する日本書籍出版協会(書協)は、著作権法違反の疑いがあるとして、近くスキャン代行サービス業者に警告文を送る方針を決めたとしている。しかし、eBook USERの隔週連載「eBook Forecast」では「スキャン代行業者の中には、日本書籍出版協会に対して著者への利益還元が図れるような提案を行っているところもあると聞きますが、これらは書協に取り合ってもらっていない」とある。自炊の森が今回発表した著作権者に対する利益還元のモデルは、比較的旺盛な需要を背景に、出版社に歩み寄りを求めたのだと考えることができる。
ただ、発表には不明確な点も多い。「業務上で使用」という範囲が不明確なためだ。恐らく、店頭に置かれた裁断済みの本をユーザーに合法的にスキャンさせるための対価と考えられるが、では、スキャンされるたびに対価が発生するのか、それとも包括的な許諾対価として1回だけ対価を支払うのかは読み取れない。
出版社はこの発表にどのような反応を見せるのだろうか。
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