電子書籍フォーマット「EPUB 3」で漫画は変わるの?:イーストに聞いてみた(3/3 ページ)
国内の電子書籍市場に大きな変化をもたらすであろう「EPUB 3」。このEPUB 3の活用が期待されるのが「漫画」である。現役漫画家の座談会を踏まえ、EPUB 3と漫画との関わり方がどのようになっていくのかを、前回に引き続き、EPUB 3の規格策定に当たって推進役となったイーストに聞いた。
スマートフォンのような汎用デバイスを中心に普及していくという予感はある
―― EPUB 3の仕様が策定されて、これからは普及に向けての専用端末やビューワ側の対応がポイントになってくると思うのですが、その辺りはいかがですか。
高瀬 PCやスマートフォンの場合、たまたまEPUBの無料の閲覧ソフトがあったから手元のデバイスに入れてみて、それでこういうコンテンツがいるなという形で、だんだん浸透していくのかなと。専用端末は、いまはまだちょっと分からないですね。
加藤 今後考えられるシナリオとしては、スマートフォンが一般的になってきて、比率が50%を超えたときに、EPUBという誰でも使えるプラットホームがあれば、コンテンツもEPUBで作られるし、リーダーもみんな作るよっていう状況になるかなと。専用端末よりも、スマートフォンのような汎用デバイスを中心に普及していくのかなという予感はあります。
―― 今スマホでEPUBを読もうと思ったら、Stanzaなどがありますけど、これはまだEPUB 3には対応していないですよね。
高瀬 してないですね。
加藤 先日Adobe系のDatalogicsさんていう会社が「DL Reader」というiPad用のEPUBリーダーを出しましたが、今後どんどんそういうのが出てくると思います。ただ、Androidは基本的に縦書きという概念がシステムにまったく存在しないので、リーダーを作ろうとすると技術的に難しいものがあるんですね。そこはOS側でなんとかしろよという話も、これからGoogleさんに言っていくつもりです。
―― GoogleはEPUBに対してどういうスタンスなんでしょう。
高瀬 去年の7月にIDPFの会員企業になりました。GoogleとAppleがほぼ同じタイミングで加盟しています。で、ガース・コンボイというEPUBの中心人物がいたんですけど、Googleはその人の会社を買収しました。EPUB策定の中心人物が、ある日いきなりGoogleの中の人になったわけです。Googleはあまり積極的にEPUBに対してどうのこうの言ってこなかったんですが、いつのまにか中心人物の会社を買収して、影響力を保持したという。
―― (笑)。例えばAppleがEPUB 3を採用してるから、Googleは違うことをやるぞとか、そういうことにはならないということですね。
加藤 ならないでしょうね。
―― 今回仕様がある程度固まったわけですが、出版社やそのほかのステークホルダーといわれる人たちがEPUBを使うようになるまで、あと何カ月ぐらい必要になると思いますか。
加藤 今年中にはかなり使われ始めるんじゃないかと思いますね。
高瀬 でも早くて10月以降かな。ビューワにせよ制作ツールにせよ、作り方を理解してもらうラーニングの時間が必要になりますし。EPUBに対してあまりネガティブなことは言いたくありませんが、最低限の時間はどうしても掛かると思います。
―― 日本市場でスタンダードになり得そうなEPUBのビューワは何だとお考えですか。
高瀬 まずはiBooksじゃないですかね。日本版のiBookstoreがオープンしたら、かなり存在感が出てくるでしょうね。
―― ACCESSさんも、(「i文庫」の開発元である)Nagisaさんと一緒にEPUBのビューワを作るんだとおっしゃっていましたが、そういう動きが各所で起こってくるということになりそうですね。そうなるとビューワごとに細部の実装がバラバラになって、EPUBって世界標準って言ってるわりにはおかしくない? ていう話にならないかなという不安もありますが。
高瀬 弊社を開放して行っている仕様の検討会にはACCESSさんも参加されていて、CSSのここはどうするという話し合いをしたりといったパイプがありますので、ACCESSさんに限らず各社がバラバラの方向を突っ走るようなことはないと思います。
加藤 ACCESSさんはすごくがんばってやってらっしゃるんですよね。ACCESSさんのエンジンはもうこれからはWebKitだねっていう話になってきているそうですし。
高瀬 去年i文庫をEPUB 2に対応させるって話があったのですが、EPUB 3を待ってからという判断で、いったん中止になったんですね。それが本格的に動き出したんじゃないでしょうかね。わたしもi文庫は愛用していて、これでEPUBを読めたらなと前々から思っていたので、個人的には非常に楽しみにしています。
利益を考えずに動いているので、業界の皆さんが協力してくださっている
―― 最後に、今回のEPUB 3の策定に当たってのイーストさんの立場というのを少し。一般の読者からすると、イーストさんがどういう立場なのか、たぶん分からないと思うんですよ。JEPAの副会長でもある御社の下川さんがEPUB研究会を立ち上げられたのが、発端ということですよね。
加藤 ええ。うちの下川が「どげんかせんといかん」みたいな感じで、何かしなきゃいけないって始めたのが原動力になっています。下川は突っ走るタイプなので、あまり利益を考えずに動いていて、それは会社として悪い面でもあるんですが、それ故に業界の皆さんが協力してくださっている雰囲気はありますね。
高瀬 採算ベースじゃなくて、モチベーションがベースの、非営利的な活動ですよね。
加藤 AppleさんもAdobeさんも社益を考えてやっているので、どうしてもそういう発言が出ちゃうんですけど。うちはそういうのが基本的にないという(笑)。
高瀬 だからもうけられないんですね(笑)。何か考えなきゃいけないですけど。
―― なるほど。
加藤 というところで、うまく調整していこうというふうに努力してるというのがわれわれの立場です。
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