ビューワ開発者から見た、電子書籍業界のいま(後編):電子書籍覆面座談会(3/3 ページ)
電子書籍において、ビューワの操作性が読書体験に及ぼす影響は大きい。ユーザーとコンテンツの出会いを演出するのがビューワ開発者の力量だ。電子書籍ビューワの開発者が感じる電子書籍市場の現状とは?
1年でこれだけ変わったら、むしろ十分
―― 最後に、ビューワに限らず、電子書籍界隈で最近気になっていることがあれば。
T これからの新しいサービスですが、楽天の「Raboo」は、すでに楽天市場でECとしての実績がある分、ほかの電子書籍ストアとは違うかなと思います。楽天で買い物しました、楽天スーパーポイントが500ポイントある、じゃあ電子書籍でも買おうかみたいな。配送料も要らないですし、そういう強みがありますよね。
X 僕は、日本に来るといわれていたAmazonやGoogleに何の動きもないのが「まだ来ない」なのか、それともこのままスルーされてしまうのかが気になっています。もしかして、日本という狭い市場に対してコストが合わない、やるだけの価値がないと判断されたのかなと。
T ある会社で電子書籍のコンテンツ制作をやっている人から、彼らから打診があってテストコンテンツを作ったという話は聞きましたね。
X ええ、いろいろなところに打診は行ってるようですが、Goしないというところがやばいのかな、という気がしますね。
T Amazonは流通から課金から何から全部抑えているわけで、普通に考えると出版社がちょこちょこやったところで勝ち目はないので、出版社はあれを使って商売するしかないのかなと思います。特にKindleはマルチプラットフォームでやっていますから、あれに勝つのは難しいですよ。
ただ、日本の出版や流通は複雑で、出版社に話を持って行っても、コンテンツがそろうわけじゃなかったりもしますし。本来は出版権であって著作権ではないはずが、出版社が全部握っている。そういう日本特有の構造があるから「面倒だな」ってなると思うんですよね。
X 出版社としては、黒船が来たので身を潜めて「過ぎ去れ」と思ってるんでしょうけどね。たいていの出版社は電子書籍なんか望んじゃいないですからね。望んじゃいないものはやりたくないですよね。
T いままでの仕組みと違うものになっていくと、既得利権を持つ方はどうしても抵抗しますよね。ある印刷会社は、極端な話、既存の印刷工場などを縮小していきたいらしいんですけど、電子を全面的に推進して人を切れるかというとそうもいかないので、そこはソフトランディングしていくしかないと。
―― なるほど。
T ただ出版自体が下り坂であるのは間違いないので、新たな媒体ができたつもりでやっていくしかないと思います。ある総合書籍ストアは、電子書籍サービス側でユーザー情報を取りながら紙の本と電子書籍で総合的にマネタイズしていくという話をされていて、それはそれで正しいと思いました。
ただ実際は、パブーのような新興勢力がやるか、Amazonのような大きいところがやるか、そのどちらかだと思います。特にAmazonは本屋であると同時にIT企業なので、あそこまでできるという。ただ、どんなにいいサービスを作っても、コンテンツを集めないことには誰も振り向いてくれないので。問題はそこですよね。
X 構図はこれからいろいろ変わってくるでしょうが、いきなり勢力図が変わることはないでしょうし、焦らずもうちょっとゆっくり見ていても構わないんじゃないかなと。「1年たってこれだけしか変わらなかった」ではなく「1年でこれだけ変わったら十分じゃない?」という。紙の印刷を始めて何十年、何百年ってやってきたわけですからね。Amazonだって、いきなりKindleをバーンと売り出したわけじゃなくて、それまでに書籍通販として経験を積んできたからできたわけで。
―― 確かに、総括を急ぎたがっているような感はあります。
T 電子書籍ビジネスって、例えば電子書庫パブリやeBookJapanなどは2000年ぐらいから、パピレスは1995年にサービスインしているわけで、別に去年はじめて出てきたわけじゃないですか。出版社からするとXMDFや.bookでいままで培った運用フローがあるので、当面はそれでモノを出していくしかないんですね。だからこそ角川とかはひとまず.bookでやろうとなったわけで。
要するに今現在、できる運用フローはそれだけなわけです。EPUB 3も研究はしているでしょうが、今すぐ始められる状態じゃないわけで、その辺りが実際に立ち上がるのは来年、再来年といったところではないでしょうか。
―― 今年来年といわず、もう少し長いスパンで見ていく必要があるということですね。今日はありがとうございました。
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