電子教科書――何が普及を妨げるのか?
紙の教科書は現在、機能強化された電子教科書に道を譲り、少しずつ「過去のモノ」になろうとしている。しかも世界中で。しかし、学生に電子教科書を実際に使ってもらうにはまだ各所の意識改革が欠かせないようだ。
紙の教科書は現在、機能強化された電子教科書に道を譲り、少しずつ「過去のモノ」になろうとしている。しかも世界中で――。
韓国はすでに公立学校と高等教育機関ですべての教科書を電子化する取り組みを行なっているし、インドでは公立学校の生徒をターゲットに、最低限の機能を持つ非常に低コストのタブレットを僻地でも展開しているとされる(編注:山谷剛史氏の現地ルポも併せてご覧頂きたい)。では、Book Industry Study Group(BISG)が米国の高等教育機関の学生のわずか11%しか電子教科書レンタルサービスを利用していないことを見出したのはなぜだろうか。米国の大学で調査対象となった学生の75%が電子教科書よりも紙の教科書を好むのはなぜなのだろうか。
「出版業界のあらゆる領域と同じく、大学の教科書市場は指数関数的変化を遂げている」とBowkerの調査リポートの中でケリー・ギャラガー氏は説明する。同氏はBISGの「高等教育機関のコンテンツに対する学生の姿勢」調査に協力したBowker Market Resarchの出版サービス担当副社長だ。「強化された学習体験について、学生の期待とニーズを超えることはもちろん、それらを取り込み続けていくことで、変化し続ける市場の理解に時間を掛ける企業には大きな利益がもたらされ続けるだろう」。
調査リポートの第2部で、ギャラガー氏は大学レベルの電子教科書に関する展望全体を分かりにくいと説明する。一方で、学生たちは教科書の購入による利益を期待しており、多くの学生は授業が終わると教科書を売るために版の古い教科書や使用済み教科書を購入するという行動を取る。同時に、調査に回答した学生の46%がiPadのようなタブレット上で自分の教科書を所有することに少なからず関心を示しており、学生の15%がタブレット端末を所有していることを考慮すると、なぜ、すでに入手できる電子教科書を利用しないのかという疑問が浮かび上がってくる。
学生に電子教科書を実際に使ってもらうには幾つかの要素が鍵を握っている。教科書が単に電子教科書となってタブレットやスマートフォン向けに提供されるだけなら、ユーザーにとっての付加価値はどこに存在するだろうか。紙の教科書を超える付加価値を提供しない電子教科書に学生が正規価格を支払わなければならないのはなぜだろうか。テクノロジーに精通した学生は埋め込み動画やフルカラーの図版、検索および注釈の容易さ、教科書を通じてほかの学生や教授との交流が可能なオンラインソーシャル読書プラットフォームといった電子教科書の可能性を意識している。電子教科書の優位性を提供しない電子教科書に正規価格を支払うだろうか。
また、教科書出版社は、教科書出版で最も費用が掛かるのは印刷される紙ではなく教科書を執筆する博士課程レベルの研究者チームの人件費だと主張し、不自然なほど高額だと受け取られている電子教科書価格の維持を図る考えを表明している。学生が使用済み教科書を購入したり後で教科書を売ったりできないことを知りつつ、真新しい紙の教科書を購入するかのように電子教科書に正規価格を支払うのであれば、電子教科書へ向かうインセンティブはどこにあるだろうか。
さらに大きな規模で電子教科書へ移行するために、教科書一般に対するわれわれの現在の姿勢のハードルは克服されなければならないだろう。BISGは、学生が授業に向けてどこで何を買うのかということになると、主な懸念点の1つは教科書の価格であり続けることを明確に示したが、学生が電子書籍でできるとすでに知っている要素をすべて電子教科書に盛り込むことが、電子教科書を利用する学生を増加させる唯一の手段であることを出版社は理解する必要がある。
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