ファイルスキャンサービスの1DollarScan、著作権侵害への懸念を喚起
紙書籍の電子化をユーザーに代わって行うファイルスキャンサービス。日本では物議を醸したが、フェアユース規定がある米国で同サービスを展開する1DollarScanはどうとらえられているのだろう。
サンノゼ拠点でファイルスキャンサービスを提供する企業、1DollarScanのコンセプトは単純で実際的だ。紙の資料を同社に送付し、ユーザー同意書にサインし支払いを済ませると、同社は送付された資料のPDFファイルを送り返す。捨てるわけにはいかない大量の書類、電子化される前の新聞や雑誌のバックナンバー、あるいは可読性の低い資料をよりユーザーフレンドリーで見やすいPDFファイルに変換する必要があるユーザーにとっては理想的なサービスだ。
しかし、米作家団体The Authors Guildは1DollarScanが、クラウド上でユーザーが紙の資料の電子版にアクセスできるEvernoteと新たに提携したことについて著作権侵害の可能性を懸念する表明を出している。PDFファイルは共有できないと定めた1DollarScanの契約書が存在するとしても――電子書籍の海賊版作成者がルールに従わないのは明白だが――、サービスを利用するユーザーがファイル共有するリスクは存在する(ファイルスキャンサービスを実際に利用しなくても、ハリー・ポッターシリーズの著作権を侵害するのがどれほど容易か想像してみてほしい)。
通常、消費者が紙版書籍を電子化目的で1DollarScanに郵送すると、作品に著作権が設定されている旨の説明付きで書籍を返却するというのが常識だろう。しかし、このケースにそれは当てはまらない。1DollartScanはフェアユース規定の下で営業を行なっており、消費者は書籍の購入価格の一部として自己使用目的に限り紙版以外で作品を利用する権利を持つと発言している。クラウドベースのストレージサービスが存在する今日にあって、著者の懸念は根強いようだ。
Publisher’s WeeklyがThe Authors Guildの代表者、ポール・エイケン氏と1DollarScanのCEO、中野浩司氏にこの問題へのコメントを求めて取材を行なっている。全文はこちらで。
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