スキャン代行訴訟、「実質的勝訴」として作家が訴え取り下げ
スキャン代行事業は著作権侵害行為だと作家7名が原告となってスキャン代行業者2社に行為の差し止めを求めていた訴訟は、業者が解散を選択したため、原告側が実質的勝訴として訴えを取り下げた。
スキャン代行事業は著作権侵害行為であるとして、浅田次郎氏、大沢在昌氏、永井豪氏、林真理子氏、東野圭吾氏、弘兼憲史氏、武論尊氏の7名が原告となってスキャン代行業者2社に対し原告作品の複製権を侵害しないよう行為の差し止めを求めていた訴訟は、既報の通り業者が廃業したため原告側が訴えを取り下げた。
この訴訟は、スキャン代行事業を手掛けていたスキャン×BANKと愛宕に対し2011年12月に提訴されたもの。このうち愛宕は4月に訴えを認める「認諾」を表明しており、残るスキャン×BANKの動向が注目されていた。
書籍を裁断・スキャンしスマートフォンやPC、タブレットなどで大量に持ち歩けるデータにすること行為を俗に“自炊”と呼ぶ。これをユーザーに代わって行う「スキャン代行業者」(自炊業者)が2010年ごろから人気を博し、多くの業者がサービスを手掛けるようになっていた。
しかし一方で、それは著作物の私的使用の範囲を超える、すなわち著作権法違反であるとする版元側は2011年9月、出版社7社、作家・漫画家122人の連名でスキャン代行業者に対しまず質問状を送付。これに対し多くの業者が事業を見直す方向と回答したのに対し、上述の2社は「今後も依頼があればスキャン事業を行う」としていたが、その2社を訴権を持つ作家が矢面に立つ形で提訴していた。
スキャン×BANKは2012年2月初め、スキャン代行サービスは今後行わないと発表していた。今回訴訟終結として集英社から出ているプレスリリースによると、スキャン×BANKは2012年1月末でスキャン代行事業を廃止、スキャンにかかわる機器を廃棄事業者に依頼して廃棄済みであることを証拠とともに裁判所に提出。さらに会社自体も解散すると宣言していた。そして5月15日に解散、解散登記も確認されたことで原告側は当初の目的は達成できたと判断。作家側の実質勝訴として訴訟を取り下げることにしたという。
結果として原告側の実質勝訴ということもできるが、「スキャン代行業務」が著作権侵害かどうかについて裁判所の判断、つまり判例が出ないまま終わってしまったことは、問題の本質はグレーなままだともいえる。
関連記事
- 「自炊」代行訴訟が終結 業者が廃業、作家側訴え取り下げ
自炊代行業者に対し弘兼憲史さんや東野圭吾さんら7人が差し止めを求めた訴訟は、業者が廃業したため作家側が訴えを取り下げ、終結。作家側は「実質的勝訴は当然の結果」とコメント。 - 提訴されていたスキャン代行業者が訴えを認める「認諾」を選択
スキャン代行業務が著作権侵害だとする裁判で、提訴されていた業者の1社である愛宕は、「権利の濫用」としながらも、訴えを認める「認諾」を表明した。 - スキャン×BANK、スキャン代行サービスを終了へ
スキャン代行業者で、現在著作権者から提訴されている「スキャン×BANK」は、スキャン代行サービスの中止を発表した。 - 「スキャン代行」はなぜいけない?
書籍のスキャンを代行する業者に対して、7人の作家が原告となって差し止め請求を行ったことにさまざまなコメントが飛び交っている。果たして、今回の告訴はユーザーの事情や感情を無視し、さらには電子書籍の普及に背を向けるものなのか? 福井健策弁護士に行ったインタビューから、問題の本質をあぶり出してみよう。 - スキャン代行業者提訴で作家7名はかく語りき
東野圭吾氏、弘兼憲史氏など著名な作家・漫画家7名が、スキャン代行業者2社を提訴した問題。記者会見の場で7名は何を語ったのか。紙への思い、裁断本を含めた違法コピーへの憤り、出版業界の現状や未来など、各人がそれぞれの心情を吐露した内容をまとめた。 - 東野圭吾さんら作家7名がスキャン代行業者2社を提訴――その意図
スキャン代行業者に対して著作権者がとうとうアクションを起こした――浅田次郎氏、大沢在昌氏、永井豪氏、林真理子氏、東野圭吾氏、弘兼憲史氏、武論尊氏の7名を原告とし、スキャン代行業者2社に対し原告作品の複製権を侵害しないよう行為の差し止めを求める提訴が東京地方裁判所に提起された。 - 出版社からスキャン代行業者への質問状を全文公開、潮目は変わるか
「出版社7社、作家・漫画家122人が『自炊業者』に質問状」が話題となっている。ここでは、スキャン代行業者に送付された質問状の内容と、今後の動きについて考える。 - 自炊業者の回答、86%が「スキャン事業は行わない」など
スキャン代行業者(自炊業者)に対し、出版社7社と作家・漫画家・漫画原作者などが連名で質問状を送付した件で、半数程度から回答が得られた。 - 自炊代行は下火に? 自炊代行ドットコムが業態刷新
版元や作家などから厳しい目を向けられている書籍のスキャン代行サービス。業者の中には自炊代行ドットコムのように業態を刷新するところも出てきた。 - 出版社7社、作家・漫画家122人が「自炊業者」に質問状
書籍の電子化をユーザーに代わって行うスキャン代行業者(自炊業者)に対し、出版社7社と作家・漫画家・漫画原作者などが連名で質問状を発送した。 - 「自炊の森」は「違法とは言い切れない」 “自炊”めぐる業態に法的評価は未確定
所有する本や漫画を電子化する「自炊」の代行業者や店舗が現れているが、新手の業態に法的な評価は確定していない。「自炊の森」に出版界は反発するが、「違法とは言い切れない」と頭を抱える。 - TSUTAYAみなとみらい店で「BOOK ON DEMAND」を試してみた
裁断機とスキャナーを1冊当たり300円で利用できるサービスが、TSUTAYA 横浜みなとみらい店で試験的に提供が開始された。早速足を運んで試してみた。 - TSUTAYAで裁断機とスキャナー貸し出し 1冊300円で“自炊”可能に
「TSUTAYA」の2店舗で裁断機とスキャナーの貸し出しサービス。自分の書籍をデータ化する“自炊”が店頭でできる。 - 三省堂書店オンデマンドで「本のATM」を体感してみた
三省堂書店が開始した店頭オンデマンド出版サービス「三省堂書店オンデマンド」。注文から10分ほどで製本された本ができあがるこのサービスを実際に試してみた。 - スキャン代行業者の実力を比較する(前編)
電子書籍の普及に伴って台頭してきた「スキャン代行サービス」。この代行サービスを取り扱う短期連載の第2回は、実際に各業者に発注し、サービスの内容を具体的に検証する。 - スキャン代行業者の実力を比較する(後編)
電子書籍の普及に伴って台頭してきた「スキャン代行サービス」。この代行サービスを取り扱う短期連載の第3回は、実際に各業者に発注し、サービスの内容を具体的に検証する「比較編」の後編をお届けする。 - スキャン代行サービスの現状と内容比較
電子書籍の普及に伴って台頭してきた「スキャン代行サービス」。この代行サービスを取り扱う短期連載の第1回は、サービスの現状をまとめつつ、各社サービスの内容を比較する。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.