経団連が「電子出版権」の新設を提言
経団連が現行の著作権法にある「出版権」の基本的な考え方を電子書籍に適用した「電子出版権」(仮称)の新設に関する提言を公開。「著作隣接権」には疑問を呈した。
日本経済団体連合会(経団連)は2月19日、電子書籍の流通と利用の促進に向けた「電子出版権」(仮称)の新設に関する提言を公開した。
この電子出版権は、現行の著作権法にある「出版権(複製権)」の基本的な考え方を電子書籍に適用したもので、著作権者が有する「複製権」と「自動公衆送信する権利」を基に構成されている。要件としては以下のようなものが挙げられている。
電子出版権(仮称)の要件
- 電子書籍を発行する者に対して付与される
- 著作権者との「電子出版権設定契約」の締結により発生する
- 著作物をデジタル的に複製して自動公衆送信する権利を専有させ、その効果として差止請求権を有することを可能とする
- 他人への再利用許諾(サブライセンス)を可能とする
提言意図としては海賊版などインターネット上で起こっている著作権侵害に対してのもの。現行、それらを排除する権限は著作権法に存在しない。本丸としては著作権法の改正によって独占的ライセンシー(独占的な契約を結んだ会社)一般に差止請求権を付与するのが著作物関連ビジネス全般にとって望ましいとしながらも、それが短期的に実現することは難しいという認識を示し、電子書籍ビジネスにおいては、まずは電子書籍を発行する者に、違法電子書籍に対抗できる権利を与えることが効果的だと説明している。
この電子出版権は、紙媒体を出版する既存の出版社(者)だけでなく、電子書籍を発行する者に対して付与されるが、著作権者と「電子出版権設定契約」を締結することで初めて行使できる権利となっているのが特徴。提言の中で、日本の出版業界は電子書籍以前の問題として、著作権者と出版者の間に書面による契約を取り交わす習慣が十分に確立されていないことを指摘、グローバルに通用するビジネスモデルとして契約締結の重要性を説いている。
出版業界から導入の声が挙がっている「著作隣接権」については、諸外国で著作隣接権が認められている国はほとんど存在していないこと、権利侵害対策としての実効性への疑問、また、出版者(社)に自動的に付与される著作権と並存した独立の権利だが、第一に守られるべき著作権者の意思が最優先されない恐れがあるなど副作用が大きいとしており、こうした提案を一部関係者によって拙速に進めることは経団連として賛成しかねるとしている。
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